【10万円物件が大変身!驚きの格安空き家活用】淡路島で見つけた空き家2軒を夫婦でセルフリノベーション。解体必至の建物が人気宿に【兵庫県淡路市】
阪神エリアの市街地から車で気軽に訪れられる立地でありながら、海・山・里の美しい景観とのどかな空気に包まれた淡路島。この島をたまたま訪れた服飾デザイナーの夫妻は、草木に覆われた10万円の空き家と出合い、DIY改修の喜びを知ることに。すてきな空き家再生を実現し、見事に活用している情熱家のもとを訪ねました。
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掲載:2025年6月・7月合併号
兵庫県淡路市(あわじし)
兵庫県南部の淡路島は瀬戸内海最東端に浮かぶ周囲約203㎞の島。タマネギに代表される農業のほか、酪農や漁業も盛ん。その北部に位置し、近年レジャー開発も進められているのが淡路市。神戸市と明石海峡大橋で結ばれ、大阪市内からは車で約1時間30分。
夫婦でセルフリノベーション。解体必至の建物が人気宿に
10万円で購入してセルフリノベした「AKIYA nehemiah」にて智哉さん・シェリルさん夫妻。「生い茂る草木や海風で積もった砂を撤去し、外壁に断熱材や防水シートを入れ、焼き杉板で仕上げました」。
「AKIYA nehemiah(アキヤ ネヘミア)」
2名1泊2万5000円~(食事なし)。 小型犬1頭3000円(2頭まで)。
智哉(ともや)さん●39歳/シェリルさん●40歳
ファッション業界で働いていた智哉さんと、来日後ファッションブランドを立ち上げたオーストラリア出身のシェリルさんは、東京で出会って結婚。現在は、散歩が大好きという愛犬チェスナと暮らしながら、貸し別荘2軒を運営。
初めて訪れた淡路島で10万円の家に出合った
神戸の市街地を経て長いトンネルを抜けると、全長3.9㎞余りの明石海峡大橋が現れる。その向こうに広がるのが、緑豊かな淡路島。都市とは違う素朴な風景を目にした瞬間、「この島に住もう」と智哉さん・シェリルさん夫妻の気持ちは決まった。自分たちでファッションブランドの仕事を営んでいたが、都会の生活やしがらみに疲れ、軽ワゴン車であてのないデトックス旅に出ていたときのことだった。
翌朝「あわじ暮らし総合相談窓口」を訪れ、紹介された地元の不動産会社へ。予算に合う物件がなかなか見つからず、「価値があるかわかりませんが……」と提示されたのが、淡路市の西海岸にある昭和中期築の小さな平屋。価格は10万円で、受け取った資料も外観の写真1枚だけだった。
興味をひかれて見に行くと、10年以上放置された空き家は草木で覆われ、海岸から吹き付けた砂が堆積。室内も雨漏りやシロアリ被害で劣化が著しい。それでも「面白そう。まあ10万円だし」と、初めて自分たちの家を買う喜びが勝り、購入を決断。千葉県内の借家は帰途に解約の連絡を入れた。
【Before】
初めて購入した空き家は草木に埋もれるように立ち、自然と同化。どう見ても住める状態には見えなかったが、不思議とひかれるものがあったという。
2015年5月、淡路市内の賃貸マンションへ移り住み、ファッションブランドの仕事を続けつつ、空き家の片付けに着手した。大量の砂の搬出や草刈り、粗大ごみの処分を進めるが、2人とも家の改修は未経験。なすすべもなく3年が過ぎた。
セルフリノベにハマり宿をつくろうと方向転換
転機は18年5月。クリスチャンになった2人は、本業の仕事を休止し、ともに寿司屋でアルバイトをしていたが、教会がある神戸市への引っ越しを思い立つ。放置していた10万円の空き家は倉庫兼アトリエに改修しようと考え、ひたすら土壁を崩していたところ、見かねた近所の大工さんが「それ以上やると倒壊するぞ」と声をかけてきた。そして、筋交(しじかい)の入れ方、柱のホゾ継ぎと入れ替え、根太(ねだ)の掛け方といった、家づくりの基礎を3日間で指南された。
「ノウハウを凝縮して上手に教えてくれたので、あとはインターネットで調べながら自分たちで作業を続けました。既存の洋服も分解するとつくりがわかるように、家の仕組みも解体を通して少しずつわかってきたんです。次第に作業が面白くなり、神戸への引っ越しをやめて朝から晩まで夢中で作業しました」
当時は淡路市内で別の空き家を購入して住んでいたことから、10万円の空き家は一棟貸しの宿にしようと計画を変更。兵庫県の「空き家活用支援事業」の補助金や、廃材と2人のセンスを活かしてリノベーションを完了し、「AKIYA nehemiah」として20年7月に開業した。コロナ禍のさなかだったが、逆に他人との接触を避ける風潮が追い風になり、昭和レトロな雰囲気も好評を得て、順風満帆の船出となった。
まずは壁・床・天井を解体してスケルトン状態に。今にも倒れそうだった建物の壁に筋交いを入れて補強するとともに、シロアリ被害などで傷んだ柱は、建物をジャッキアップして入れ替えていった。
智哉さん・シェリルさん夫妻は、電気、ガス、上下水道工事以外のセルフリノベに挑戦!
10万円で購入してセルフリノベした「AKIYA nehemiah」改修のビフォアアフター
【Before】
【After】
リビングは和の趣を残し、珪藻土(けいそうど)塗りの壁やフローリング材を使った天井などで一新。キッチンは土間にして、コンロ台やシンク、収納を自作した。
【Before】
【After】
梁(はり)や柱の一部を活かし、天井を撤去。壁や天井に珪藻土を塗り、床はフローリングに。
【Before】
【After】
トイレと狭い廊下だったスペースを再構築。おしゃれな洗面台と坪庭が美しい浴室を新たに設置。
【After】
増築されていた部分を撤去してウッドデッキのテラスを新設。波音をBGMにバーベキューなどが楽しめる。
「完成したときは人生で一番幸せな気持ちでした。またその感動を味わいたくて」と話すシェリルさんとともに、「僕たちは空き家中毒」と智哉さんも笑う。「もう一度リノベーションに挑戦し、さらにおしゃれな宿をつくりたい」と、数カ月後には次の空き家を探していた。
「あちこち散歩しながら空き家を見つけたらポストに手紙を入れ、登記簿謄本を調べて遠くに住んでいるとわかればそちらに手紙を送るんです」と智哉さん。
21年5月、そのうちの1軒の持ち主から連絡が入り、田園に面した築50〜60年の2階建てを20万円で購入。やはり草木で覆われ、雨漏りによる傷みが顕著だったが、「そのままですてきな古民家よりも、ビフォー・アフターのギャップを感じられるほうが楽しい」とむしろ感謝した。
「AKIYA nehemiah」の裏に広がる海岸は、散策や釣り、夏の海水浴などに最適。
空き家再生への挑戦は、ワクワク感がたまらない
今回は土地の農地転用、未登記建物の登記手続きなども進めながら、草木を刈り、水路を清掃し、庭石や木の根を除去。初めての屋根の葺き替えでは、重いスレート屋根の解体に苦戦したほか、苦行のような土間打ちにも取り組んだ。こうして1年半で工事を終え、23年3月に開業した「AKIYA cornerstone(コーナーストーン)」は、イギリスのアンティークの建具を使った和洋融合のデザイン。宿泊客からの要望が多かった屋根付きのバーベキュースペースや大型犬対応のドッグランを設置し、人気のサウナも取り入れた。
20万円で購入してセルフリノベした「AKIYA cornerstone」は、建物裏側に広々とした芝生のドッグランを整備。傷んだ建物は解体し、バーベキューグリルやピザ窯付きの屋外ダイニングを併設した。
「AKIYA cornerstone」
2名1泊3万9000円~(食事なし)。小型犬1頭3000円~大型犬1頭4000円(頭数制限あり)。
【Before】
【After】
建物の形状や一部土壁の仕様を引き継ぎながら、窓、外壁、屋根を改修。外壁に焼き杉板を取り入れたレトロモダンな姿に生まれ変わった。
キッチンは吹き抜けにして、2階の一部をデザインとして活かした。アイランドキッチンやアンティークの建具が印象的。
生い茂っていた草木を伐採してドッグランの奥にサウナを設置する作業の様子。基礎から手づくりした。
薪ストーブサウナは、内装をヒノキ、ベンチをヒバで造作。クールダウン用の水風呂もある。
取り壊されてもおかしくない空き家を、あえて再生することについて夫妻はこう話す。
「そもそもお金がないのもありますし、見捨てられた空き家の可能性を確かめたい気持ちもあります。私たちにとって空き家の活用はビジネスではなく、あくまでもチャレンジ。ファッションでも何でも量産品があふれる時代に、一点ものの作品を残したいんです」
2軒目の宿の完成後、疲れきっていた2人だが、「またワクワクが欲しくて」と24年3月に新たな空き家を購入。今秋までの完成をめどにアトリエ兼ショップにリノベーションし、ファッションブランドをリニューアルして再開する予定だ。
「ずっと空き家のことばかり考えてきて、淡路島自体を楽しんでいない気はしますが、ここは都会に近いのに静かな環境が魅力です」と話す夫妻。最近は人生のバランスも大切だと考え、自転車に乗ったり、カヤックをしたりして過ごすこともあるという。
智哉(ともや)さん、シェリルさんに聞いた!
大変だったこと&楽しかったこと
●大変だったこと
「屋根の葺き替え中にシェリルが2階の屋根から転落したんです。幸いケガはなかったものの、初めての作業には多くの危険が伴うことを実感しました」(智哉さん)
「体力的にきつかったのが土間打ちです。コンクリートが固まる前に作業を済ませる必要があり、生コン車から30kgほどになるバケツを100回くらい運ぶ作業が本当に大変でした」(シェリルさん)
●楽しかったこと
「『もう価値がない』と言われた空き家が、自分たちの手で宿として完成したときには本当に感動しました」(智哉さん)
「どうなるかわからないほうが、やっていてワクワクします。見捨てられたような空き家を生き返らせていく作業は、クリエイターとしての作品づくりに通じる喜びがあります」(シェリルさん)
文・写真/笹木博幸 写真提供/智哉さん・シェリルさん