【草なぎ剛×樋口真嗣】名作『新幹線大爆破』がリブート! スリルの先にある“人間の本質”とは
爆弾を仕掛けられた新幹線がノンストップ走り続けるという、タイムサスペンス映画の傑作『新幹線大爆破』(1975年)が、新たな“怪物”となりよみがえる。『日本沈没』でのタッグ以来、「友達みたいに仲良し♪」な主演・草なぎ剛と樋口真嗣監督が語る情熱の舞台裏。
草なぎ剛
1974年生まれ、埼玉県出身。俳優として、2020年公開の映画『ミッドナイトスワン』では第44回日本アカデミー賞最優秀作品賞・最優秀主演男優賞に輝く。樋口真嗣監督とは、『日本沈没』(06年)でタッグを組み、『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN エンド オブ ザ ワールド』(15年)にも出演。
樋口真嗣
1965年、東京都出身。主な映画監督作品に『日本沈没』(2006年)、『のぼうの城』(2012年)など。『シン・ゴジラ』(2016年)では第40回日本アカデミー賞最優秀作品賞と最優秀監督賞を受賞。
「主演はまた他の誰かじゃ……って半信半疑だったからね」
「監督、カッコいいの履いてんじゃーん」「フフフ。履いてきた」。この日、監督が着用のパンツは草なぎさんからのプレゼント。仲良し対談の始まり始まり〜。
草なぎ 昨日、監督と試写を観て「俺たち最高だよ〜」って肩抱き合ったんですよ。『日本沈没』の時から勝手に監督とは波長が合うと思ってて。監督、僕の前ではいつも子供みたい。僕の子供の部分と共鳴するんだろうなあ。もう大好き。
樋口 そうね(笑)。剛君とはずっと連絡を取り合っていて、舞台に出れば観に行って、俺たちも何かやろうよって言いながら20年近く経って。
草なぎ 監督が新作を撮るたびに「剛君、今度僕ね」って話してくれるんです。でも、いつも違う人が主役なの。今回も斎藤工君が主役なんじゃないかって半信半疑だったから「俺が高市!? やっと来たぜ〜!」って。
樋口 (キャスティングは)やっぱり運とかチャンスとか巡り合わせなんですよね。僕は僕で他の映画で剛君がすっごくいい芝居をしてるのを観て、やばいぞ、どんどん先に行かれてるぞ! しかも俺が撮ってない作品で! って悔しがってました。だから今回はホントうれしい。
—— その草なぎさんは今回なんと車掌役。原作(映画)と異なる注目ポイントです。
樋口 今回、シナリオを作る前に、もし今、新幹線に爆弾が仕掛けられたらどうなるのか、タイムラインを作ってみたんです。すると一番大変なのは車掌。あらゆる権限を委ねられていて、判断を下さなければいけない。お客さんが騒ぎ出したら、車掌が治めなくちゃいけない。
一方、運転士はストイックに運行に専念する。原作の千葉真一さんみたいにバーナーで爆弾除去して、ひと暴れする運転士さんはいない(笑)。そこで今回は、車掌・高市を主役にし、その人間力に賭(か)けたわけです。
車掌・高市の私生活が語られない深いワケ
草なぎ いやぁ、この役はすごく難しかったです。クセを何もつけられないから。
樋口 高市は、基本的に仕事のことしかしゃべらないんです。そこに僕の思いを込めるしかない。だから、セリフの一字一句にこだわりました。もっと設定を掘り下げて高市が家族を思い、家族と仕事のどちらを取る? とかやりたくなるけど、JRの規則で乗務員は仕事中、携帯を小さなロッカーに預けなければいけないんですよ。
草なぎ スマホの写真を見て家族に思いを馳(は)せたくても、できない……。
樋口 そのルールを破るわけにはいかないんです。
草なぎ でも、唯一高市の心情を表す場面があるんですよ。自分の中で湧き上がる思いをとどめるように、ふと鏡を見る場面。あれはもともとなかったですよね?
樋口 そう、明日にはセットを壊すという撮影最終日に、何か他に撮りたいシーンはないかなって考えて、思いついた。
草なぎ 試写を観てここにつながるのか!って、感動しました。
—— 高市の役作りはどのように?
草なぎ 撮影に入ってからは、新幹線に乗るたびに意識してアナウンスを聞いたり、職員の方を見るようになりましたね。大阪出張に行く時は東海道新幹線も利用するんだけど、お? 今日の車掌のアナウンスは滑らかだなとか、結構巡回してるけど乗客は少なそうとか。荷台を細かにチェックする方は、車両に出る時も丁寧なお辞儀をするなとか。鉄道業界の内側を知ってから見ると、より面白いし勉強になって。みんなぴっちりしてるけど、人によってやっぱり個性があるよね。
—— 観察力ですね。監督が今回、東北新幹線を舞台にした理由は?
樋口 震災以降、東北には足を運んでいますが、食べ物もお酒も本当においしくて。特に仙台より北は未知の世界だったのでなおさら素晴らしい!って(笑)。すみません、そんな思い入れもあります。「はやぶさ」にしたのは、なるべく長く走れる路線がいいと思ったからです。最初は「こまち」も候補だったんですけど、大曲にスイッチバックがあって止まっちゃうんだよね。
草なぎ 止まっちゃだめだもんね。
樋口 爆発しちゃうからね(笑)。
—— たしかに! 今回は、JR東日本の特別協力も話題です。実際に運行している「はやぶさ60号」を特別ダイヤで7往復走行しながらの撮影だったそうですね。
樋口 おそらく歴史的に初めてです。アクシデントがないよう、事前に注意事項をどっさりとJRさんからいただき「こ、こんなにも!?」って驚いたんですが、職員の皆さんが日々当たり前の規則として守っていることなんです。たとえば、点字ブロックには荷物を置いてはいけないのはもちろん、踏んでもいけません。それを必要とする人がいるからという理由が一つ一つに、ちゃんとある。
—— 何か発見はありましたか?
樋口 驚いたのは、とても少ない人数で運行していること。車掌には担当する区間まで移動するための「便乗」制度があるので、高市の後輩も「はやぶさ」に乗っていますが、通常車掌は一人なんです。すごいことですよね。そういうJRの秘密や鉄道人のスピリッツに触れるたびにもう、感動の連続で。
草なぎ 監督、すごい鉄道マニアだからね。
樋口 そう。僕が一番うれしかったのは、利府にある新幹線総合車両センターの始発列車に乗せてもらったこと。最後尾の車両にカメラを設置して、ずらりと並ぶ新幹線のオールスターを撮影できた! よく見ると、今なぜここにこの車両が? というつっこみどころもあるんだけど、ま、いいか!って。
草なぎ ああ、あの場面かー。監督はすごく緻密な絵コンテを描くし、乗り物には特に息を吹き込むようなところがあるけど、どこからが創作でどこまでがリアルか、実は僕自身、全部を分かってるわけじゃないんですよ。新幹線の内部の構造とか、え! ここにこんなネジが使われてるの!って思ったり。
樋口 フィクションもあるけど、実際に車両で存在する部分や、リアルな想定もある。原作にも描かれている、新幹線がとあるアクシデントを回避するため、ギリギリで他の車両とすれ違うサスペンスシーンでは、JRの方が「今はたくさん路線があるので、そんな危ない方法をとらずに逃がせますよ」とアドバイスをくださったりして。わははは。
草なぎ そうだったんだ、面白い〜。
犯人は死ななきゃならない? 樋口監督の出した答えとは
—— 鉄道のリアリティにこだわりながら、監督が今回、物語の中で一番考えたことはなんでしょう?
樋口 それは犯人。犯人を誰にするか。犯人の人生をこの映画の中でどう描くか。小学3年の時、原作の公開初日に映画館で観た僕は、爆弾なんか仕掛けて人を困らせたら、全員死ななきゃダメなんだ……!と打ちのめされたわけです。悪いことをするとこうなるんだという世の掟を教え込まれた。それがあの時代の答えの出し方。
いざ自分で撮やるとなった時、なぜ犯人は爆弾を仕掛けるのか、犯人はどうやってその罪を償うのかを、ものすごく考えました。前回は爆弾を仕掛けた3人は全員死ななきゃいけなかったけど、今回はどうやって罪を償うべきか?
草なぎ クライマックスのシーンを撮る日、朝9時に入ったら僕と、ある重要な人物が「ちょっと来てくれない?」って監督から呼び出されたんですよ。セットの新幹線の座席にデンって監督が座ってるんだけど、目がちょっと血走ってて涙ぐんでるの。あれ? これ長くなんのかなって思ったら「犯人は、世の中を憎んでいるんです」と、最初は役の話から始めた。そのうちに「僕は子供の頃に……」って監督の生い立ちから、ここに至るまでの人生の話になり、どこに着地するんだろうと思ったら「ノストラダムスの予言が外れて、大人を憎んできた!」と。
—— えっ、ノストラダムス!?
樋口 たぶん、僕が今まで撮った映画の中で、今回の映画は人間の本質にもっとも近づかなきゃいけない作品で。重要な役の二人は、人生がダメになるかもしれない、これで終わっちゃうかもしれない。だけど二人とも乗り越えなきゃいけないっていう場面で。だから形よりも、内側から作っていきたかった。
草なぎ 「このシーンがすごく大事」という気合いがとにかくすごい。監督の威厳で、それを隠そうとしてるんだけど、あふれ出るものは止まらず、気づいたら「あれ、お昼だ」って。2時間、キャストもスタッフも監督の熱さに巻き込まれて、プロデューサーも何も言えませんでした。
樋口 わはははは。
草なぎ でも『日本沈没』の時も大変なシーンを一緒に撮ったことを思い出して。それからみんなにすごくエンジンがかかった。結果的に監督が導いてるんですよ。
—— ちなみに監督はノストラダムスにどんな思いを……?
樋口 僕は、あそこで死ぬと思ってたんです。人類の文明もそこまで。でも、予言が外れて生きるしかなくなった。残りの人生どうするんだ!?って。俺は一人で死ぬんだ。みんなもそうだと思うけど。そしたら一人で死ぬのがすごく怖くなって。俺は何をしてるんだ? 何のために生きてるんだろうと。
そこで思ったのは、だったら自分は何かを残したい。このあとも誰かが生き続けることで人の歴史は続く。そこで残るものはなんだろうと。自分は音楽がやれるわけじゃない。映画しか作れないんじゃないかって。当時は撮影現場の一介のスタッフだったんだけど、何かを残すためには自分で監督するしかないと。34歳でしたね。
草なぎ 話を聞いているうちに、自分もだんだんノストラダムスに怒りが湧いてきて(笑)。「俺は死ねなかったけど、生きていくしかない。生きてればいいことはある! だからこのシーンは撮るしかないんだ」って監督があの時、あの熱量で話した思いが高市の心の役作りになったことは確かで、本当に渾身の力を込めたシーンが撮れたと思う。
樋口 あの場面は照明にもこだわっててね。最初は明るく、途中で少し暗くなり、最後またガーンと変化がある。
草なぎ あのシーン怖いもん、高市。
樋口 確かに怖い。高市、無意識に制帽を脱いで、またかぶるじゃない?
草なぎ え……そうだっけ?
樋口 僕の中で、乗務員にとっての制帽の意味(意義)は明確にあったんだけど、高市はそれを体現してくれた。
草なぎ 自分じゃ分かんない! けど、ノストラダムスの話のおかげかも……。監督、ありがとう。またすぐ一緒に映画を作ろう。そう言っていれば叶(かな)う気がする。
樋口 うん、剛君!
『新幹線大爆破』 2025年4月23日より Netflixにて独占配信中
1975年公開の東映映画『新幹線大爆破』(監督:佐藤純彌、主演:高倉 健)のリブート作品が、50年の時を経て、新たなタイムサスペンスエンターテインメントとして生まれ変わる。JR東日本の特別協力のもと、一大スケールの撮影に臨んだキャスト陣の迫真の演技に注目だ。
監督:樋口真嗣 脚本:中川和博 大庭功睦
出演:草なぎ剛 細田佳央太 のん 要潤 尾野真千子 豊嶋 花 斎藤 工 ほか
製作:Netflix
取材・文=くればやしよしえ 撮影=鈴木奈保子
ヘアメイク=荒川英亮(草なぎ剛) スタイリスト=栗田泰臣(草なぎ剛)
『散歩の達人』2025年5月号より
注:草なぎ剛(※「なぎ」は正しくは弓へんに「剪」)。