人類の英知⑧ ~ 特殊相対性理論
人類が生んだ偉大な3大理論。その1つである特殊相対性理論の2回目です。
▼人類の英知(シリーズ通してお読み下さい)
「人類の英知」シリーズ
同時の相対性:「同時」を共有することは不可能
光速が不変であるとの認識に立つと、(我々の常識からすると)とても不思議なことが起こります(図)。
右に向かって進んでいる電車の車両の後方に「後」さん、中央に「中」さん、先頭に「前」さんがいます。電車の中央に置かれたランプを点灯します。「中」さんから見ると、申し上げるまでもなく、ランプの光は「後」さんと「前」さんに同時に着きます。
この出来事は、電車の外にいる「外」さんからはどう見えるでしょうか? ランプが点灯して届くまでに電車が前に進みますから、ランプの光はまず「後」さんに届き、その後に「前」さんに届くように見えるはずです。もし、ランプの点灯を合図に試験を開始するとしたら不公平になってしまいます。
これは一体どうしたことでしょう? 電車の中にいる人には同じ時間に到着し、外さんから見ると違う時間に到着する!
実は不思議でも何でもなく、実際に起きていることなのです。「同時」は見る立場によって変わる相対的なもので、我々がそれに気づかないのは、光速があまりに速いからに過ぎないのです。
異国でのスポーツ中継を見ていると、このことを思い出します。例えば、2022年カタール開催のサッカーワールドカップでアルゼンチンが優勝した瞬間。日本では早朝3時ごろでしたでしょうか。しかし、テレビを通して見るその瞬間は、同地での優勝の瞬間とは違います。0.1秒か1秒かわかりませんが、私が優勝を認識した瞬間は現地で勝負が決した瞬間よりも遅れています。情報の伝達速度が有限である以上、同時は絶対に共有できないのです。
「同時を共有するためには固く抱き合っていないといけない」というのをテーマにして小説を書こうと何度も思っていますが、成就していません。閑話休題。
光時計:時間の遅れを証明する
図のように、30万㎞離れた板に向かって光を発射します。光の速度を30万km/秒とすると、到達までの時間は1秒です。これは自明です。
同じ機器を横方向に進む電車に乗せましょう(電車の速度はなんでもよいのですが、ここでは24万㎞/秒とします)。電車が進んでしまうため、光は斜めに進むことになります。すると、地上にいる人の光時計の針が上に達したとき(=1秒経過したとき)、電車の中の光はまだ板には到達できないことになります。なぜなら、地上の光よりも長い距離を進まなくてはいけないからです。
地上で1秒経過したとき、電車の中の光は(斜めに進んでいるため)地上からの高さ18万㎞のところを進んでいることになります(ピタゴラスの定理…30×30-24×24=18×18)。光の速さは一定ですから、18万㎞÷30万㎞/秒=0.6秒。すなわち、電車に乗っている人の時間は0.6秒しか経過していないように見えるのです。すなわち、動くと時間の経過は遅くなるのです!
このケースから、「光速の80%で運動をすると、なんと時間の流れは60%になる」ことがわかります。
必要な数式はピタゴラスの定理だけですから中学生でも理解できます。しかし、我々の常識とはかけ離れているため、発表当時、理解できる人は少なく(発表直後に理解したのは世界で3人のみ、ポアンカレ、プランク、ウィーンとも言われます)、何年、何十年たっても、相対性理論が間違っているとの論文が続けて発表されていました。
相対性:時間はそれぞれの尺度で流れる
上の例では、地上にいる人から電車を見ると時間が遅れるとの結論になりました。ここで立ち止まってみます。運動は相対的なものです。電車が並走すると、自分の電車が動いている/止まっているのか、相手の電車が止まっている/動いているのか判断がつかない不思議な感覚になることがあります。
すなわち、上の事例は全く逆にもみることができます。電車に乗っている人から見ると、地上の人が動いていることになります。すなわち、電車の人から見ると自分の時計はそのままで、地上の人の時計が遅れて見えるのです!!
摩訶不思議ですね。時間は相対的なものでしかないのです。
空間も伸び縮みする
ここで、あれっ?と思った方、鋭いです。
速度=距離÷時間です。そして、光の速度は一定です。ということは、時間が遅れるのであれば距離も同じ割合で短くならないといけません。そうです、動いている空間は縮むのです! 光速の80%で走る長さ20mの車両があるとすると、その長さは12mに縮んで見えることになります(もちろん、物体が実際に縮むのではなく、縮んで見えるということです)。
光速が一定との原理を採用すると、空間と時間は別々のものではなく、一体の「時空」としてとらえるべき対象であり、かつ、伸び縮みするのです。すなわち、アインシュタインは空間と時間を統一したのです。
最も著名な方程式「E=mcの2乗」
相対性理論のもう一つの重大な帰結は、「エネルギーと質量は等価である」です。
エネルギーと質量が等価? エネルギーを質量に変換することも、質量をエネルギーに変換することも可能なのです。その関係を表したのが最も著名な方程式であるE=mcの2乗です。cは光速で、その2乗なので、とてつもなく大きい数字になります。
博士の方程式を使った反応には核分裂と核融合の二つがありますが、核分裂では1gあたり2000万kcal(原油2分)のエネルギーを、核融合では1gあたり8000万kcalのエネルギーを生み出せるそうです。
核分裂の平和利用が原子力発電であり、悪魔的利用が原子爆弾です。
ウラン原子核1つ→ヨウ素原子核1つ+イットリウム原子核1つになる過程で、質量がわずかに欠損し、それが膨大なエネルギーを生みます。
一方、太陽は核融合反応です。アインシュタインが登場する前は、太陽がどうしてこれほどの膨大なエネルギーを生み出し続けられるのかがわかりませんでした。水素原子4つがヘリウム原子1つになる過程で、質量がわずかに欠損し、それが膨大なエネルギーを生んでいるのです。相対性理論は太陽の仕組みも解明したのです。
また、最近話題になっている常温核融合発電(とはいえ、商業利用はまだ先のことでしょうが)は、太陽を地球上で実現するとも言えます。
アインシュタインの涙
第2次世界大戦中、ドイツが原子爆弾を開発しているとみられていました。アメリカに亡命していたアインシュタインは危機感を持ち、当時のアメリカ大統領に原子爆弾の開発を進言したのです。
有能な物理学者オッペンハイマーをリーダーとし、アメリカの優れた科学者をまさに総動員し、現在価値で300億ドルとも言われる開発費を投じた原子爆弾開発計画「マンハッタン計画」は、世界で初めて原子爆弾を開発し、そして、日本に投下したのです。
戦後、博士は、涙ながらに原爆が日本に投下されたことを謝罪しました。しかしながら、アインシュタインの進言がなくとも、原子爆弾は開発されたでしょうし、アインシュタイン自身は開発には一切関与していません。博士の理論なかりせば、現代社会は今のままではありません。糾弾すべきは、博士の頭脳を悪魔的利用した愚かな政治家です。
また、アインシュタイン博士は親日家でした。ノーベル賞が発表されたのは、博士が日本に向かう船の上にいるときでした(1922年)。日本には40日ほど滞在し、東京・仙台・名古屋・京都・大阪・神戸・博多で一般講演をし、専門家向けにも複数回講演をしました。一般向けの最初の講演は慶應義塾大学で2000人の聴衆が6時間(1度の休憩あり)の講演中、誰も席を立たなかったと伝えられています。
以上、人類史上最も反常識的な理論である特殊相対性理論について説明しました。
次回は、人類史上最も美しい理論である一般相対性理論について書きます。
執筆者:フロンティア・マネジメント株式会社 村田 朋博