〈夏休み事件簿〉「AIが言ったから本当」クラス中が息子を“ウソつき“扱いした日
11歳の男の子を子育て中のママ(38歳)です。
▶画像 夏休みの宿題が終わらない家庭の救世主! 「自由研究おたすけイベント」の賢い探し方夏休みの自由研究に、大好きな昆虫の生態をまとめた観察ノートを提出した息子。先生はその出来栄えに目を見張り「クラス代表として提出したい」と大絶賛してくれました。
ところが、その様子を見た仲良しのAくんが「それ、AIで作ったんじゃね?」と声をあげたのです。ただの軽いノリだったのかもしれませんが、そのAくんのひとことがきっかけで、息子の自由研究は「AIが作ったもの」として、クラスメイトから疑われる事態に発展してしまいました。
※本記事はママの実体験を取材し、プライバシーに配慮して構成したものです。
無残に破かれた自由研究ノート
翌日の朝、息子は重い足取りで登校していきました。学校での作品展示に向けて、渋々息子も準備を始めたようですが、クラスメイトの視線は冷ややかでした。
「AIで作ったんだろ?」「自分でやってないのになんでクラス代表なの?」そんな声がどこからともなく聞こえてきます。いたたまれなくなった息子は、突然、展示机の上の自由研究ノートを摑みました。そして、黙ってノートのページを破り始めたのです。
息子の突然の行動にクラスメイトたちもびっくり。それまでコソコソと噂話をしていた子たちも「やばい……」という雰囲気で息子の様子を見ていたといいます。
先生が慌てて駆け寄り、息子の手を止めました。少し離れた場所でその様子を見ていたAくんも、息子のただならぬ姿に、ようやく事の重大さを感じたようです。
あとで先生がAくんに事情を聞くと、「自分はAIにちょっと聞いてみただけのつもり」だったと語りました。それがまさか、友だちの心をここまでズタズタにしてしまうなんて想像すらしていなかったというのです。
でもAくんが反省したところで、息子が頑張って作ったノートも、息子の傷ついた心も元には戻りません。
もう一度AIに尋ねてみたら…
放課後、再び担任の先生から電話がありました。息子が自由研究ノートを自分の手で破ってしまったこと、そして、猛省したAくんが泣きながら保護者と一緒に学校へ謝罪に来ているという内容でした。
罪悪感が拭えなかったAくんは、家でもう一度、同じ生成AIツールに質問を投げかけたそうです。
「この自由研究は、AIで作りましたか?」
すると返ってきたのは、「AIで作った可能性があります」という昨日の回答とはまったく違うものでした。
「こちらの文章は、実際に細かく観察された記録である可能性もあります。小学生の自由研究としては非常に優れています」AIはそう答えたのです。
それを聞いたAくんはパニックになりました。AIの答えが毎回同じではないこと。AIの回答がいつも正しいわけではないこと。それに気づいた瞬間、学校で息子が泣きそうな顔でノートを破いた姿が思い浮かび、後悔したといいます。
「そんなつもりじゃなかった。ただ、AIがなんていうのか見たかっただけなんだ……」自分の言葉がどれほど深く友だちを傷つけたのかを知ったAくんは、後日、保護者と一緒にわが家へ謝罪に来てくれました。そして涙を流しながら、息子に「本当にごめん」と頭を下げたのでした。
「AIはあくまでひとつの参考として使うこと」
イラスト:べるこ
翌日、先生はクラス全員に向けて、今回の件について話をしてくれました。「AIはとても便利な道具です。でもAIの言うことが、必ず正しいわけではないんですよ」そう前置きしたうえで、こう続けたそうです。
「『AIが言っていたから』という理由だけで、目の前にいる友だちの努力を疑ったり、決めつけたりしてはいけないんです。AIの答えは『証拠』ではなく、あくまでたくさんある意見のひとつ。参考程度にしてください。疑問に思ったときは、本人に直接聞く、先生に相談する、ちゃんと情報を確かめることが大切です」
そして、AIに限らず、自分が軽い気持ちで言ったひとことが、相手を追い詰め、深く傷つける可能性もあるのだと話してくれたと聞きました。
息子はすぐに元気を取り戻せたわけではありません。しかし先生の仲介で、破れた自由研究ノートを、Aくんと先生と一緒に少しずつテープで直すことになりました。それを見たクラスの何人かも「俺も手伝うよ」と集まってきたそうです。
破れたページを貼り合わせるために、手書きでびっしり書かれた文字や絵をまじまじと見たAくん。「……○○くん、やっぱり昆虫博士だな。本当にすごいや」と言ったそう。
息子はその言葉に、少しだけ照れたように笑いました。バラバラになったノートを一緒に直していくうちに、二人の関係もまた、少しずつ元の温かさを取り戻していったのです。
AIを信じて 友だちを疑う時代に
AIはとても便利なものです。分からないことを調べたり、考えを整理したり、子どもたちにとっても身近な道具になっていくのだと思います。
けれど今回のことで、AIの答えをそのまま信じてしまう怖さも感じました。たったひと言の回答で、誰かの努力が疑われたり、積み重ねてきたものが一瞬で否定されたりすることがあるのだと思い知ったからです。
だからこそ、子どもたちには「AIが言っていたから」で終わらせず、自分の目で見て、自分で考える力を持ってほしいと思います。
そして私たち大人も、AIの使い方だけでなく、目の前の人を簡単に決めつけないことの大切さを、子どもたちにしっかりと伝えていかなければならない。
修復されてテープだらけになった息子のノートを見ながら、私はそう心に誓いました。
文/構成・橘サチ