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雪原に描く「スノーアート」の魅力って?『ゴールデンカムイ』連載完結記念アートを担当した人に話を聞いてみた

Sitakke

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みなさんは、「スノーアート」ってご存じですか?

「スノーアート」とは、一度も足を踏み入れていない雪原にスノーシュー(西洋かんじき)を履いて、一歩ずつ雪を踏み固めて行きながら描くアート作品のことです。

2022年には、北海道出身の漫画家・野田サトル先生による、大人気漫画『ゴールデンカムイ』(集英社)の完結記念となるスノーアートも登場。主人公・杉元佐一とアシㇼパを描いた巨大なストーアートの写真が東京や札幌で展示され、話題になりました。

札幌では、札幌駅前通地下広場で展示されていたので、ご覧になった方も多いのではないでしょうか。

今回はそのスノーアートを担当した、北海道中札内村(なかさつないむら)在住のスノーアーティスト梶山智大(かじやまともひろ)さんに、スノーアートの魅力についてお話を聞きました。

「100%自己流で始めた」北海道中札内村在住のスノーアーティスト・梶山智大さん

スノーアーティスト・梶山智大さん(2024年1月撮影)

梶山さんは静岡県のご出身で、2018年の10月に中札内村の地域おこし協力隊として移住してこられました。移住してくる前は、JR東海にお勤めだったそう。

地域おこし協力隊では「観光振興プロデューサー」のお仕事をされていましたが、冬は雪以外に何もなく観光客の呼び込みに苦労していた梶山さん。そんなときに「スノーアート」に出会いました。

梶山さんが住んでいる中札内村は「花と緑とアートの村」をキャッチコピーに掲げています。そのキャッチコピーにぴったりだと思い、「スノーアート」をやってみようと考えたのだそう。

とはいえ梶山さんは全くの素人、アートの知識もありません。大学時代は長野県で過ごしスノーボードなどで雪とふれあったことはあるものの、スノーシューは履いたこともありませんでした。教えてくれる人もなく、100%自己流。はじめはスノーシューも借り物で、履いて歩くだけでも一苦労でした。靴も普通の長靴で、靴擦れで足が血だらけになったことも。

「北海道に移住してきた自分たちの足跡を『スノーアート』として残せればと思いました。全部初めてだったので、最初は大変でしたが、楽しみながらできました」と話します。

2019年から作品作りをスタート

写真提供:株式会社AOILO

2019年2月には第1弾のスノーアート作品を製作し、十勝毎日新聞の1面に掲載されました。それ以降も、毎年スノーアート作品を製作していきます(2022はコロナ禍のため中止)。

写真提供:株式会社AOILO

こちらは初イベントのプロモーションとして描かれた作品です。「Art de Champ」とはフランス語で「畑の芸術」を意味します。実際に村の農家さんの畑をお借りして描いた作品です。大輪を咲かせる花をイメージし、初のイベントの成功を目指して描きました。

写真提供:株式会社AOILO

2020年には東京オリンピックにちなんで「五輪の花と感謝の翼」をテーマにした作品を発表。「スノーアートヴィレッジなかさつない」の初開催で「イベント開催に向けて、地域の方からたくさんの協力をいただいたことへの感謝を届けたい」という想いを込めて翼を描いたのだそう。

新聞やテレビにも取り上げられ、全国放送で紹介されました。
「村をたくさんの人に知ってもらえて、地域おこし協力隊としてのひとつの役目を果たせたのでは」と梶山さん。

写真提供:株式会社AOILO

2021年はコロナ禍で「スノーアートヴィレッジなかさつない」が規模を縮小して開催。
「『明るい未来が早く来てほしい』という祈りを込めて中心に花を。それを囲むように輝く結晶を描きました」と話します。

写真提供:株式会社AOILO

「2年ぶりのイベント開催。光の屈折を意識して、角度で変わる楽しさを感じられる作品にしました。1日だけの開催でしたが午前中は天気が悪く、午後から晴れてくれてホッとしました」と梶山さん。


「自分の感覚だけを頼りに」

梶山さんは「スノーアート」を描く際、手書きでノートに描いて図案を考えるといいます。以前はCADなどを使ってパソコンで描いていたこともありますが、あまり上手くいかなかったのだそう。雪原を歩くときもコンパスやひもや棒などの道具を一切使わず、自分の感覚だけを頼りに描きます。

「道具を使うと“作業”になってしまうので、楽しくないんですよね。人と同じやり方や最初から絵を決め過ぎてしまうと面白くないので、自分なりのやり方を工夫して楽しんでいます」と梶山さん。雪の上では一度も図案を見ません。太陽の角度や光の当たり具合も、計算して描いています」

描いていると天気が悪くなり雪が積もってしまい、歩き直しすることもあるのだそう。中札内村は「十勝晴れ」といわれるほど晴天率が高く、天候にも助けられています。

2022年、大人気漫画『ゴールデンカムイ』のスノーアートにチャレンジ

プレスリリース「『ゴールデンカムイ』連載完結記念<THE SNOW COMIC> 公開!(集英社・2022年4月28日)」より画像引用(C)野田サトル/集英社

『ゴールデンカムイ』のスノーアート製作について、梶山さんに連絡が入ったのは2021年12月。

「『ゴールデンカムイ』の連載完結を記念して、作品の舞台である北海道でスノーアートを描けないか?」と打診があったのだそう。1月にオンラインで打ち合わせをし、準備を進めていきました。

提案を受けたときには「ゴールデンカムイ」を読んだことがなかった梶山さん。実際に描き始める前には全巻買って読破し、作品に入り込んで杉元の気持ちを考えながら描きました。

製作期間は約10日間。当初は1週間の予定でしたが、完成間近で大雪が降り、描きなおすというアクシデントを乗り越えて完成させたそう。

「それまでスノーアートで人の顔を描いたことがなく、今までとは全く違う難しさがありましたね」と梶山さん。目や鼻の位置、眉の太さなどが少し違うだけでも別人になってしまいます。杉元は目の力強さだったり、アシㇼパは可愛らしさと凛とした表情を意識するなど、踏む回数で線に濃淡をつけたり線の太さなども微調整。

「特に目の角度が難しかった」と話します。線がつながっていないところは、ジャンプして飛び移るという工夫も。


プレスリリース「『ゴールデンカムイ』連載完結記念<THE SNOW COMIC> 公開!(集英社・2022年4月28日)」より画像引用(C)野田サトル/集英社

「中でも特に苦労したのはアシㇼパのマタプシ(鉢巻き)の部分。複雑な模様ですが作品のキーポイントでもあるので、ここだけでかなり時間をかけました。」と梶山さん。

制作中は依頼者である広告会社の方や、梶山さんの奥様が、つきっきりでサポート。
ドローンを飛ばして写真を見ながら微調整したり、テントを張って中で温かい物を用意したり、みんなで作り上げた作品です。

「いつもと違って、見られているという緊張感がありましたね。よく完成できたなと思います。サポートしてくれた皆さんのおかげで、ものすごい達成感がありました」と言います。

地下歩行空間に展示されたスノーアートを前に(2022年4月撮影:本人提供写真)

作品の展示を観に、札幌を訪れたという梶山さん。
撮影場所は「北海道」としか書かれていませんでしたが、わずかな手がかりから場所を特定した人がいてとても驚いたのだそう。
「東京で展示された作品を前の職場の同僚が見て、連絡をくれたのが感慨深いですね」と話します。

作品製作中の様子は『ヤンジャンTV』のYouTubeの動画で見ることができます。
この動画は「ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS メディアクリエイティブ部門 ACCシルバー」を受賞しました。

スノーアート鑑賞を楽しめる!「スノーアートヴィレッジなかさつない2024」in中札内村

2024年も、中札内村で「スノーアートヴィレッジなかさつない2024」が開催されます。
雪原に描かれた雪の芸術、スノーアート鑑賞と冬のアクティビティを楽しむイベントとなっていて、会場には梶山さんもいらっしゃいますので、お話を聞きたい方は是非足を運んでみてはいかがでしょうか。

開催日時:2024年2月11日(日)10:00〜14:00
会場:中札内文化創造センター含む特設会場
詳細は中札内村公式観光情報HPで確認ください。

※2024年1月現在の情報です。最新の情報は公式HPをご確認ください。

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文・取材:カンベ アキラ
編集:Sitakke編集部ナベ子

<カンベ アキラ PROFILE>
北海道が大好きすぎて、2014年に関西から移住したアラフィフ。現在は十勝在住の旅好き。「北海道観光マスター」「十勝の観光文化検定」の資格所持。「北海道コンシェルジュ」「北海道旅行モデルプランナビ」の2サイトを運営。自ら体験して確かめた北海道の観光スポットやグルメ、お土産やお取り寄せ情報を発信しています。北海道旅行のプランニング相談も「ココナラ」で随時受付中。ゴールデンカムイにドハマりしていて、道内各地を聖地巡礼しています。(スタンプラリーも全制覇)Web情報サイト「北海道Likers」でも執筆中。ライターのお仕事も募集しています。インタビュー、取材、レビュー記事が得意。

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