【直木賞候補作を読む⑤岩井圭也さん「われは熊楠」】「転んだ兄」への失望
静岡新聞教育文化部が200字でお届けする「県内アートさんぽ」。不定期で、7月17日に選考発表がある第171回直木賞の候補作を紹介する。第5弾は岩井圭也さん「われは熊楠」。10日のSBSラジオ「3時のドリル」では、同賞の選考予想を行った。
在野の巨人、南方熊楠の生涯を新視点で。脳内の自問自答、男色への言及とともに興味深かったのは、「兄やんは、天狗やから」とその異能に憧れ、金銭援助も惜しまなかった弟・常楠の手のひら返し。収入がないまま一心不乱、研究に邁進していた熊楠が、所帯を持ち子を抱くことの幸せを口にした時、常楠は言う。「凡夫に成り下がりおって」。社会の異物だったはずの兄が「転んだ」。その失望はいかばかりか。本作のもう一つの主題だ。(は)