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第34回「怪奇大作戦」ほか、円谷特撮ドラマに見る成城近辺の風景 テレビドラマ篇 Vol.3

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第34回「怪奇大作戦」ほか、円谷特撮ドラマに見る成城近辺の風景 テレビドラマ篇 Vol.3

1932年、東宝の前身である P.C.L.(写真化学研究所)が
成城に撮影用の大ステージを建設し、東宝撮影所、砧撮影所などと呼ばれた。
以来、成城の地には映画監督や、スター俳優たちが居を構えるようになり、
昭和の成城の街はさしずめ日本のビバリーヒルズといった様相を呈していた。
街を歩けば、三船敏郎がゴムぞうりで散歩していたり、
自転車に乗った司葉子に遭遇するのも日常のスケッチだった。
成城に住んだキラ星のごとき映画人たちのとっておきのエピソード、
成城のあの場所、この場所で撮影された映画の数々をご紹介しながら
あの輝きにあふれた昭和の銀幕散歩へと出かけるとしましょう。

 円谷特撮ドラマと成城のお話は尽きない。やはり円谷プロ製作による「怪奇大作戦」(68~69年/TBS系)は、勝呂誉、岸田森、原保美、松山省二(現・政路)の「SRI(科学捜査研究所)」のメンバーが‶謎の科学犯罪〟に立ち向かう、大人向けのSFミステリー。紅一点の小橋玲子の存在や、マイナー調からメジャー調に転ずる主題歌「恐怖の町」(金城哲夫作詞、山本直純作曲)に心躍らされた方も多かろう。

 飯島敏宏、円谷一、実相寺昭雄など〝ウルトラ・シリーズ〟の監督たちや、東宝の福田純が演出を担当、稲垣浩監督の子息で成城大学出身の稲垣涌三が撮影を担った本シリーズでも、当然のごとく成城近辺の風景がよく見られる。

 まず、人気の高い第4話「恐怖の電話」(佐々木守脚本、実相寺昭雄監督、主演は桜井浩子)では、まだ出来立ての環状八号線と小田急線が交差する地点から二百メートルばかり南下したところにある煙草屋(現「ヤクルト砧公園センター」辺りと推定される)が登場。この店先で電話をかけていた人間が燃え上がるという怪現象が発生する。当ロケ地は撮影の稲垣涌三さんにお話を伺って推定できたものだが、この店主、よくぞこんな縁起の悪い設定のドラマに使用許可を与えたものである。

▲「恐怖の電話」ロケ地の現在。煙草屋の店頭にあった公衆電話で人が燃える(筆者撮影)

 第9話「散歩する首」では、用賀の東名高速インターチェンジ付近、第16話となる「かまいたち」では、千歳船橋・経堂間を流れる烏山川に架かっていた「中村橋」近辺(のちに川は暗渠化され、遊歩道「烏山川緑道」となる)の風景と、三角屋根が特徴的な「喜多見駅」の駅舎が確認できるほか、白と赤の特別塗装タイプの小田急線車両も見られる。
 また、第21話の「美女と花粉」では〝聖地〟「世田谷区立総合運動場体育館」が「医学研究所」の建物に見立てられていて、当体育館が円谷プロ作品の定番ロケ地だったことが改めて認識される。

 第22話のタイトルは「果てしなき暴走」。脚本を「快獣ブースカ」でデビューした市川森一が担当した当話では、砧公園前にある出光のガソリンスタンドが登場。環状八号線の向かい側には、赤白の煙突が印象的な清掃工場(焼却場)が確認できる。
 稲垣涌三さんに伺えば、「砧緑地(砧公園)」は簡単に撮影許可が下りたでので、よくロケを行ったという。前述のとおり、当地は「ウルトラセブン」でもしばしば撮影に使われており、円谷プロにとっては便利なロケ地だったのだろう。

「恐怖劇場 アンバランス」(73年放送、製作は69~70年/CX系)は、「怪奇大作戦」に次ぐ‶大人向け〟ホラー・ドラマ。
 第7話「夜が明けたら」(黒木和雄監督:同タイトルのテーマ曲を歌う浅川マキも出演)では、労働科学研究所(通称は「労研」=現「成城ハイム」)前の小田急線踏切から旧成城警察署前踏切に至る道路を、刑事役の花沢徳衛と山本麟一(『警視庁物語』コンビ!)が歩くシーンがある。これは第3話「殺しのゲーム」で岡田英次が歩く道と同じで、画面奥には‶橋上駅舎(改札がプラットホームの上にある)〟時代の成城学園前駅が見える。線路南側にある世田谷区の「砧公益質屋」は、「少年ジェット」(59〜60年CX系)でも見られたと記憶する(註1)。
 西村晃が主人公となる本作では、懐かしい新宿駅南口の光景(京王プラザホテルは未だ建築中)のほか、祖師ヶ谷大蔵駅西側の裏道の様子(質店「近江屋」の店先や隣接する洋服店)が見られ、線路に沿ったこの裏道は「帰ってきたウルトラマン」第33話でもロケ地となった。
 第10話「サラリーマンの勲章」では、成城にあったレストラン「OAK(オーク)」が重要なロケ地となる。梅津栄扮する会社員がコーヒーを飲み、「課長になりたくない」との理由で、そのまま失踪するシーンである。酒井和歌子主演のスリラー『悪魔が呼んでいる』(70年)や『俺の空だぜ!若大将』など若大将シリーズの数作、西村潔監督によるカー・アクション『へアピン・サーカス』(72年)などにも登場する当レストランは、70年代の東宝映画では大変重宝されたロケーション・スポットであった。本話では他にも、経堂駅に隣接した小田急の「車庫線」の風景が見られる。

▲成城七丁目にあったレストラン「OAK」(『成城映画散歩』より)

 成城には、四丁目(正確には成城4-20-25)に古いが立派な洋館がある。現在では、世田谷区の「公園用地」となり、門には「成城みつ池 旧山田邸」の表札が掲げられる家である。
 何せこの邸宅、長い歴史をもつ(昭和12年頃の建築とされる)洋館で、その外観も瀟洒の一語。知人を介して元の持ち主の親族にコンタクトを取ってみると、この邸宅では向田邦子原作のテレビドラマを映画化した『あ・うん』(89年:降旗康男監督、高倉健主演)のほか、テレビドラマでは「ミラーマン」(71〜72年/CX系)、石原裕次郎の人気刑事もの「太陽にほえろ!」(72~86年/NTV系=東宝テレビ部)などの撮影が行われたという。
 早速『あ・うん』を見てみると、山田邸は高倉健と宮本信子夫妻の自宅に設定されており、富司純子・富田靖子の母娘が訪ねてくるシーンが当邸の玄関テラスで撮影されている。原作も太平洋戦争直前の東京を舞台としているので、時代考証的にはまさにドンピシャのロケ地だったわけだ。

▲一の谷研究所(旧龍野邸)からも程近い洋館「旧山田邸」。撮影:荒垣恒明

 71年から72年にかけて放送された円谷プロの特撮テレビドラマ「ミラーマン」は、地球外侵略者からこの世界を守るため異次元世界からやって来た〈超人〉が主人公。放送時期は「帰ってきたウルトラマン」とほぼ同時期にあたる。
「太陽にほえろ!」では、ある会社社長がゴルフの練習中に自宅で殺害されるという事件が発生、山さん(露口茂)、ゴリさん(竜雷太)、長さん(下川辰平)ら七曲署の刑事たちが山田邸まで出動する。ところが、「ミラーマン」のロケでは、当のヒーロー・ミラーマンが家の屋根目がけて光線武器(火花)をバンバン放ったことから、裏庭でボヤが発生。山田家の当主が激怒して、これを機に家を撮影に提供するのはご法度となってしまう。
 ただ、円谷プロの名誉のために一言申し添えておくと、ボヤは消火活動を要したり、消防車を呼んだりするような深刻なものではなかったというから、この時はよほど当主のご機嫌が悪かったものと見える。
 実際、その後も、当山田邸は西城秀樹が主演した『愛と誠』(74年/山根成之監督)で早乙女愛の自宅となったほか(送迎車での帰宅をメイド二名が迎える。父親の鈴木瑞穂は庭でゴルフの練習中)、木之内みどりのお子様向け刑事ドラマ「刑事犬カール」(77~78年/TBS系)や「家政婦は見た!」(83年~/テレビ朝日系)(註2)、それに前述の『あ・うん』などでその姿を見ることができるので、どこかの時点でロケ禁止令は解かれたのだろう。
 かつては「洋館の多い、まるで公園のような街」と称された成城だが、今や「ウルトラQ」で一の谷研究所となった旧龍野邸とこの旧山田邸がその名残をとどめるのみ。当邸は「旧山田家住宅」として一般公開もされているので、成城にお越しの際は是非お訪ねいただきたい。

 昭和のウルトラ・シリーズに「ウルトラマンA」(72~73年)、「ウルトラマンタロウ」(73~74年)、「ウルトラマンレオ」(74~75年)という三部作がある。
 まず、「A」だが、第6話で百目坂(「百目の家」が建つ岡本町の高台から仙川側に下る坂道)、第9話で南口のマンション「成城コンド」、第13話で不動橋、第36話では仙川沿いの遊歩道の様子が見られる。成城コンドと仙川の遊歩道はウルトラ・シリーズのほか、「赤い迷路」、「気になる嫁さん」などでも頻繁に使われたロケ・スポットである。

▲成城では歴史あるマンション「成城コンド」(筆者撮影)

「タロウ」では、前回ご紹介した洋館「属(さっか)邸」(主人公・篠田三郎の下宿先となる)のほか、不動橋や大蔵団地、成城南口にあった銭湯「成城湯」、成城学園初等学校に隣接する「祖師谷小学校」、成城から祖師谷方面に向かう道に架かる「成城橋」、さらには多くの映画に登場する成城学園正門前のいちょう並木がロケ地となり、かなり成城色の強いシリーズとなっている。
「不動橋」は何度かご紹介した「富士見橋」の西に位置し、少年ジェットが疾走したほか、大林宣彦監督が自宅から成城駅南口にある事務所「PSC」に通う際に使う橋でもあった。大映映画『女賭博師丁半旅』(69年)で江波杏子が渡る姿を見たときは、かなり違和感があったものだが。
『レオ』は、主人公のおおとりゲンが「不動橋」横の家に下宿する設定で、円谷プロ作品らしく、世田谷区立体育館やその周辺が何度か登場する。さらには、「成城橋」下の仙川沿い遊歩道に怪人が出現したり(第17話)、「労研」前踏切脇の坂道(註3)で子供たちが怪物体を発見したり(第40話)、大蔵運動公園脇にある急勾配の坂道に蟹江敬三扮する星人が登場したり(第50話)するシーンがあるほか、「竜沢寺橋」やいちょう並木の風景も確認できる。
 ちなみに、竜沢寺という名の寺は成城に存在せず(そもそも成城に墓地はない)、どなたに訊いてもその橋名の由来は不明。ここも多くのドラマに登場するので、次回詳しくご紹介したい。

▲「不動橋」から見た12月の富士山 撮影:筆者(左)、坂出雅海(右)

(註1)当質店は、力道山や猪木寛至(のちのアントニオ猪木)も出演したプロレス・ドラマ「チャンピオン太」(62〜63年/CX系)で、その建物が見られるという方もいる。力道山から、役名の‶死神酋長〟をリングネームにさせられそうになった猪木は、必死に抵抗したという。

(註2)第1話から6話までを演出したのは、旧制成城高等学校卒の映画監督・富本壮吉。父君は人間国宝の陶芸家・富本憲吉で、成城から祖師谷に通じる高台に窯を持っていた。

(註3)この坂道を降り切ったところに、「気になる嫁さん」で榊原るみが嫁ぐ清水家があった。

高田 雅彦(たかだ まさひこ)
1955年1月、山形市生まれ。生家が東宝映画封切館の株主だったことから、幼少時より東宝作品に親しむ。黒澤映画、クレージー映画、特撮作品には特に熱中。三船敏郎と植木等、ゴジラが三大アイドルとなる。東宝撮影所が近いという理由で選んだ成城大卒業後は、成城学園に勤務。ライフワークとして、東宝を中心とした日本映画研究を続ける。現在は、成城近辺の「ロケ地巡りツアー」講師や映画講座、映画文筆を中心に活動、クレージー・ソングの再現に注力するバンドマンでもある。著書に『成城映画散歩』(白桃書房)、『三船敏郎、この10本』(同)、『七人の侍 ロケ地の謎を探る』(アルファベータブックス)、近著として『今だから! 植木等』(同2022年1月刊)がある。

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