【勝ち負けこだわり体験談】「勝つ子は許さん」から「ハッとした顔」へ。4歳娘の運動会、成長の兆しを感じた"最下位"
監修:室伏佑香
東京女子医科大学八千代医療センター 神経小児科/名古屋市立大学大学院 医学研究科 生殖・遺伝医学講座 新生児・小児医学 博士課程
「絶対に1位がいい。勝つ子はゆるさん」負けず嫌いすぎる4歳
負けず嫌いすぎる4歳の次女・あずさは、運動会のかけっこで1位を取ることに闘志を燃やしていました。それ自体は良いのですが、問題は正攻法ではなくマイルールで勝とうとする点。保育園や療育(発達支援施設)の先生とも協力して、ルールを守ることや努力する意味を繰り返し伝えてきましたが、あずさの本音は揺るがなかったようで、運動会前夜も「絶対に1位がいい。勝つ子はゆるさん」と意気込むのでした。
運動会本番
そうして迎えた、運動会本番。
年中さんのかけっこは直線コースの短距離です。私と夫はカメラを構えながら、「ほかの子の迷惑になるようなことをしませんように」と心の中で祈っていました。
あずさのグループの番が来て、一人ひとりが大きな声で自己紹介していきます。あずさも張り合うように大きな声で名乗りを上げました。やる気は十分です。
そして、スタートの合図と同時に、あずさは勢いよく―――
バッ!と両手を広げて走り出しました。
堂々たる進路妨害の構えに、私と夫はそろって般若の顏になります。
しかし次の瞬間、あずさがハッとした顔をして、すぐに手を下ろしたのです。
「あっ、コレやっちゃいけないんだった」
そんな心の動きが見て取れました。
きっと、これまで大人たちに言われてきたことが一瞬で思い出されたのでしょう。
そんなことをしていたせいで一人だけ出遅れてしまい、結果は堂々の最下位。
ゴール後は、「あずちゃんが1位~~~!!」と叫んでジタバタしていたのですが、影のように現れた2名の先生に左右から抱えられ、ちょっと浮きながら退場していきました。負けをすんなりと受け入れられる日は、まだまだ遠そうです。
けれど、“手を広げてしまったけれど、自分で気づいて下ろした”という、ほんの一瞬の動きが、私にはとても大きなことに感じられました。
まとめ
「なんでスタートの時に手を広げたの?」と聞くと、「つい、いつものクセで!」と屈託なく笑うあずさ。
いや、いつもやっとんのかい!とツッコミつつも、この言葉が今回の出来事を象徴しているな、と感じました。
発達に凸凹のある子どもにとって、「勝ちたい思い」が“自己を制御する力”より先に表れ出てしまうのはよくあることなのだと思います。頭では「やってはいけないことだ」と知っていても、衝動的に身体が動いてしまうのかもしれません。
スタート直後に手を広げ、その直後にハッとした顔で手を下げたあずさの行動は、まさに衝動と自己制御の間で揺れている姿だったのでしょう。
「勝ちへのこだわり」自体は、年齢的にも特性としても珍しいものではないといいます。ただ、その気持ちが強すぎるあまり、自己中心的に見えるような行動につながってしまう場合、それは「性格の問題」ではなく “自己制御(セルフレギュレーション)の未熟さ” と捉えると、対応が見えやすくなるのかもしれません。
私が今回、あずさの「勝ちたい」気持ちに向き合いながら感じたのは、大人の正論だけでは子どもは行動を変えられない、ということでした。だからこそ、親としてできることは
気持ちそのものは受け止める(勝ちたい=悪ではない)ルールの線引きは一貫して伝え続ける勝ちたいならどう努力するか、正当な行動を提案する勝てなかった時の感情処理を一緒に練習する
といった、感情と行動をつなぐスキルの育ちを支えることなのだと思います。
最下位ではありましたが、スタートライン上でのあずさの両腕上げ下げは、順位以上に意味のある“羽ばたき”だったと思っています。
子どもはまだまだ発達の途上なので、一度で大きく変わることはないとしても、こうした微細な成長のサインを認めていくことが大事なのかなと感じました。
後日談
これまでわが家では、カードゲーム類は“休日にみんなでするもの”という位置づけでしたが、あずさに挑まれたら平日でも人数が少なくても、できる範囲で応えるようになりました。
勝負の機会を増やして、「ルールの範囲内で勝負することを覚えてもらおう」「正攻法でのレベルアップを図ろう」「負けることに少しでも慣れさせよう」と考えてのことですが、今朝もパパとリバーシをしていたあずさの口から「チェーンジ!!」の声が響いていたので、まだまだ時間はかかるかもしれません。
執筆/にれ
監修:室伏先生より
スタートラインでのあずささんの行動を丁寧に共有してくださり、ありがとうございました。読んでいてこちらまで嬉しくなり、思わず拍手を送りたくなるようなエピソードですね。
にれさんがおっしゃる通り、これはとても意味のある“羽ばたき”でしたね。ご家族と先生方が積み重ねてきた関わりが確かに実を結び始めている証だと思います。また、にれさんが挙げてくださった、親としてできる関わり、「勝ちたい」という気持ちそのものを否定せず、ルールは一貫して伝え、正当な行動や努力の仕方を示し、負けた時の気持ちの扱い方を一緒に練習していく、どれも簡単なことではありませんが、子どもの感情と行動をつなぐために、とても大切な関わりだと思います。
お子さんの毎日は、このような小さな成長の連続で溢れていますね。忙しい日々の中で、意識していないと見逃してしまうこともありますが、その変化に気づき、言葉にしてフィードバックしてあげることが、次の一歩へとつながっていくのだと思います。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。