デジタル社会に逆行する、英国で話題の“フォレイジング・ウォーク”とは? England [London]
2020年に世界を震撼させたパンデミック。英国では当時再三のロックダウンが続き、人々は癒しを求めて公園や森を歩き、エルダーフラワーやワイルドガーリック、イラクサなどを摘んで自家製のコーディアルやペーストを作る“フォレイジング(野生食材の採集)”が静かなブームとなった。それまで自然愛好家や一部のガストロノミー関係者の領域だった行為が、ゆるやかにメインストリームへと広がり始めた。
以来、野生の植物を採って食べるという営みは、英国人の暮らしにしっかり根づいている。春はハーブやベリー類、そして食用花、秋はキノコ、海辺では豊富で多様な海藻――ロンドン近郊をはじめ、全国各地で1年を通してフォレイジング・ウォークが開催され、人気を集めている。
「サステナビリティ、ローカルフード・システム、地産地消、マインドフルネスな暮らし・・・。こうした価値観を大切にする人が増える中、フォレイジングは自然にそれらと重なり合っているのです。大地との関係性を深め、店では出会えない風味に触れ、立ち止まって自然を観察する時間を取り戻す。デジタル情報があふれる今、フォレイジングは“地に足の着いた実践的なスキル”として再評価されていると感じます」と語るのは、「トータリー・ワイルドUK (Totally Wild UK)」の創設者、ジェームズ・ウッド氏である。現在はロンドンと英南東部を始め、ミッドランズ、北部、ウェールズ、スコットランドなど、英国各地10カ所以上で活動する。
現在、各地には同団体による専門トレーニングを受けたフォレイジャーが拠点を置き、地域の知識と季節の経験に基づいたフォレイジング&クッキングコースを主催している。
春のフォレイジング・ウォークで採集された野生食材の数々。「ロンドンの緑地には驚くほど多様な植物が自生しています。ワイルドガーリック、イラクサ、エルダーフラワー、メドウスイート、スイバ、白樺、アンズタケ、アメジストタケなど、知識があれば都市の中でもここまで豊かな自然の恵みに出会えるのです」とウッド氏。
参加者は若いエリート層からフーディー、家族連れ、リタイア層、シェフ、バーテンダーまで幅広い。
「料理、環境、ウェルビーイング、あるいは“新しい学び”への興味から参加する人が多いですね。共通しているのは、尽きることのない好奇心とおいしいものへの愛情です」とウッド氏は話す。
「フォレイジングの最大の魅力は、森や草原を歩きながら、それをまるでマーケットの屋台を眺めるように理解できるようになること。私たちのセッションでは、野生食材の見分け方を学び、野外料理や発酵、アウトドア・ダイニングを組み合わせています。五感を総動員し、共に学び、味わい、分かち合う。心の奥から力が湧いてくるような体験です」
自然とのつながりを取り戻し、サステナブルな暮らしへの意識を広げ、野生への敬意を根づかせること――それがウッド氏の描く今後のビジョンだ。AIが生活を大きく変えつつある現代において、フォレイジングはもはや“スローライフの趣味”に留まらず、食べることの根源に触れる体験として、静かに存在感を強めている。
フォレイジング・ウォークの後には、採れたての野生素材を使ったワイルドクッキングの時間が待っている。写真は季節の野生キノコを使った、マッシュルームリゾット。その場で調理し、森の香りとともに味わうのがトータリー・ワイルドUKの醍醐味だ。photograph by Hikaru Funnell Photography – George Fredenham
冬の森で出会える代表的な野生キノコ、オイスターマッシュルーム(ヒラタケ)。木の幹に重なるように群生し、若い株は香りも食感も優れている。豊富な栄養を含み、アジア料理でも重宝される冬の代表的な食用キノコだ。
◎Totally Wild UK
https://totallywilduk.co.uk