【鎌倉 観光スポットレポ】岩船地蔵堂 - 悲劇のヒロイン・大姫の伝説
鎌倉駅の北エリア「扇ガ谷(おうぎがやつ)」に、八角形の不思議なお堂があります。お寺もないのに、ポツンとお堂が1つだけ……
これはいったいなんでしょう?
このお堂は岩船地蔵堂といい、お堂の中にはお地蔵様が安置されています。ここには、ある少女の悲話が伝わっているのです。
街角の地蔵堂
鎌倉駅から横須賀線の線路に沿って北に向かったところにある扇ガ谷は、駅の至近でありながら静かで落ち着いたエリアです。
線路の下をくぐるガードからすぐの交差点「亀ヶ谷辻」に、岩船地蔵堂があります。ちなみに、この「扇ガ谷ガード」もレンガ造りの風情ある橋脚で、映画『シン・ゴジラ』のロケ地になりました。
さて、岩船地蔵堂は現在、内部は公開されていません。扉に空いた小窓から内部を伺ってみると……
堂内には、両脇に童子をしたがえた木造のお地蔵様が安置されています。
実は、このお地蔵様の背後にもう1体、秘仏となっている石のお地蔵様が祀られているのです。そのお地蔵様こそ、お堂の名前にもなっている岩船地蔵。光背が船の形をしているとされ、その通称で呼ばれています。
地元では、ここは「大姫」を供養する地蔵堂だと伝わっています。大姫とはどんな人物でしょうか?
傷心の姫君
大姫は源頼朝と北条政子の娘です。絶対権力者のプリンセスである彼女ですが、後世の人々には悲劇のヒロインとして語り継がれています。
1183年、頼朝が関東から敵対勢力を一掃し、すさまじい勢いで権力を拡大していたころ。6歳の大姫は11歳の木曽義高(よしたか)と婚約しました。
義高は木曽義仲の息子で、大姫の婿という建前で鎌倉に来たのですが、要するに人質として送られてきたわけです。
翌年、ついに義仲は頼朝と敵対し、討たれてしまいました。
父がフィアンセを暗殺しようとしているのを察知した大姫は、義高を女装させて逃がしたといいます。2人の仲の良さや健気さが伝わってきますね。
しかし、あわれ義高は頼朝の御家人の手にかかり亡き者に……
ショックを受けた大姫は以降病気がちになり、縁談が持ちあがっても拒んで、20歳で亡くなりました。
彼女を悼む人々により野辺送りが行われたのが、岩船地蔵堂が現在建っている地だと伝わります。
人々に受け継がれた大姫への想い
岩船地蔵堂に収められている木造のお地蔵様は、胎内から「頼朝の娘の守り本尊」と書かれた札がみつかっています。ただし、この像は1690年にお堂を再建した際に新たに作られたとも書かれており、もともとの守り本尊は石の岩船地蔵の方だと考えられます。
実は大姫には乙姫(おとひめ)という妹がいました。一説には、大姫の名前は一幡(いちまん)、乙姫は三幡(さんまん)だとされます。
乙姫は亀ヶ谷に葬られたことが歴史書『吾妻鏡』に書かれており、岩船地蔵は乙姫の守り本尊だったとする説もあります。真相は不明ですが、地元の人々は大姫を想って岩船地蔵に手を合わせ、大事に守り継いできたのです。
現在、岩船地蔵堂は扇ガ谷の奥にある海蔵寺が管理しています。この海蔵寺は鎌倉でも有数の「花の寺」として有名。ぜひ、岩船地蔵堂とあわせて訪れたい秘蔵スポットです。
大姫と静御前
鎌倉には、ほかにも大姫ゆかりの地がいくつかあります。その1つが、雪ノ下にある勝長寿院跡です。
現在は、小さな区画に石塔や石碑が建ち並ぶのみですが、かつての勝長寿院は鶴岡八幡宮、永福寺(ようふくじ)と並び、頼朝が建立した鎌倉の三大寺院でした。
頼朝は、義高の死後に体調を崩した大姫を勝長寿院に籠らせ、回復のために祈祷を行いました。
ここで、歴史を彩る2大ヒロインの共演が実現しています。1186年、大姫に頼まれ、静御前が勝長寿院で舞っているのです。
この時、静御前は逃亡中の義経と引き離され、鎌倉に捕らわれていました。この2か月後には出産したばかりの義経の子を殺されてしまう定めです。さらにその2か月後、静御前が京都に帰される際に、大姫は憐れんで大量の宝物を贈ったといいます。
天下人の娘と、白拍子(しらびょうし)。身分は違えど同じく時代に翻弄される2人の間には、深い共鳴があったのかもしれません。
一説には、大姫は勝長寿院に葬られたともいいます。
隣りあう姫宮塚と木曽塚
大船にある常楽寺の裏手にある粟船山を少し登ったところに、姫宮塚という祠があります。常楽寺を創建した3代執権、北条泰時の娘の墓と伝わる一方で、大姫の墓とも伝わっています。
そこからさらに登った場所(距離にして20mほどでしょうか)に、義高の墓と伝わる木曽塚があります。もともとは常楽寺近くの田んぼにあったのですが、1680年にそこから出てきた骨壺が現在の場所に移されたのです。
運命に引き裂かれた2人が、幾星霜を経てすぐ近くで眠りについていると思うと、胸を打たれずにはいられません。
常楽寺の境内は、市街地にありながら静寂と緑に包まれており、歴史ロマンに浸るには最適でしょう。北条泰時の墓や文化財の伽藍・仏像などの見どころもあり、ぜひ姫宮塚・木曽塚とあわせて訪れたいところです。
まとめ
子どもながらに一途な想いを貫いた、1人の少女。その儚い生涯が多くの人々の心をとらえてきたことは、岩船地蔵堂や姫宮塚が大切に守られてきたことに表れています。
みなさんもぜひ大姫ゆかりの場所を訪れ、人々と心を重ねてみてはいかがでしょうか。
岩船地蔵堂
参拝時間
24時間
アクセス
JR鎌倉駅西口から徒歩約15分(1km)
住所:〒248-0011 神奈川県鎌倉市扇ガ谷3-3-21
駐車場:なし
管理元
海蔵寺(連絡先:0467-22-3175)