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五嶋龍がヴァイオリンひとつで築く豊饒な世界~『デビュー25周年リサイタル・ツアー』ファイナル・ステージをレポート

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KADOKAWA presents『五嶋龍 デビュー25周年リサイタル・ツアー』

ヴァイオリニストの五嶋龍が、2020年11月から12月にかけて、『デビュー25周年リサイタル・ツアー』を行った。北海道から沖縄に至る13公演。そのファイナル・ステージを、12月7日(月)、サントリーホールで聴いた。

今年は3月以降、新型コロナウイルス感染症拡大により、多くのコンサートが中止となり、ニューヨーク在住の五嶋も演奏活動を休止した。そして、11月21日(土)からのこのリサイタル・ツアーで、彼は、演奏活動を再開したのであった。

五嶋龍は、1995年、札幌のパシフィック・ミュージック・フェスティバル(PMF)において、佐渡裕の指揮のもと、わずか7歳でパガニーニのヴァイオリン協奏曲第1番を弾いて、本格的にデビューした。あれから25年。神童と騒がれた少年も、今や世界の檜舞台で活躍し、多くの人々に希望や慰めをもたらす大人のヴァイオリニストになった。

今回のツアーでは、フランスのドビュッシー、日本の岩代太郎、ドイツのブラームスなど、ニューヨークを拠点とする五嶋龍らしいインターナショナルなプログラムが組まれた。ピアノの共演は、パリ国立高等音楽院で学び、パリを拠点に活躍する鈴木隆太郎。

KADOKAWA presents『五嶋龍 デビュー25周年リサイタル・ツアー』

ステージに登場した五嶋と鈴木は、まず、サントリーホールを埋めた聴衆に、四方を向いて丁寧にお辞儀をした。コロナ禍でも空手のトレーニングを欠かさない五嶋のがっしりとした体つきが際立つ。そして、「みなさんへのあいさつ」(五嶋談)として、サン=サーンスの「イントロダクションとタランテラ」が演奏された。「イントロダクション(序奏)」では、ゆったりとした美しい音色やG線の深い響きを聴くことができた。そして、「タランテラ」でノリノリの速弾きに。“五嶋龍劇場”のスタートである。

続いて、「医療従事者への感謝」(五嶋談)として、エルンストの「夏の名残りのバラ」が無伴奏で演奏された。この曲は、17歳でリリースしたデビュー・アルバムにも収めた、五嶋のまさに十八番のレパートリーである。重音が多用され、ハーモニックスや左手でのピッツィカートなどの特殊技法とともに、ヴァイオリンの魅力を堪能することができた。

リサイタル前半の最後は、ドビュッシーの「ヴァイオリンとピアノのためのソナタ」。このソナタは、2018年のリサイタルでも取り上げるなど、五嶋が好んで弾く作品である。五嶋と鈴木はコミュニケーションをとりながらじっくりと演奏。第1楽章からフランス的な色彩と匂いを感じる。第2楽章は、弱音を基本に、繊細に演奏される。第3楽章も多彩な演奏が繰り広げられた。サントリーホールのような大ホールでこれほどの繊細な表現は勇気のいることだと思う。

リサイタル後半は、まず、プログラムに載っていないかった、イザイの「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第6番」が「アンコールの代わり」(五嶋談)として演奏された。濃密な重音。メリハリがあり、ロマンティックでありながらキレも良い。ヴァイオリンひとつで豊饒な世界が築かれた。

KADOKAWA presents『五嶋龍 デビュー25周年リサイタル・ツアー』

そして、岩代太郎の「The F50」が披露された。五嶋の初めての映画音楽参加作品となった『Fukushima 50』(2020年3月公開の、福島第一原子力発電所の危機を描いた映画)で使われた音楽を基に、五嶋龍の25周年ツアーのために今回新たに書き下ろされたヴァイオリンとピアノのための12分ほどの曲。五嶋は抒情的で心にしみいるような息の長いメロディをしっかりと歌い込んだ。作曲者の岩代太郎も臨席し、終演後、客席から五嶋と鈴木に喝采を送っていた。

最後は、ブラームスの「ヴァイオリンとピアノのためのソナタ第3番」。ブラームスは、2006年のリサイタルでヴァイオリン・ソナタ第2番を弾き、2006年にヴァイオリン協奏曲の映像を収録するなど、五嶋が早くから熱心に取り組んできた作曲家。この日のヴァイオリン・ソナタ第3番でも、五嶋は、ブラームスにふさわしい、しなやかな美音を奏でた。繊細な弱音表現に音楽家としての深まりを聴く。第2楽章は、大きなヴィブラートを用いた泣きたくなるような表現。涙なしには聴けない。第3楽章も勢いに任せず、鈴木とじっくりとコミュニケーションをとる。そして充実した第4楽章でリサイタルを結んだ。

五嶋が得意とする作品を並べた、デビュー25周年にふさわしいプログラム。今の彼のヴァイオリンの魅力を満喫することができた。

五嶋龍ほど、聴衆とのコミュニケーションを大切に考える音楽家は滅多にいないし、彼ほど聴衆に直接語りかける音楽家は稀である。例年とは違う、特別なリサイタル・ツアーの締め括りに、五嶋は聴衆へ「2021年が良い年になりますように」と語りかけた。今回の五嶋龍のリサイタルは、コロナ禍に苦しんだ2020年を超えて、確かに2021年に希望をつなぐコンサートとなった。

左から 鈴木隆太郎(ピアノ)、五嶋龍(ヴァイオリン)

取材・文=山田治生 撮影=鈴木久美子

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