ポール・マッカートニー83歳の誕生日おめでとう!カッコいいベースラインを年代別に紹介
ポール・マッカートニーが生み出したベースライン
1962年10月5日にシングル「ラヴ・ミー・ドゥ」でザ・ビートルズのベーシストとしてデビュー以来、多大な楽曲のボトムを担ってきたポール・マッカートニー。それまでのポップスの既成概念にとらわれない斬新でメロディアスなベースラインは多くのベーシストに多大な影響を与えた。
今回は、彼が生み出したベースラインを、1960年代、1970年代、1980年代、1990年代、2000年以降と、10年ごとに区切って5曲をピックアップして考察していきたい。
ソウルミュージックの影響が強い「タックスマン」のファンキーなリフ
1960年代のビートルズ時代は、「サムシング」や「アンド・ユア・バード・キャン・シング」のようなメロディアスなベースラインも捨てがたいが、ここではキャッチーなリフプレイに注目。リフプレイでは、「カム・トゥゲザー」や「レイン」なども人気だが、今回は「タックスマン」をピックアップ。ソウルミュージックの影響が強いファンキーなリフとなっており、ファンでなくとも一度は耳にしたことがあるという人も多いだろう。
リフの最初の2つは同じ音だが、いきなりオクターヴに飛ぶという幅広い音域を使用している。このパターンは「レイン」でも持ち入れられている。また「カム・トゥゲザー」も、別の音を1つ挟むが、やはり1オクターヴ跳躍するラインになっている。その後は、16分音符を取り入れたソウルミュージックの影響を感じられる細かなラインでリフを組み立てている。また、ソウルミュージックでは指弾きのベーシストが多いのに対し、ポールはピックでのプレイ。そのため、適度な黒っぽさを感じられながらもロック的なテイストもある。なお、「タックスマン」では、攻撃的なギターソロもポールが弾いている。
「バンド・オン・ザ・ラン」のユニークなベースライン
1970年のビートルズ解散後には、ソロアルバム『マッカートニー』(1970年)やリンダ・マッカートニーとの連名アルバム『ラム』(1971年)のリリースを経て、同年にウイングスを結成。1981年に実質的な解散を迎えるまで、同バンドで数多くのヒット曲をリリースした。
中でもユニークなベースラインなのが「バンド・オン・ザ・ラン」(1974年)だろう。この楽曲の大きな特徴は、最初はスローテンポな8ビートのパート、次はファンキーな16ビート、最後はカントリー風のシンプルな8ビートと、3つの曲をメドレーにした3部構成のメドレーになっていることだ。
最初のパートでは、任意のポジションを弾く際にもハンマリング・オンやグリッサンドを加えて歌心たっぷりにプレイ。白玉のパートでもクレッシェンドさせながら8分で刻んでおり、それまでのポピュラー音楽ではあまり聞かれなかったアプローチを行っている。
次のパートでは、8分音符中心のラインだが、効果的に16分音符を入れて16ビートを提示。そして、3/4拍子のオーケストラパートを挟んで、3つ目のカントリーパートに。サビは上物のコードが変化しながらも、ベースは分数コード的なアプローチ。とはいえ、コードトーンには無い6thを入れて上物のコードにも聴こえる個性的なサウンドを生み出している。
優れたメロディメイカーということを感じさせる「エボニー・アンド・アイボリー」
1980年代に入り、本格的なソロ活動を開始したポール・マッカートニー。スティーヴィー・ワンダーとの「エボニー・アンド・アイボリー」(1982年)、マイケル・ジャクソンとの「ガール・イズ・マイン」(1982年)や「セイ・セイ・セイ」(1983年)、エルヴィス・コステロとの「マイ・ブレイヴ・フェイス」(1989年)など、ビッグネームなミュージシャンとのコラボレーションも目立った。
これらの楽曲でベース的におすすめなのは「セイ・セイ・セイ」だが、この曲はネイサン・ワッツがベースを担当しているので、「エボニー・アンド・アイボリー」をピックアップ。特徴的なのは、コードの構成音だけを使用したベースラインではなく、ここでも6thを強調したラインをプレイ。一般的にはコードの構成音を使用したベースラインにすることが多いが、ポールの場合は構成音以外の音も加えて、よりメロディアスなベースラインを生み出している。そして、16分音符を多用した細かい譜割はソウルミュージックの常套句。単にコードを支えるだけではなく、グルーヴを生み出し、メロディアスでありながら躍動感に溢れたサウンドを構築。ベーシストであると同時に優れたメロディメイカーということを感じさせる。
ひねりのある「明日への誓い」のポールらしいベースライン
1990年代に入ると、純粋なオリジナルアルバムは『オフ・ザ・グラウンド』(1993年)と『フレイミング・パイ』(1997年)の2枚だけ。1980年代には5枚のオリジナルアルバムをリリースしていたので、創作ペースが一気に落ちてしまった。その中から、『オフ・ザ・グラウンド』収録の「明日への誓い」をピックアップ。
アルバムは、ボーカルも含めたワンテイクで録音され、最小限のオーバーダビングのみに留められるなど、ライブ感溢れたサウンド。そのため、ベースラインもシンプルなものが多い。本楽曲も同様で、トライアド(3和音)のコードの構成音を分散させたベースライン。一般的には、ルート音から音程が上がっていく(下から上へ)ラインが多いが、ポールの場合はルート音が最高音で、そこから構成音の最下部まで下がってからルートを目指して上がっていくアルペジオ。必ずしも全部がこの通りではないが、シンプルなラインでもちょっとひねってあるのがポールらしい。
ベーシスト心を擽る「グラティチュード」
最後は、21世紀に入ってからの作品で、『追憶の彼方に〜メモリー・オールモスト・フル』(2007年)から、「グラティチュード」をピックアップ。オープニングのパートは、ベーシスト心を擽るベースラインだ。
コードが変化しながらもベースが同じ音をずっと鳴らし続けるペダルポイントを取り入れたコード進行。各小節に3弦開放弦の “A音” を頭に弾き、音を鳴りっぱなしにさせながら、ハイポジションでオブリガート的なメロディを加えていく。低音のベース音が弾かれていながらも、ハイポジションでのメロディアスなラインも同時に弾くという、一人二役的なベースラインで、開放弦をベース音としたことから可能となったアイデア溢れたベースライン。ベースの構造を知らなければ、どちらのパートもオーバーダビングしたのかと思ってしまうかもしれない。
ビートルズの結成から60年以上も第一線で活動を続けるポール・マッカートニー。現在もベーシストとして多大な影響を与え続けている。