中学生になめられちゃう、現役大学生コーチの悩み 中学生Bチームのモチベーションを上げたいが、どうすればいいか教えて
中学生の指導をしているが、Bチームの子たちが真剣に練習をしてくれなくて悩む。ふざけた雰囲気で練習しているとき、声をかけてるけど効果なし。
お父さんコーチじゃなくて大学生コーチなんだけど、どうしても池上さんに聞きたい、という熱意を持ったコーチからのご相談をいただきました。
ジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上のあらゆる年代の子どもたちを指導してきた池上正さんが、すぐに取り入れられる方法を伝授します。
(構成・文 島沢優子)
<お父さんコーチからの質問>
小学生年代への指導ではないのですが、選択にU-13以上とあったので投稿いたしました。お父さんコーチでもなくてすみません。
私は現在22歳の大学生で、中学生のサッカーチームのコーチをしています。
チームはAチームとBチームに分かれており、Aチームを指導している時は選手たちもモチベーションを落とさずに、真剣に練習に取り組んでくれます。
しかし、Bチームを担当する際には、監督ではない自分が指導していることや、選手との関係性がまだ十分にできていないこともあって、ふざけた雰囲気で練習してしまうことがあります。そのときに声をかけますが効果はありません。
このような状況の中で、どのようにすればBチームの選手たちにも真剣に練習に取り組んでもらえるようになるでしょうか。
池上さんにお聞きしたいです。 よろしくお願いします。
<池上さんからのアドバイス>
ご相談ありがとうございます。
私も運営するクラブで中学生を指導していますが、非常に難しいと感じています。特に、BチームとAチームに分けて活動する場合、自分たちがBチームだと、自分たちのやりたいようにしたくなるようです。
■最近は端からあきらめている子も。サッカーに真剣に向き合えている子の傾向は......
私たちコーチの言うことをちゃんと聞いて一生懸命サッカーに取り組んで、BからAに行きたいと考えている子どもたちは最近あまり目にしません。
そのように真剣にやる子どもは以前なら半数以上はいたように思いますが、今はBとAを往来するような子しかサッカーと向き合えないようです。
これは学校の勉強とよく似ていて、成績が下位のほうであれば「どうせ俺はできないし」とはなから諦めてしまう傾向があります。
とはいえ、ご相談者様が書いておられるようにBチームの子どもたちとまだまだ意思疎通ができていないことも、うまく練習が進まない理由のひとつかもしれません。関係性を深める努力を引き続きしてください。
■子どもたちの特徴をとらえて少し制限を加えるのがおすすめ
まずは楽しい練習にすることをこころがけてください。みんなワイワイ笑顔のある練習です。そのなかでルールを決めたり、負荷をかけるなどして少し制限を加えてください。
例えば、私のチームの中学生たちはシュート練習が大好きです。そのようにシュートが大好きな子どもたちであれば、ゲーム形式にしたときに「今日はハーフラインを越えるまでにシュートを打たないといけない、というルールを設けてみましょう。つまりロングシュートしか打てないようにします。そうすると、そこでチャレンジしようとする子が増えます。夢中になってやろうとします。
ほかにドリブルが好きな子たちには「1人抜いてからしかパスできない」などのルールを加えます。そのように子どもたちの特徴をとらえて制限を加えることで、楽しく練習できます。
そんなふうに楽しくなっているときに「じゃあ今度はこっちに変えようか」と言って、ドリブルで抜かずにパスで相手を抜くことにしてみようと提案します。ワンツーパスなどです。ゲーム形式でやっていたのを、2対1の切り取る練習に変えてもいいでしょう。
■制限を加えた練習を行う時のポイント
そのときコーチの皆さんにおぼえていてほしいのは、そのような制限を加えた練習はあまり長くやらないこと。それをいつまでもやると、次のルールに移行するときに「コーチ、このままでいいよ」と新しい制限をつけられるのを子どもたちが嫌がったりするからです。
できれば子どもたちが夢中になれるようなものが1つ、2つ、3つ続いたら、もう少し難しいものがやってくる。そんなふうに練習を組み立ててください。子どもたちが楽しそうにしているか、きびきび動いているか。表情や動きを観察しながらさじ加減してあげましょう。
ただし、さじ加減は、自分のチームの子どもたちの特徴をコーチがとらえていないとできません。
以上は私が40年以上指導するなかで手ごたえを得たやり方です。
次から次へと楽しいものが出てきたとしたら、次に何か課題みたいなものに取り組んだとしても「じゃあ、やってみるか」といった意欲みたいなものにつながる可能性は高くなります。
■中学生年代でA、Bとレベル分けしてやるのは悪くはない、大事なのはチームの空気感
中学生への指導を見ていると「ちゃんとしろ」とか「もう中学生なんだから真剣にやれ」といった命令口調でともすればお説教になりがちです。口で言って聞かせることも時には必要ですが、大事なことは練習のオーガナイズ、いわゆる環境設定なのです。
先日うちの中学生の練習がありました。雨だったので4、5人しか集まらなかったため、私たちコーチも入って3対3のゲームをしました。私がフリーマンで入り、点が入ると1人ずつチームを移動します。同じメンバーにせずどんどん替えていきます。
チーム唯一の女子選手も来てくれました。中学生になると男子とは体格に差が出てくるので、ボールを追えなくて男子から文句を言われたりすることもあったので、その子がグループを替えながら誰とでもサッカーをできる状況にする狙いもありました。3対3のゲームだと結構点がどんどん入るので、みんながその女子選手に対し気にならなかったのか、楽しくできました。
それ以前にはミーティングをし「言葉を変えよう」という話をしました。他者を責めるのではなく「ドンマイ」という言葉に変えようと伝えました。そんなことがあったので、昨日も最後にその話をして練習を終えました。それぞれ育ってきた環境がちがうので、道徳観や価値観を共有することは大切です。
中学生年代でA、Bとレベル分けしてやるのは悪くありません。AもBも全員が本当にサッカーを楽しむ空気感をチームのなかに育ててください。
■欧州の子が練習と試合では見せる態度、真剣みが変わる理由
国は違いますが、欧州の子どもたちは練習ではプラプラしているように見えるのに、試合になると見せる態度や真剣みが変わります。
彼らは自分で考えられるので、試合になると主体的にガンガンやるのです。一方、日本の子どもたちは自分たちで考える力が乏しいようです。何となく周りに流されてやりたいことだけやってしまう傾向があります。受けている教育の差かもしれません。
池上 正(いけがみ・ただし)「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさい サッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。