毒親から逃げ、居場所を失った家出少女をまちうけるのは…実体験から語る〈子どもたちへの強い思い〉
作家・佐藤まどかが、居所不明児童をテーマにした三部作の第2弾『少女と毒』を発売。自身の壮絶な実体験から生まれた子どもたちへの強い思いが物語に。本書に込められた、望まずして「毒」に侵されてしまう子どもたちへの切実なメッセージをお伝えします。
少女時代に家族の問題から新宿・歌舞伎町を深夜徘徊し、補導された経験を持つ作家・佐藤まどか先生。2026年5月20日に発売された『少女と毒』は、そんな先生の過去の実体験から生まれた、今同じ境遇にいる子どもたちへの強い思いがもととなってできた物語です。
居所不明児童、虐待や育児放棄、毒親、子どもをむしばむさまざまな現代の闇。なぜ今、この過酷な現実を描くのか。物語の力で子どもたちを救いたいと願う、佐藤先生の切実なメッセージをお届けします。
ほんのわずかな毒が子どもの心をむしばむ
16世紀の医師・錬金術師パラケルススが語ったとされているラテン語の「sola dosis facit venenum」は、「摂取量次第で毒かどうか決まる」という意味だそうです。別のバージョンでは、この前に「全てのものは毒になる」という一文もあります。
毒が人の場合はどうでしょうか。繊細な子どもにとって、心の毒の致死量はわずかです。とはいえ、毒と無縁な人生を送ることはおそらく不可能です。毒は身近なところにもあるのですから。
身近にありふれているさまざまな「毒」
よく耳にする毒親の存在もそのひとつです。子どもに暴力をふるう親。ネグレクトと呼ばれる育児放棄をする親。子どもを支配する親。子どもに犯罪をさせる親。自分の子どもたちのなかで差別をする親。過保護が過ぎてモンスターペアレンツになる親。自分の夢を押し付ける親など。
本来は弱者や子どもを助ける側なのに知らんぷりをする人もいます。毒でしかありません。子どもを誘拐したり、監禁したり、暴行や性暴力をふるうような大人もたくさんいます。彼らは猛毒です。
毒友もいます。あなたを貶める友。あなたを裏切る友。隠れてあなたを誹謗中傷する友。麻薬や飲酒、パパ活や売春など、あなたを悪の道に誘い込む友。あなたの命を危険に晒す友。スリや万引き、強盗、殺人などあなたに犯罪をさせる友。責任を取らず、逃げる友。「友」は「恋人」でも同じこと。この人たちは友でも恋人でもありません。あなたに毒を盛る彼らから離れなくてはいけません。
そして、自分のなかの毒。まわりに影響され、自分のなかでどんどん増えてしまう毒。これがもっとも厄介な毒かもしれません。なにしろ物理的な距離を置くことができないのですから。
毒から逃れるために、毒へ身を投じてしまう現実
居所不明児童三部作では、それぞれに立場の違う子どもを主人公にしています。『少年と悪魔』では、犯罪をさせる悪魔のような父親に対する少年の心の葛藤を描きました。彼の父親は悪魔であり、毒親です。
『少女と毒』では、毒親の典型のような母親や毒に満ちた学校から逃げ出して、東京に仲間を探しに行く少女が主人公です。しかしそこで出会うのは、さらに猛毒を放つ人々。でも、少女を助けようとする人々もいます。
現実の社会には、自分を守ってくれる存在であるべき保護者から逃げなくてはならない子どもたちがいます。学校でいじめられ、遠くに逃げる子もいます。彼らは居場所を失い、危険な場所に行きます。そこに行けば助かると思っている子もいれば、投げやりになっている子もいます。遊びがてら軽い気持ちで行き、罠にはまって墜落していく子もいます。
『少年と少女』佐藤まどか作
地獄の入り口で引き返す
そういう子たちが集まっている場所の一つが、新宿区歌舞伎町のトー横と呼ばれる広場です。歌舞伎町で一斉補導が何度も行われ、以前に比べるとトー横キッズを見なくなりました。しかし、いなくなったわけではありません。全国には他にもたくさん、子どもたちが集まるこういった場所があります。
私自身、子ども時代に歌舞伎町で深夜徘徊をしていて補導されたことがあります。そのころの私は、深刻な家族の問題を抱えて苦しんでいました。学校では先生のパワハラ毒や、苦労知らずのお嬢さんたちの悪質なからかい毒にも辟易していました。登校拒否をし、居場所を求めて家出をし、知り合った不良グループと親しくなり、新宿や渋谷で深夜徘徊をしていました。彼女たちのなかには、かなり危ない橋を渡っていた子もいました。
私が実は怖がりで気難しい性格だったのが幸いして、地獄への入り口で立ち止まり、引き返すことができました。母が私の母でもあることに目覚めてくれたことや、自分自身の将来の夢を見極めたことも大きかったと思います。今よりも危険や誘惑が少なかったのも事実です。
それでも、優等生と非行少女、普通の人生と地獄のような人生は、紙一重でした。
毒を描き、毒を制したい
自ら地獄の入り口を見た実体験、そして現代の闇を描かなければならないという必然性を感じ、苦い過去に向き合い、新たに現代の状況をよく調べ、この物語を書きました。毒をもって毒を制す、といいますが、毒を描く物語で毒を少しでも制することができたら、と祈ります。
厳しい現実に目を背けていては何も解決しません。子どもたち自身が、毒を徹底して避ける、もしくは解毒する必要があるのです。そのためには、まず毒を知ることが必要です。実体験してからでは遅いので、物語の力で伝えることが必要だと、強く感じています。
三部作では、少しずつ希望が増していきます。暗い地下から少しずつはい上り、やがて空から明るい日差しを受けて地上に出るようなものになっています。第3弾は秋に出版される予定です。
物語を通して、思春期の子どもたちが猛毒の底なし沼に落ちる前に気づき、引き返してくれることを、また、それを助ける人が増えるように願いを込めて。
『少女と毒』
佐藤まどか先生自身の実体験から生まれた子どもたちへの強い思いが込められた『少女と毒』は、「居所不明児童」をテーマに描かれた三部作「消えたこどもたち」の第2弾。
中学2年生の少女が、家にも学校にも居場所を失い、追い詰められた先にたどり着いたのは、夜の東京・新宿、歌舞伎町。絶望の淵で見つけた「居場所」は甘い猛毒のように少女を、暗い闇へと引き込んでいきます。
絶望を抱えた子どもたちが集う歌舞伎町で、少女は生きるために「猛毒」に手を染めるのか──。現代の新宿を舞台に、家出少女の絶望と再生をリアルに描いた物語です。
〈佐藤まどかの「消えたこどもたち」三部作〉
第1弾 『少年と悪魔』
第2弾 『少女と毒』
第3弾 『ぼくたちはここにいる』(2026年秋)
三部作 第1弾『少年と悪魔』