「THE DAY」から「THE REVO」へ――ポルノグラフィティが『ヒロアカ』と共に描いた革命の物語【インタビュー】
2025年10月4日(土)より放送中のTVアニメ『僕のヒーローアカデミア FINAL SEASON』。同作のOPテーマ「THE REVO」を歌うのは、アニメ第1期のOPテーマ「THE DAY」を歌ったポルノグラフィティ。FINAL SEASONを飾るにふさわしい、アニメのその先の未来を感じるような、とても感動的な楽曲だった。
今回はポルノグラフィティのお二人、岡野昭仁(Vo)と新藤晴一(Gt)に、「THE REVO」を中心に今作での楽曲作りについて聞いた。
【写真】ポルノグラフィティが『ヒロアカ』と共に描いた革命の物語【インタビュー】
あのときより大きくなった『ヒロアカ』に合う楽曲を…
──アニメ『僕のヒーローアカデミア』の第1期OPテーマ「THE DAY」は、今、どのように育ってきているのでしょうか?
新藤晴一さん(以下、新藤):これまでもキャリアの中でやってきたタイアップ曲のうちのひとつではあるのですが、リリース後も『ヒロアカ』のファンの方に本当にかわいがってもらえて、世代を超えたところにも届いているんですよね。知り合いの息子さんなんかも聴いてくれている、なんて話も聞くので…。そのおかげで、とても特別な曲にしていただいた印象はすごくあります。また、こういうタイアップの速い曲は、ライヴを盛り上げる力を持っているので、ライヴでも重要な曲になっています。
岡野昭仁さん(以下、岡野):晴一が言ったように、作品のファンの方にも届いているし、ライヴでも盛り上がるんですけど、僕自身はいつもギリッギリで歌っているので、マジで心してかからないといけない曲なんです(笑)。
でも、ファンの方にとって大事な曲であることはわかっているから、ライヴのセットリストにもよく入るんですよね。ただまぁ、そのギリギリ感が良いのかもしれないですね。わかんないですけど(笑)。今後もセットリストに入ってくるでしょうから、それがちゃんと歌えるようなボーカリストでいないといけないな、というモチベーションにはなっています(笑)。
──「THE DAY」から9年、特にここ数年はコロナや災害なども多く、エンタメについて考える機会が多くありました。その中でアーティストとして、音楽への向き合い方に対する変化などはありましたか?
岡野:音楽っていうものに何ができるのかみたいなものを、みんなが考えた時期でもありましたよね。必要か必要でないかと言われたら、衣・食・住に比べたら必要ではない、みたいな話もありましたけど、その反面、それだけでは成り立たないのがこの世の中で、やっぱり楽しみは必要ですし、そこで音楽の価値みたいなものを、もう一度自分たちも確認できたんです。
それまで、音楽界に広く球を打ってきたと思うんですけど、目の前にいるファン、応援してくれている方々に対して、どういうものを届けられるか、その的が絞れたというか……。結果、それが広がり、新規のファンが増えたりもしたんですけど、しっかり直に届くようにしようという意識は、コロナを経てなのか、年齢なのかわからないですけど、強くなっていったような気はします。
新藤:そうですね、それだけで時間を全部使えてしまうくらい大きな質問ですよね……何が言えるかな…。本当に色んな方向から考えられるからすごく難しいんだけど、エンターテイメントという観点でいうと、僕はミュージカルもやっていたので、演劇界の人たちって、今という時代が何であるかとか、社会的にこの作品にどういう意味があるのか、それをとても重要視するんです。それはもともと演劇自体が反体制というところから始まっているからでもあるんですけど。
僕自身がそういう価値観に触れたことで、今この作品を出すということに何か意味が必要だと感じるようになったというか。もちろん商業的なこともすごく大切だけど、ただ出すだけでは意味がないから、いろいろ見つめ直すことは増えました。
──エンタメを誰に向けて発信するのか、そして時代にとってどんな意味や意義があるのか。確かに、改めて考える機会になりましたよね。そして、9年の時を経て、『僕のヒーローアカデミア FINAL SEASON』のOPテーマを担当することになりました。お話があったときの率直な感想をお聞かせください。
岡野:実はファイナルの曲ができたらいいよねという話は前からしていたので、その意味ではスタッフさんが頑張ってコンセンサスを取ってくれたのかなと思います。「THE DAY」をやった価値というのもわかっていたし、周りの熱量に応えたいという想いは、僕自身も強かったので、気合いは入りました。
──ファイナルは、ポルノグラフィティさんしかいないのではないかと、個人的にも思いました。
岡野:ありがとうございます。でも錚々たるアーティストが主題歌を歌ってきたので、その中で選んでくれたのは、本当にありがたいことです。
新藤:僕の認識が合っているのかわからないけど、第1期をやらせてもらったときと今とでは、『ヒロアカ』の意味合いが変わってきていると思うんです。作者の堀越耕平先生の想いとか、『ヒロアカ』ファンの想い、いろんなアーティストが楽曲を歌ってきたので、そういうところからも、どんどん大きくなっていったものがあると思うんです。
それほど大きくなったものに、最後にもう一度、楽曲を作らせていただけることはとても幸運だし、縁も感じているので、今の『ヒロアカ』の世界に合う曲が書けたらいいなと思いました。
寄り添い過ぎないことで生まれる相乗効果も大切
──ポルノグラフィティさんは、タイアップのときは、どうやって楽曲を作っていくのでしょうか?
岡野:お互い曲を作って、そこからこの曲でいこう!というのを決めて、今回は晴一が歌詞を書くという流れでした。
──岡野さんの作曲ということになりますが、どんな想いで作曲していったのでしょうか?
岡野:先程話した熱量というのは、アニメサイドのスタッフさんと話したときにも感じました。アニメサイドからは、大団円のような、(続編があるとかではなく)作品としてこの先があるような、生徒たちの未来が見える感じを曲で書いてほしいと言われたんです。
そのイメージにどこまで近づけているのかはわからないんですけど、僕としてはコミックス42巻分の積み重ねがあって、それぞれのキャラクターの成長が最後に爆発している感じがしたんですね。やっぱり40巻~42巻にかけての堀越先生の熱量が本当にすごかったので、そこでの爆発を楽曲に込めたいなと思いました。もちろん、ファイナルなので、大団円になるようにしたかったですし。でも、わかりやすくサビが頭にくるとか、キラキラしたJ-POPのアニソンにするというのはちょっと違うなと思ったので、これまでと少し違う感じにしようとは考えていました。
──映画の主題歌のような印象すら受けました。新藤さんは、楽曲を聴いた印象はいかがでしたか?
新藤:きっと『FINAL SEASON』に合うだろうなと思いました。そこから僕なりに歌詞を書いていくんですけど、最初に書いたものに対して「愛情が足りない」という感想が、自分たち側のスタッフから返ってきたんです。きっと『ヒロアカ』のファンなんでしょうね。これだと、アニメサイドに持っていけない。アニメサイドの熱量がすごいから、もっともっと愛情を持たないと、ファンの方の熱量に合いませんと言われたんです。
なかなかそういうダメ出しをもらうことってないんですよ。この言葉が作品としては不適切だとか、そういうリテイクはあるけど、「愛情が足りてない」と言われることはないから、そこで改めて、今回はそういうプロジェクトなんだなと思い直して、アニメのファイナルに当たる部分をもう一度読み直したんです。その時に、何か革命的なことが起こって、ここまで来たんだということを感じたので、物語と同じテンションで、より響く言葉を選んで、歌詞を書くようにしました。
──まさに「THE REVO」というタイトルに込められていると思います。響く言葉でいうと〈THE DAY HAS COME〉もそうですよね。「THE DAY」にも出てきた歌詞なので繋がりも感じますし、アニメとしても大きなワードでもありますから。
新藤:きっと響いてくれていると思うので、そう言っていただけて嬉しいです。「THE DAY」を書いた頃の、始まった当初の『ヒロアカ』って、我々が小さい頃に読んできた『週刊少年ジャンプ』から生まれた作品として違和感がなかったんです。だからそのままジャンプ魂で歌詞を書いたんですけど、そこから『ヒロアカ』の世界は、その範疇にとどまらず、広がっていった『ヒロアカ』ワールドがあるんです。だから終盤は、読んでいても、第1期の頃と同じ作品には思えなかったし、それだけの広がりがあるので、それを表現したいと思って出てきたワードが〈革命〉だったんです。
──それもタイアップだからこそ出てきたものだと思うのですが、自分たちで作る曲と、タイアップでは、やはり考え方自体が変わりますか?
岡野:そうですね。やっぱりタイアップは作品ありきだから、そこにまったく合わないものを作っても仕方がないんです。しかもアニメだと、そこにアニメの映像が付くのが前提なので、そこを考えないなんて、やる意味がないことだと思います。ただ、寄り添いすぎるのも違うんですよね。
──アニメサイドの意見はリスペクトするけど、というところですね。
岡野:今回は特にそうでした。あと、堀越先生が42巻に書いていたコメントにもすごく共感したんですよ。第1話で自分の実力以上のものを描いてしまって、そのあとは、描くたびに不安で大丈夫かな?と思っていたと。で、ファンの方の言葉を聞いて、それを道しるべにここまで描いてきました、みたいなことだったんですけど、そこに勝手に共感したんです。うちらも「アポロ」で勢いよく出たはいいけど、そのあと大丈夫かな?と思っていたので。
なんか、そこが合致するのっていいなとすごく思いました。寄り添い過ぎてもいけないですけど、『ヒロアカ』サイドの息遣いとか考えを、自分がどう咀嚼するのかというのはすごく大事だし、それが相乗効果になっていくのは好きですね。
──新藤さんも、作品に寄り添いつつ、自分たちの想いも込めていくようなイメージでしたか?
新藤:それが一番ですかね。テーマ曲の一番いい形って、「アンパンマンのマーチ」だと思うんです。多分『それいけ!アンパンマン』の世界を再現して歌詞を書こうとしたら、あの歌詞にはならないはずなんです。
〈なんのために 生まれて なにをして 生きるのか〉という要素って、アニメを見ているだけでは感じないんですよ。この曲は、原作のやなせたかし先生が歌詞を書いているから、ちょっと特殊な例ではあるんですけど、この曲があることで、『それいけ!アンパンマン』が伝えようとする世界みたいなものを、我々が考察する幅が広がるわけです。頭が新しくなるということには、もっと違う意味があるのではないかとか、この曲があるだけで考えることになる。それって、『それいけ!アンパンマン』に寄り添い過ぎていないからだと思うんです。その相乗効果って理想的だと思うので、僕らもそういう風になりたいなと思いながらタイアップ楽曲は書いています。それはアニメだけでなくドラマやCMのタイアップもそうですね。
アニメサイドのスタッフに負けない熱量で歌えた
──アレンジに関してだと、最初のピアノのフレーズが、何かが明けていくような、霧が晴れるような革命感なものを感じました。
岡野:アレンジもすごく悩んだところで、アニメサイズだと、そのイントロはないんですよ。でも、本当に色々なやり取りがあったので、細かくは覚えていないんです(笑)。
今回は時間もあったので、アレンジを一緒にやったtasukuくんとやり取りをしていたんですけど、今日は取材日だからLINEのやり取りを見返したんです。そしたら、本当に申し訳ないくらい色々なことをお願いしていて(笑)。「ここはミュートじゃなくて、ハーフミュートにしてくれないか」とか、無理難題ではないけど、かなり細かいことを言っていたなと思いました。なのに、結局また最初に戻るみたいなこともいっぱいあったんです。
そうやって細かいところを決めてからは、tasukuくんのテクニックによるところは大きくて、ラストのサビの転調とか、終盤の展開は、彼のアイデアでした。
──後半にかけて、盛り上がっていきますよね。
岡野:僕が作曲した時のイメージでは、淡々としているかな?っていう感じだったんです。そうならないために何か工夫したほうがいいかな? それはドラムパターンとかなのかな?って話をずっとしていたので、淡々にならないためのアレンジを彼が考えてくれたんですね。
先程話したように、アニメソングのOPテーマとはちょっと違うようなものにしたいという想いがあって、それが首を絞めたところもあるんだけど、そこを上手くやってくれたし、楽しみながら悩み、色んなパターンを試しながらできたので、ファイナルに相応しい、自分の中ではすごく手応えのある曲になりました。
──後半のドラムが突き進んでいく感じは、すごく好きでした。
岡野:ドラムもすごく悩んだんですよ。普通のエイトビートにするのか、今のパターンにするのか。僕は淡々とするほうにしたかったんですけど、アニメサイドから、「前のドラムパターンがいいです」と返ってきたので、それを活かしたし、BPMももう少し遅くしたかったけど、「やっぱり疾走感がほしいです」という意見があったし。でも、そういうやり取りは、決してネガティブなものではなく、どんどんどんどん良くなっていったので、これぞタイアップの然るべき姿だなと思いました。
──ギターソロも感動的でしたし、すべてが良い方向に向かっていったんですね。
岡野:そうですね。ちなみに2Aの平歌の展開は、1番と同じことをしたくないという僕の流行りです(笑)。それはソロプロジェクトで若い人といろいろやってきたからこそ生まれたものですね。今はAメロ・Bメロ・サビだけではないですからね。Eメロ、Fメロまであるの?どういうこと?みたいな(笑)。そのあたりのトレンドは僕なりに取り込みました。
──レコーディングではどんなことを意識しましたか?
岡野:歌に関しては、自宅で録ったんです。そのとき海外にいたので、自分ひとりでこもってやりました。機材も自分で持って行って、エンジニアさんと相談しながらセッティングをして…。歌詞はだいぶ前にもらっていたので、かなり歌いこんで行ったんですね。その意味では、自分の中で世界が出来上がってからレコーディングしたので、アニメの熱量に負けない熱量で歌えたと思っています。
新藤:楽器は日本で録ったんですけど、やり慣れたレコーディングメンバーだったので、良いグルーヴで録れました。やっぱりこういう曲は疾走感みたいなものが大切になるので、それを“せーの”で録った感じです。
でも、すごくスキルフルなメンバーなので、2~3回やったら終わっちゃうんですよ(笑)。この曲も、打ち合わせをして、さぁ録ろう!となったら、すぐに終わってしまう。そのスピード感に、僕も置いていかれないようにギターを弾きました。
──これを数テイクで録り終わってしまうのはすごいですね。
新藤:でも本当にそうなんですよ。いつも一緒にレコーディングをしているんですけど、ちょっと気持ち悪いんですよね(笑)。演奏力だけではなく、楽曲への理解度もあるから、こちらの意図を汲み取ってくれるんです。それには毎回びっくりします。
──譜面通りにやるだけでしたら、その人にお願いしないでしょうから、多くの人から声がかかるプレーヤーというのは、理解度が高いのでしょうね。ご自身のフレーズのこだわりはありますか?
新藤:自分のソロに関しては、アレンジしてもらった通りに弾いた気がします(笑)。
──もう一度、〈THE DAY HAS COME〉という歌詞について聞きたいのですが、これに対するファンの反応はいかがでしたか?
新藤:ロック魂が何かはわからないですけど、期待したものを裏切りたい気持ちというのが基本的にあるんです。でも、その気持ちがあったとしても、ここは応えたかったんです。
でも、いろいろ考えはしたんですよ。期待通りのことをするなんて、ロックとしてどうなんだとか。でも、ここは違うなと。だからスタッフに言われる前に入れました(笑)。言われたら絶対に入れたくなくなるので。
岡野:でも作曲した時、ここは歌詞がない予定で、WOW WOWと歌い合う感じにしようかなと思っていたんです。
──確かに、二段階のサビみたいになっていますよね。
岡野:でもそこで「ここは歌詞にしませんか?」と言ってくれて。結果的に、この言葉が入ったので、面白いなと思いました。熱量の高い、イメージがある方が周りにいてくれて、その相乗効果を実際に感じた瞬間でした。
ただ、ここはファンが歌うパートだと思っていたから、あまりキーのことは考えていなかったんですよね。それもあって、めっちゃ高いところに設定していたから、ヤバいなと思いながら、いま歌っています(笑)。
──「THE DAY」よりキツいですか?
岡野:最後のところだけですね。〈神聖なMOVE SILENT VOICE THE DAY HAS COME〉は、血管が切れそうになりながら歌っていることは間違いないです。
──では最後に、ファンへメッセージをお願いします。
岡野:みなさんが愛したからこそ、ここまで大きい作品になったと思います。堀越先生の力、アニメスタッフの力、そしてファンの方が前へ進めてくれた作品だと思います。それは僕らミュージシャンもそうなので、親近感を感じながら、携わることができました。ぜひファイナルシーズンで号泣してください!
新藤:本当に「THE DAY」への感謝と「THE REVO」をお願いします。これに尽きます!
[文・塚越淳一]