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匿名劇壇『10年分の短編集』福谷圭祐+石畑達哉+松原由希子が劇団の10年を語る。「10年間をみんなで振り返る、アルバムのような作品に」

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(左から)松原由希子、福谷圭祐、石畑達哉。

現代の若者たちのリアルな心象風景を「コメディでもコントでもなく、ジョーク」(劇団紹介文より)のような群像会話劇で観せていく、大阪の劇団「匿名劇壇」。2011年に近畿大学の舞台芸術専攻の学生たちによって結成され、2016年に主宰の福谷圭祐が『悪い癖』で「第23回OMS戯曲賞」大賞を受賞したことで、一気に注目される存在に。劇団員の外部出演も増えていく中で、今年で結成10周年を迎えることになった。

本公演以外にも、イベントなどで短編を発表する機会も多い匿名劇壇。独創的なアイディアと切れ味の鋭い会話で展開される短編こそ、福谷の真骨頂という声もある。『10年分の短編集』は、未上演or新作を含めた14本の短編をランダムに上演し、劇団の歴史を振り返っていく公演だ。全作品の作・演出を務める福谷と、役者の石畑達哉&松原由希子に、本作の見どころと、劇団の10年について語ってもらった。

■短編は、純粋にエンターテインメントを作るという手付きで創作ができる。

──まずは、10周年を迎えた今のお気持ちを。

福谷 感慨深いです。でも昨年の時点では「10周年を華やかに祝おう!」という気持ちは、コロナ禍というのもあって、さほど持てなかったんですよ。でも今年に入って、がんばれば普通に公演が打てるぐらいの情勢になってきたし、じゃあ10年目を祝うような公演をやっても、バチは当たらんやろう……という気持ちになりました。

松原 そうでしたね。でも「10周年公演をやります」と公に言った時に、やっぱり自分でも10年を振り返ることができたので、今は「やる」と言ってよかったなあと思います。

石畑 僕は入団させてもらったのが、劇団の立ち上げから2年後やったんで、実際には8周年なんですけど(笑)。でも8年とは思えないほど長かったですね。すぐに過ぎ去ったというより、一公演ごとにギュッギュッと時間を詰め込んだ感じ。すごく長い、濃密な時間を過ごしたなあという思いがあります。

松原 私は逆に、すごくあっという間だった(笑)。(結成して)2・3年ちゃうかな? っていうぐらいの体感です。

匿名劇壇『ときめく医学と運命的なアイディア』(2020年)。 [撮影]堀川高志(kutowans studio)

──その記念公演を、過去作品の短編集にしたのは?

福谷 (結成)一年目から、いろんなイベントに出させていただく中で、ワンステージしか上演してないような短編が、結構あったんです。演劇の作品を作るのって、短編と言えども結構な労力を割くじゃないですか? それをそのままにしておくのはもったいないし、自分たちの歩みを振り返って確認するという意味も込めて、それらにもう一度向き合ってみるのは、10周年にふさわしいんじゃないかと思いました。

──実際に今稽古をしてみて「10年で変わったなあ」と思ったりしますか?

福谷 大いにしてますね。最初の頃は、自分が脚本を書いたり、演劇を上演することに対して、気恥ずかしさとか物々しさを感じていました。だから「俺は今演劇をしてるから、こういう台詞をしゃべります」みたいな説明をいちいち入れて、足元を確認していかないと前に進めないという気持ちが、当時はあったように思います。

──確かにメタフィクション構造の多用は、初期の匿名劇壇の大きな特徴でしたね。

福谷 (結成から)5・6年経ってから、普通にストーリーと台詞を並べていけばいいんじゃないの? という風に変わった気がします。それは「演劇をやる」という特別さに、自分たちが慣れたからかもしれないです。

松原 稽古をしていても、本当に時代を感じます。トガッていた時代から迷走に入って(笑)、今はこんなことになっているという流れが、すごく見えてくるので。

石畑 その中には僕が入団する前に、お客さんの立場で観させてもらっていた作品もあるんですよ。だから「あの時観てた奴をやれるんや」という感慨もあります。ただラインアップの中に僕の一人芝居もあって、今は「大丈夫かな?」という気分です(笑)。

──短編特有の楽しさって、何かありますか?

福谷 余計なことを考えずに書けることですね。評価されたいとか、高尚な作品を作ろうとか考えず、ただただ純粋にエンターテインメントを作ろうという手付きでやれます。だから僕らの短編を観て「面白い」と思った人が、長編の舞台に足を運ぶと「ああ、意外とそういう劇団なんだ」と戸惑うかもなあ……と思いますね。

石畑 長編だと、福谷さんが後半書ききれてない感じの時がよくあるんですけど、短編は後半まで気持ちよく、勢いでザーッ! とやれる感触があります。

松原 だから福谷は、短編の方が合ってるのかな? と思う時がありますね。すごくノリがいいというか、ポンと乗って演じられる作品が多いように感じます。

匿名劇壇『賭けてもいいけど』(2021年)。 [撮影]堀川高志(kutowans studio)

──マラソンというより、50mダッシュを10本見せるみたいな感触。

福谷 そうだと思いますし、自分でも「そっちの方が得意なんだろうなあ」と思います。でも長編も、割と50mダッシュっぽいと思うんですよ。(長編の)『悪い癖』(2015年)も、いくつかの短い話を組み合わせた構造ですし。それが功を奏した場合はいい作品になるんですけど、奏さなかったら「ちょっとよくわからない」ということが、往々にしてあります。

──匿名劇壇は、極力劇団員だけで上演するのも一つの特徴でしたが、今回は結構ゲストが入ってますね。

福谷 (劇団員の)芝原(里佳)が役者活動を休止してるから、物理的に人が足りないという事情があったんですが、それだけじゃなくて、この機会に新たな価値創造ができたらいいなあと。たとえば『Ctrl+H』は、女性4人は全員客演で、男性4人は全員劇団員という顔合わせにしました。ただ今の時点では、正直劇団員だけの時の方が面白いんですよね。

──匿名劇壇の演技は、特に目立ったメソッドがあるように見えないのですが、意外と劇団員以外の人には難しいんでしょうか?

石畑 こんなこと言ったらアレですけど、他の劇団さんに行くと「かなり自由にやっているなあ」と感じます。匿名劇壇はやっぱり、福谷さんの中の劇のあり方みたいな所が、すごく大きなウエイトを占めてますから。だから久しぶりに匿名劇壇に戻ったら、合わせるのがちょっと難しかったりします。ゲストだったら、さらに難しいんじゃないかなあ。

松原 特有の温度感、ニュアンスがあるんですよね。それを上手く入れないと、なかなか台詞がしっくり来ない。実はちょっと力を抜く方が、上手くいくのかな? その辺になじんでもらうのは、少し時間がかかるかなあと思います。

福谷 メソッドというより、方言や文化に近いのかもしれないですね。その土地で育った人が持つ、まとってる匂いみたいなものが、匿名劇壇には少なからずあるんですよ。それが「力を抜いてる」ってことかもしれないけど、僕も上手く言語化できないんです。だからこそ、今回は新たな文化圏を作るということに挑戦したい。

僕らが客演さんに合わせるわけでも、僕らに合わせてもらうのでもなく、違う国同士が一緒になって、第三の選択肢を見つけるようなことができればいいなあ、と。劇団員だけで作るのは楽しいし面白いけど、今後も劇団を続けていくためには、それ以外の手段も増やしていかねばならないだろう、という風にも思います。

匿名劇壇『賭けてもいいけど』(2021年)。 [撮影]堀川高志(kutowans studio)

■長期スパンのクリエイトが、劇団を長持ちさせるために必要かも。

──劇団10周年の話に移りますが、旗揚げ当時のことを思い出してもらえますか?

福谷 僕らが大学三回生の時ですけど、当時は劇団にするつもりはなかったですね。

松原 そうそう、「劇団作りたいから集まって!」というんじゃなくて「一回(芝居を)書きたいから、出てくれない?」みたいな感じ。その後少し時間が空いてから、また声をかけてもらって……という風に流れに乗ってたら、いつの間にか劇団名がついて、気づいたら10年が経っていたという感覚です。

──とは言いつつ、第二回公演でいきなり関西小劇場の名門[ウイングフィールド]で公演を打つなど、最初から攻めた姿勢でしたね。

福谷 それは当時いたメンバーの中に、かなり社交性の高い人間がいたからです。イベントの主催者とつながったり、学外に向けて発信することの関心が、彼は非常に高かった。今は東京に行って、オブザーバー的な関わりになってますが、彼がそうやって最初に行動してくれたのは、すごく幸いでした。

匿名劇壇『気持ちいい教育』(2013年)ダイジェスト。

──石畑さんが入るのは、その直後ですか?

石畑 そうです。第三回公演に出してもらった後に「(正式に)入れてくれないか?」と、福谷さんに何回も電話しました(笑)。

福谷 その第三回公演の『気持ちいい教育』(2013年)で「space×drama」という企画に参加したんですけど、そこで優秀作品に選ばれて、翌年「(シアトリカル)應典院」(現・浄土宗應典院本堂)で公演をする権利を獲得したんです。それで卒業後に、就職云々ではない未来を選択するということになりました。

──最低でも一年は、劇団を続けなければいけなくなったと。

福谷 一年先のスケジュールが決まってしまったわけですから(笑)。さらにその後『悪い癖』が「OMS戯曲賞」を取ったのも大きかったです。あの賞は再演に助成金が出るというのもあって、さらにその先の未来の切符をもらったという感じがしました。この2つの出来事が、劇団を続ける大きなターニングポイントになった気がします。

匿名劇壇『悪い癖』初演(2015年) 。 [撮影]河西沙織(劇団壱劇屋)

──役者のお二人は、特に印象に残ってる作品はありますか?

石畑 先ほどの『気持ちいい教育』は、稽古期間中に肋骨を折ってしまって、痛み止めを飲みながら出ました(笑)。初めての匿名劇壇の公演というのもあわせて、思い出深いです。

松原 私は『大暴力』(2019年)かな。その前に、なかなか作品作りが思ったようにいかない時期があったんです。作・演出もそうだし、役者の方も「もう一段階抜けた所に行きたいけど、どうやればいいんだろう?」と悩んでいて。それが『大暴力』をやった時に、演じていて何かがポン! と抜けた感覚があって、そこからちょっと楽になりましたね。

福谷 2016年ぐらいから「ちゃんとしたストーリーテリングがしたい」という思いに満ち満ちているのに、それが全部しっくり来なくて「ダメだ」と思う時期が続いていて。そこで開き直ったと言うか、「演劇をやってることについて言及しないと、何だか恥ずかしい」と考えていた頃にもう一度立ち返って、何のてらいもなく書いたのが『大暴力』でした。

──5分程度の超短編をガンガンつなげる「フラッシュフィクション」の手法を、長編として初めて用いた作品でしたね。

福谷 そうですね。僕の個性と、周りからの評価がある程度マッチするような作品作りが、この方向ならできるんじゃないかと、ようやく思えるものができました。

匿名劇壇『大暴力』(2019年)。 [撮影]堀川高志(kutowans studio)

──第三のターニングポイントの作品になるかもしれないですね。他にも、劇団を続けるために「こんなことをしたらいいんじゃないか?」と考えていることはありますか?

石畑 福谷さんの本を、舞台だけじゃなくて映像でもやりたいです。特に今回上演する新作は、すごく映像向きだと思うので、劇団員で面白い映像が作れたらいいなあと思います。

松原 ここらでもう一度、外の人にすごく出会いに行きたいと思っています。劇団のプロデュースで、劇団じゃない人たちの方が多い公演を打つとか、逆に違う人の企画を入れた公演をするとか。外(の舞台)に出ると「あ、こんな所にこんな人がいたんだ」みたいな人に、本当によく出会うんですよ。お客さんやスタッフも含めて。そういう人たちとも関わることで、匿名劇壇ももうちょっと開いていけたらなあと思います。

福谷 劇団員にはすでに話してるんですけど、今のように1~2ヶ月の短期集中で作品を作るのではなく、週一回ペースで1年ぐらいかけて、一つの作品を作っていくことができないかな、と。今の作り方を繰り返すのは、特にこのコロナ禍ではコストとリスクがデカすぎると思うんです。もう少し長期的なスパンでクリエイトして、いつでも上演できるようなレパートリー作品を所有する。それが今後、劇団を継続していく秘訣になるのでは……という仮設を、今立てている段階です。

──それが成功したら、今後の小劇場演劇のクリエーションに大きな影響を与えそうですね。それでは最後に、10周年記念公演の意気込みなどを。

福谷 お祭りごとになるかもしれないけど、僕自身は「祭り」って意識は、さほどないです。でも「匿名劇壇をもっと知ってほしい」という気持ちは、いつもより強い公演かもしれません。僕らを応援してくださってる方には「こんなことをやってきたんだよ」と、一緒に振り返って楽しんでもらいたいし、知らない人たちには「匿名劇壇がどんな劇団なのか」をわかりやすく見せられる。それこそアルバムのような作品になると思うので、そんなつもりで観ていただけたらなあと思います。

松原 正解が出ましたね(一同笑)。

石畑 一人芝居があるから、とてつもなく物量が多くて、ホンマに大変やなあと思っています。でも「10周年記念公演だから」と気負わずに、これまでと同じように……そしてこれからも同じように作品に向き合って、お客さんにしっかり楽しんでもらうことを考えて、取り組んでいきます。

松原 今の稽古段階でも「あ、こういう作り方もできるんだ」と、これから先の劇団活動に活きるような新たな発見がありました。だから本番でもお客さんと一緒に、10年を振り返るだけでなく、11年目に続いていく新しいことを発見していくような、そういう時間が作れたらと思います。

匿名劇壇『10年分の短編集』チラシ。

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