プロジェクトは「寿命を投資する」もの。漫画家・香山哲さんが語る「計画の流儀」(後編)
『ベルリンうわの空』などの作品で知られる漫画家の香山哲さんに、プロジェクトを始める前の「計画」の重要性とポイントについて伺うインタビュー。漫画連載を計画するプロセスを教えていただいた前編に続き、後編では「計画の心得」がどのように会社員の仕事に生かせそうかを、香山さんに語っていただきました。
※前・後編の後編です(↓前編はこちら)
漫画家・香山哲さんが語る、作品を「計画」する技術。良い作品をどう生み出し、どう育てるか - ミーツキャリアbyマイナビ転職( https://meetscareer.tenshoku.mynavi.jp/entry/20251111-kayama )
香山哲(かやま・てつ)さん。漫画家。1982年、兵庫県生まれ。信州大学生物科学科卒業後、神戸大学大学院医学系研究科修士課程中退。2013年、『香山哲のファウスト1』で第17回文化庁メディア芸術祭マンガ部門審査員推薦作品に入選。2017年、『心のクウェート』でアングレーム国際漫画祭オルタナティブ部門にノミネート。2021年、不可思議移住エッセイマンガ『ベルリンうわの空』が『このマンガがすごい! 2021』(宝島社)オトコ編10位にランクイン、第24回文化庁メディア芸術祭マンガ部門審査員会推薦作品に入選するなど、大きな話題に。著書に『香山哲のプロジェクト発酵記』『レタイトナイト』『スノードーム』など。
そのプロジェクトは「寿命を使う」に値するか?
──前編では、香山さんが漫画連載を計画する際のプロセスをご紹介いただきました。漫画制作における「計画」と会社員の仕事における「計画」には、どのような共通点があると思いますか?
香山哲さん(以下、香山):ここまでのお話でも意外と共通点は多いと感じてもらえたんじゃないかなと思いますが、根本的な共通点を挙げるなら、自分の「寿命」を使うということでしょうか。
──寿命を使う、ですか。
香山:はい。資産と呼べるようなものが少ない若いビジネスパーソンにとって、自分の時間は唯一の資産です。ちょっと貧乏くさいかもしれませんが、「1日8時間を使って、このプロジェクトに寿命を投資している」という気持ちで真剣に取り組むと、仕事の計画も立てやすいのではないかと思います。
──若手のビジネスパーソンがプロジェクトを推進する場合、自分の「やりたいこと」よりも「やらなくてはいけないこと」が優先されるケースも多いと思います。それを踏まえたうえで、計画のプロセスにおいて意識すべきことはありますか?
香山:たしかに会社の中で振られる仕事は「やらなくてはいけないこと」なのですが、それを部分的に「やりたいこと」に変えることもできると思います。
例えば、A・B・Cというやらなくてはいけない3つのプロジェクトがあるとして、Bのプロジェクトは海外の取引先との仕事だとしたら、「このプロジェクトを使って英語を勉強しよう」とか、「ここでの実績を活用して転職を検討しよう」といったことをしたたかに計画してもいい。自分がそのプロジェクトに関わる意義を吟味して、会社の目的を満たしつつ、密かに自分の目的も満たすことを意識するといいんじゃないかと思います。
あとは、他の企業や業界内で自分を助けてくれそうな人を見つけたら、積極的にメールなどでやりとりをしてみてもいいのかなと。人付き合いに苦手意識を抱いている人でも、仕事の話なら楽しめたり、仕事をきっかけに人と仲良くなれたりすることって多いですよね。
それに、企業によるとは思いますが、「このプロジェクトに関しては〇〇社の〇〇さんが詳しそうなので、一度話を聞いてきてもいいですか?」と聞かれたら、快くOKする上司も少なくないんじゃないかと思います。いろいろな人を仲間にする意識で動けると、いずれ自分が働くことのできるフィールドが広がるかもしれません。
持たざる者にとって、計画とは「あがき」である
──新卒や転職したてのビジネスパーソンであれば、仕事の中心はルーティンワークで、独自性や個性を満足に発揮できない状況であることも多いと思います。そうした環境でも「計画」は役に立つと思いますか?
香山:そう思います。僕は計画をある種の「あがき」だと思っていて、そういう立場の人にこそ、「あがき」の姿勢があったほうがいい。分かりやすい例で言うなら、「いつまでにここから脱出する」と考えておくのも立派な計画です。「このルーティンワークを〇〇本こなすまでにもう1ステップ上の業務を任されるようになる」とか「この仕事に1年取り組む間に100万円貯める」とか。実際、僕は20代の頃は働きながら大学の奨学金を返していたので、100万円の貯金を目標にしていました。
──計画するのは、必ずしもプロジェクトに関連することだけでなくてもいいんですね。
香山:はい。あとは、できる範囲でストレスの少ない環境をつくろうと計画することも大切かもしれません。例えば、顔も見たくないような人が自分の上司になってしまったら毎日ストレスが溜まりますよね。だから、相性がいい上司や教え方が分かりやすい上司と同じプロジェクトに配置されたら、いかに自分が助かったかを周りに積極的に伝えておく。嫌だというのは伝えづらくても、助かったというのは言いやすいはずですから。
そうすると、次のプロジェクトで自分が快適な環境に配置される可能性は上がるかもしれません。実際、若手のビジネスパーソンが真面目にできることって、それくらいささやかなことだと思うんです。すごいことを急にやろうと思っても難しいので、できる範囲のことを少しずつやる。三日坊主でも10回繰り返せば30日やったことになりますから、いつかできる楽しい仕事のための準備だと思って、地道に続けてみるといいと思います。
「冷蔵庫の残り物」でできている人生を、少しでも楽しむために
──ビジネスの世界において「プロジェクトの進め方」は非常にメジャーなテーマであり、書籍やWeb記事などさまざまな形でコンテンツ化されています。一方で「プロジェクトの計画方法」にはあまりフォーカスされない印象です。これはなぜだと思いますか?
香山:前にお話しした通り、計画の根本は「人生においてそのプロジェクトがどんな意味を持つか」です。それを考えるには、「自分がしたいことは何か」「自分の人生にはどんな時期があるか」「そもそも人生の意味とは何か」といったことも併せて考えなければならず、それはプロジェクト推進というより自己分析の話ですよね。
だから、多くのコンテンツでわざわざそこにフォーカスしないのではないかと思います。
そもそも「自分自身と向き合う」とか「自分を理解する」って、自分がない人にはできないことですよね。多くの人は「自分があるのが当たり前」なんて考えたら、たちまち身動きが取れなくなると思います。僕も自分があるかと聞かれたら、うっすらあるくらいの状態だと自覚しています(笑)。
誰しも社会で生きている以上、周りの意見に左右されて意見を変えているはずですから、確固たる自分なんて基本的にはないものだと思ったほうがいい。ただ、そのなかで歳を重ねて社会経験が増えてくると、次第に自分の輪郭や特徴が見えてきたりもします。そこでようやく未来の見通しを立てることができるようになると思うんです。
──香山さんの場合、「未来の見通しを立てる」というのは具体的にどのようなアクションですか?
香山:漫画制作であれば、自分の中のプロジェクトの成功度合いに応じて、連載が終わったあとのことを何パターンか考えるようにしています。例えば、100%の成功と思えるような仕事ができた場合は新しいジャンルの仕事にチャレンジしてみようとか、50%だったら同じような漫画に再チャレンジしてみようとか、完遂できなかったらまだ力が足りないのだろうから、いっそ2年休んで本をたくさん読んでみようとか。そういった形で未来のことを計画するようになったのは、漫画家としてのキャリアを少し重ねてからですね。
──ここまでお話を伺って、香山さんにとって計画とは「やることや時間を厳密に管理すること」というより、「人生の中でそのプロジェクトによりよい意味づけをすること」なのだと感じました。
香山:そうですね。どんな人生にしたいかというビジョンって生きていると徐々に薄れていきますし、例えば結婚や出産など、ライフステージの変化によっても当然変わります。考えれば考えるだけいい未来が待っているとも限りませんから、いまよりちょっとだけ未来をマシにしようとか、それくらいの気持ちで自分と向き合えばいいんじゃないかなと。
仮に考えた結果、いまは特にやりたいことがないと分かったら、それも大きな収穫です。「それなら旅にでも出よう」とか「いまは我慢して目の前の仕事をこなそう」といった時期があってもいいと思いますし。人生って常に冷蔵庫の残り物みたいなものですから、与えられた材料でできるだけ満足のいく料理をつくって、毎日をすこしでも楽しむことができたらいいですよね。
今回の記事は、前・後編の後編です。前編では、香山さんが実際に漫画連載を計画するプロセスを紹介しながら、そのなかで注意すべきことを語っていただきました▼
良い作品をどう生み出し、どう育てるか。漫画家・香山哲さんが語る「計画の流儀」(前編) - ミーツキャリアbyマイナビ転職( https://meetscareer.tenshoku.mynavi.jp/entry/20251111-kayama )
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取材・文:生湯葉シホ
編集:はてな編集部
制作:マイナビ転職