Yahoo! JAPAN

阪神大震災で語り継がれる500人の「避けられた死」-。静岡市立静岡病院が取り組むDMAT車両のクラウドファンディングを機に学びました。

アットエス

災害現場の救命救急では「避けられた死」に向き合わなければならない。静岡市立静岡病院が災害派遣医療チームDMAT(ディーマット)の専用車両更新で取り組むクラウドファンディングを機に学びました。避けられた死とは救急医療が届けば迎えることがなかった死。DMAT発足の契機となった阪神大震災(1995年)の当時、大災害に対応する医療は脆弱でした。医師や病院も被災しライフラインは途絶え、治療を懇願する声の増大に組織的に対応できませんでした。関係者の間で、平時の救急医療レベルの提供があれば約500人の命を救うことができたとの報告が語り継がれています。

DMATはDisaster Medical Assistance Teamの頭文字をとって名付けられ、日本DMATの発足は2005年。厚生労働省は「災害急性期に活動できる機動性を持ったトレーニングを受けた医療チーム」と定義しています。多数の傷病者の発生を覚知してから48時間以内に救命救急活動を開始する機動性が特徴。加えて、各地から集うDMATは連携し、被災地域に必要な医療提供体制の立て直しに役割を果たします。

「がれきの下の医療」

静岡県保健医療計画によりますと、静岡県内には23のDMAT指定病院があります。南海トラフ巨大地震で甚大な被害が出る可能性が高いため、静岡県の保健医療計画は広域的支援の受け入れ(受援)の体制も規定しています。

指定病院の一つ、静岡市立静岡病院のDMATは2013年に創設されました。熊本地震、能登半島地震で活動実績があります。24年の能登半島地震では3陣にわたり計15人が石川県で活動しました。避けられた死を回避するため被災地では「がれきの下の医療」と称される活動が重要です。倒壊家屋などの下敷きになって身動きが取れない人に点滴などを施し、挫滅(クラッシュ)症候群を回避する医療はその代表例です。

ただ、静岡病院のDMATは能登の現地で活動を展開する際、思わぬ障害に立ち向かうことになりました。

静岡病院のチームは雪道で必要になる装備を整え静岡を出発しました。ただ車は標準的なワンボックスカー。参集拠点の能登総合病院(七尾市)にたどり着いたものの、展開を任された活動では悪路の移動が隊員の安全を脅かしました。被災地ではDMATの相互連携による活動の調整が不可欠ですが、他チームでパンクや車の破損で活動の遅延が生じました。がれき撤去や応急補修で救命救急ルートを開通させる「道路啓開」は国や自治体の責務ですが、それが滞るほど被災地のダメージが大きかったのです。こうした経験から、静岡病院のクラウドファンディングでは悪路に対応できる車の購入を目指しています。

大震災ごと異なる死因

災害死を減らす医療体制は機能や役割の不断の見直しがなされています。近年、風水害が一層ゲリラ化し、多数の被災者が出る災害や突発事案も複雑多様化しているからです。

警察庁などによりますと、関東大震災では死因の87%が火災でした。阪神大震災は建物倒壊による頭部損傷や窒息などが83%、東日本大震災では津波による溺死が92%でした。航空機や列車事故、感染症のパンデミック(大流行)などを含め、救命救急の最前線に立つDMATの役割は状況に応じた柔軟な対処が必須です。負傷や長期化する避難生活が心身に深刻な症状をもたらす災害関連死もその一つで、終息が見通せない避難生活が心身に深刻な影響を及ぼすことが分かってきました。

深刻化する災害関連死

旅行者血栓症(エコノミークラス症候群=深部静脈血栓症)と称される症状が知られています。長時間、同じ姿勢で座っていると脚部の静脈に血のかたまり(血栓)ができることがあります。この血栓が肺に至り、肺の血管を詰まらせる肺塞栓症を引き起こすと、最悪の場合呼吸困難で死に至ることがあります。スペースが限られた避難所や車中泊などで起こりやすい。また、断水でトイレの使用がままならず、水分摂取を控えて脱水症状を引き起こすことがあります。

さらに免疫力の低下による感染症の重症化など、被災地に潜むリスクの除去は幅広い知見で対処する必要があります。直接的な災害死が発生しなくとも、災害関連死は避難生活を強いられる被災者の誰にも起こりうるため、たとえ規模の小さな災害であっても対策の必要性が減じられることはありません。

「避けられた死」とDMATの意義=厚労省「災害医療のあり方検討会」資料より

上の図解は厚労省の「災害医療のあり方に関する検討会」で報告された資料です。治療が間に合えば生還できる人は時間と共に減ります。これは「避けられた死」に至る人が時間と共に増えていくことを意味します。DMATの役割は発災後48時間が最重要。並行して被災地域の医療提供体制は復旧が進みますが、急性期対応から役割が入れ替わる48時間前後に医療の供給と需要にギャップが生じる可能性が検討会で問題提起されました。

考えたい医療資源の適切配分

DMATの救命医療は48~72時間とされているので、図解のような状況が頻発しているわけではありません。ただ、被災地の医療体制は正常化に応分の時間がかかるので、DMATの活動期間を1~2週間に延長する体制や、DMATとは別にダメージを受けた医療機関が組織体制を立て直す移行期を支援する医療チームの派遣が提言されました。しかし、被災地で多くの医師に入ってほしいとの願いがあっても、その医師が日常勤務する医療機関にも治療を待つ患者がいます。大規模災害時に限りある医療資源をどう配分すべきか、皆で考えなければなりません。

病院の大半が赤字経営を強いられている時代。人件費アップや物価高騰で経費は増大しても治療費は自由に上げられないからです。静岡市立静岡病院は高度専門医療と「断らない救急医療」で地域の基幹病院として健全経営を続けていますが、不断の経営改善を迫られる状況に変わりありません。病院は正面玄関脇にDMATクラウドファンディングを説明する特設コーナーを設けました。そして「地域とのつながりを強め、地域の未来を共に考える機会に」と、DMATの活動支援への理解を呼びかけています。

◇静岡市立静岡病院によるDMAT車両購入のクラウドファンディングのページ
https://www.shizuokahospital.jp/news/crowdfunding2025/中島 忠男(なかじま・ただお)=SBSプロモーション常務
1962年焼津市生まれ。86年静岡新聞入社。社会部で司法や教育委員会を取材。共同通信社に出向し文部科学省、総務省を担当。清水支局長を務め政治部へ。川勝平太知事を初当選時から取材し、政治部長、ニュースセンター長、論説委員長を経て定年を迎え、2023年6月から現職。

【関連記事】

おすすめの記事

新着記事

  1. エギングタックルのちょい投げ釣りでシロギス25匹【京都府】潮目狙いで20cm超え良型が連発!

    TSURINEWS
  2. 佐野晶哉さん登壇 あべのハルカスで映画「トリツカレ男」スペシャル点灯式

    OSAKA STYLE
  3. 「絶世の美女も骨になる」死者の変わりゆく9つの姿を描いた『九相図』

    草の実堂
  4. ザ・マミィの下積み時代。ショーパブや寿司屋のバイト、あるいは借金

    文化放送
  5. 空へひと漕ぎ——御在所岳に誕生した絶景ブランコ

    YOUよっかいち
  6. 【1日限定】食とインテリアの祭典「tokoro. marche」築43年の古民家で開催!(札幌市)

    北海道Likers
  7. 【実食】マンボウって食べられるの?水族館でおなじみのあの魚が缶詰に → 恐る恐る食べてみたら意外な味だった!

    ロケットニュース24
  8. くすみカラーで垢抜ける。不器用さん向け「ボタニカルネイル」のやり方

    4MEEE
  9. ハイアット初のラグジュアリー温泉旅館ブランド「吾汝 Atona」、「割烹吾汝」を京都・祇園白川に2026年秋開業

    WWSチャンネル
  10. 西日本総合展示場新館で「大じどうかんまつり 2025」 北九州市内39児童館が集結する年に一度の大イベント【北九州市小倉北区】

    キタキュースタイル