【真鶴 ショップレポ】道草書店 - 畳でくつろぐ町の本屋さん
真鶴駅から徒歩5分。坂を下ったところに、大きな屋根が特徴的な町の本屋さん「道草書店」があります。
道草書店がオープンしたのは2022年6月。書店を営む中村さんご夫婦は5年前に東京から真鶴に移住し、本の移動販売を続けるなかで、いまの場所と出会い、本屋を開くことになりました。
お店を構えるにあたっては、町の景観を守る「真鶴町まちづくり条例『美の基準』」を参考にし、元電気屋の建物がもつ古き良きつくりを生かしながら、丁寧に空間を整えていったといいます。
靴を脱いで、畳に上がる
道草書店は、入口のガラス戸を開けてすぐのところに書籍の販売スペースがあり、さらに奥へ進むと、靴を脱いで畳に上がることができる、奥に広がりのある空間になっています。
畳を進むと左右に小部屋があり、右側には秘密基地のような「こども図書館」、左側には机と椅子がしつらえてあり、静かに読書できるようなスペースになっていました。
右側のこども図書館
左側の机と椅子の小部屋
道草書店の特徴は、なんといっても店の中心に広がる畳スペースではないでしょうか。
お客さんから「おじいちゃんおばあちゃんの家に来たみたい」という声も上がるほど実家のような安心感があるこの書店、元は電気屋だった家を改装して作られたのだそうです。建物が丁寧に作られていたため、それを生かすかたちで手を入れ、元々あったサッシのない窓や、畳の位置などはそのまま残し、古くて新しい本屋へと生まれ変わりました。
店内では飲み物の販売もしているので、膝を崩してお茶を飲んだり、買った本を読んだり、大人も子どもも好きなだけくつろぐことができそうです。わたしもアイスカプチーノ(550円/税込)をいただきながら、畳でお話をうかがいました。
「本屋があったらいいのに」
5年前、自然豊かな場所で子育てをしたいとの思いで真鶴に引っ越してきた中村さんご夫婦。本屋を作った経緯をうかがうと、移住した当時のことを聞かせてくださいました。
「真鶴に住み始めて聞いたのは、本屋がなくて不便しているという地元の方の声でした。数年前に本屋がなくなってからは、本を手に入れるために3駅先の小田原まで出掛けなければいけない状態だったんです。インターネットを使えない方もいるなかで『真鶴に本屋があったら』という声を受けて、まずは本の移動販売から始めました。暮らすなかでひととの繋がりも増え、この物件を紹介してもらって、今の店舗の形になりました。」
取材している間も、地元の方や観光客の方が次から次へと店を訪れていました。朝から本の注文をされている方もいて、町になくてはならない場所なのだということを肌で感じることができました。
お店には「真鶴」や「海あそび」をテーマにした本が集まるコーナーのほか、自費出版のZINEコーナーもあり、中村さんご夫妻が手がけたZINEも並んでいました。観光の合間に片手で読めるような本も多く、旅の途中にふらりと立ち寄りたくなる工夫が感じられます。
「美の基準」が支える、真鶴の風景
印象的だったのが「真鶴町まちづくり条例『美の基準』」をもとにお店を整えたという話です。
『美の基準』というのは、1990年代、真鶴でリゾート開発の計画が持ち上がった際、水資源の問題をきっかけに真鶴町がつくった景観のガイドラインです。豊かな港町の景観を未来まで残したいという思いがこもった8つの基準から成るルールは、いま読んでも賛同できることがたくさん書いてありました。
「美の基準」には生活を豊かにするための59個のキーワード(例えば「実のなる木」「舞い降りる屋根」「壁の感触」など)があり、中村さんはこれを参照し、解釈しながら店づくりを進めたのだそうです。書店のシンボルのような大きな屋根は「守りの屋根」。その突き出した軒下は「小さな人だまり」になるようにイメージされたそうです。
冊子「真鶴町まちづくり条例『美の基準』」は道草書店でも取り扱いしています。真鶴の町づくりのエッセンスを知りたい方は、ぜひ中村さんに声をかけてみてください。
真鶴の景観に合うように作られ、真鶴に暮らす人のために作られた道草書店は、ただ本を買うだけの場所ではありませんでした。本と人をつなぐ、小さな交差点のような存在でした。
道草書店
営業時間
11:00〜17:00
定休日
水・日曜日、祝日
電話番号
050-3692-3793
支払い方法
現金、カード、電子マネー
アクセス
JR真鶴駅より徒歩5分
住所:〒259-0202 神奈川県足柄下郡真鶴町岩259-1
駐車場:なし