アートシーンを牽引する「サラ・モリス」日本初の回顧展(読者レポート)
ニューヨーク在住のアーティスト、サラ・モリスの国内初となる回顧展「サラ・モリス 取引権限」が大阪中之島美術館で開催中です。彼女は、ネットワーク、タイポロジー、建築、組織、そして大都市に高い関心を持ち、そこから作品を生み出しています。その活動は世界的に高い評価を受けています。
サラ・モリス《スノーデン》(部分、2026年、大阪中之島美術館にて制作)、手前は出品作家のサラ・モリス
大阪中之島美術館は、モリスの作品を所蔵する国内唯一の美術館です。本展は、初期から現在に至るまでの絵画41点と映像作品17点を含む100点近くが紹介されており、サラ・モリスの全貌を見ることができます。
展示風景
展示風景
入口で私たちを迎えてくれるのは、初期の「サイン絵画」シリーズ。《行き止まり》《猛犬注意》など約1.2m×約1.7mの大きなキャンバスに描かれた注意喚起の文字に迫力を感じます。アメリカのホームセンターで販売されていた私有地の境界線に設置されていた注意看板のタイポグラフィーを引用し、再解釈した作品たちです。その後「テキスト絵画」シリーズを発表し、アーティストとしてのキャリアを本格的に築いていきました。
展示風景
サラ・モリス《ミッドタウン-アーミトロン(マディソン・スクエア・ガーデン)》1999 個人蔵 ©Sarah Morris
格子状に整理された構造を基盤とし、鮮やかな色彩と幾何学的形態によって構成された抽象画は、一見して強く印象に残ります。「ミッドタウン」シリーズはその名前からもわかるように、ニューヨークの風景から着想を得ており、モリスを代表する作品群のひとつです。抽象画でありながら、高層ビルを見上げた風景とも取れる構成に、鑑賞者はモリスの視点や思考の中へ入り込んでいく感覚になります。
展示風景
ニューヨークを描いたモリスは、ほかの大都市をもモチーフとしていきます。ロサンゼルス、ラスベガス、キャピタル(ワシントンD.C.)、そして香港や大阪などと、彼女の対象は広がっていきます。彼女は、それぞれの都市の政治や経済、そして文化を象徴する場所を調査、検討し、作品へと昇華させていきます。
作品には実在するビルの名前や特定できる名称が付けられていますが、時が流れるなかで、それらの建物が取り壊されたり名称が変わったりしています。鑑賞している現在と、作品の制作された時代の間に起きた出来事や、政治・経済を思い起こすことで、作品の見え方は変わっていきます。
サラ・モリス《求愛行動[スパイダーウェブ]》2021 Courtesy of the Artist and White Cube ©Sarah Morris
サラ・モリス《黒松[住吉]》2023 Kevin P.Mahaney Center for the Arts Foundation ©Sarah Morris
コロナ禍で移動が制限されていた時、庭でみた蜘蛛の巣から着想を得て制作した「スパイダーウェブ」シリーズ、大阪の取材をもとに生まれた《黒松[住吉]》など自然をモチーフとした作品も見どころの一つです。
サラ・モリス《スノーデン》(部分)2026 大阪中之島美術館にて制作 ©Sarah Morris
会期直前に仕上がったという壁画《スノーデン》はここでしか見ることのできない作品。横18.85m×縦5.9mと呑み込まれるような作品の前にぜひ立ってください。
また、アメリカのスタンダップ・コメディアン、クリス・ロックを題材にした最新の映像作品《クリス・ロック》は世界初公開。同じ時代を生きるアーティストの現在地に触れながら、鑑賞者それぞれが立つ土地や世界に目を向けるきっかけを与えてくれる――それがこのサラ・モリスの展覧会です。
展示風景
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[ 取材・撮影・文:カワタユカリ / 2026年1月30日 ]