シーズン到来!<流れ藻採集>のポイント&コツ 流れ藻に潜む魅力的な幼魚たち
魚が好きな採集家にとって、心躍る季節になってきました。7月に入り暑くなってくると、海は海藻で覆われてきます。
海の中で引きちぎられながら流されてきた藻は、様々な珍しい魚たちの隠れ家になります。漁港に足を運ぶと、流されてきた藻やゴミの中からも、魚をたも網で捕まえることができますよ。
流れ藻採集とは?
流れ藻採集は6~9月までがハイシーズンで、この心躍る期間を今か今かと待ち侘びてる採集家もいるほどです。
採集できる魚は多種多様でシイラやカンパチ、タツノオトシゴ、イスズミ、イシダイ、フグの仲間が主になります。
ポイントは、採集できるのが幼魚というところ。水族館や図鑑では成魚しか見ることができない種類も、流れ藻採集では幼魚を観察できることが大きな魅力です。
魚は成魚と幼魚の形態が違う種類が多く、幼魚はいまだに未記載である図鑑が多いです。流れ藻採集は、このような見たことない出会いが沢山ある魅力的な採集なのです。
<流れ藻採集>のやり方と必要な道具
採集に必要な道具は<網1本>と<バケツ1個>だけ。
網は釣具店などで2000円ほどで売っている1.5~2メートルほど伸びる物を使用します。網の先が直線になっているタイプのものを使用すれば、岸壁に沿って動かすことで、流れ藻や生きものをうまく採集できますよ。
持ち帰るには、水汲みバケツやクーラーボックス(釣り用バッカン)、エアポンプが必要となってきます。また、透明な観察ケースもあると、生きものの観察に役立つでしょう。
必要なものは以上のとおりで、非常にシンプルな持ち物ではじめることができます。
魚がいる場所・タイミングを狙う 漁港に向かって風が吹く日が◎
採集は、魚がいる場所・タイミングを狙うことからはじまります。
6~9月は漁港に藻やゴミが増えてくる時期。特に風が強い日に行ってみると、漁港の隅に藻やゴミが溜まっていることがあります。この中に魚が一緒にいることがあるのです。
漁港に流れ着いた流れ藻を狙う関係で、外海から漁港に向けて吹いてる風がある日がベストタイミングだといえるでしょう。
また潮が満ちてくる時が狙いかもしれません。引いた時は藻が漁港の外に出てしまう印象があります。
流れ藻採集の難しいところは、魚がいるタイミングを狙うことです。漁港は常に潮の流れがあり、1日で漁港内の潮も変化します。
午前中には何も魚がいなかったとしても午後になったら大量に魚がいることもざらにあります。
台風の前後を狙う&漁港のかたちにも注目
台風の存在も、この採集では重要になってきます。狙いは台風の前後です。
これまでの経験上、台風が発生しフィリピン付近や沖縄付近にある時には、次の日に漁港に行ってみると魚が多い印象があります。台風が過ぎた次の日も、ゴミと一緒に魚も残っていることもあります。
また、漁港のかたちにも注目してみましょう。
L字型やコの字型のような、角がある漁港がねらい目。角にはゴミや漂流物が溜まりやすいので、魚も集まっていることがあります。
この狙いは経験がものをいうので、何度も何度も足を運んで、地道にデータを取ることが大事です。
台風が上陸している最中やゲリラ豪雨の最中など、暴雨・暴風のなか採集するのは危険なのでやめましょう。漁港内も荒れて藻やゴミはたくさんありますが、採集どころではありません。
漁港に集まる流れ藻(提供:たつ)
また、漁港は船が定着するところなので、水深は深いです。落ちてしまうと大変なので、足元には気をつけて歩くほか、ライフジャケットを身につけるなど安全対策を徹底しましょう。
そして、意外と見落としがちですが、漁港は漁師さんの仕事場であるという意識も大切です。
立ち入り禁止区域は入らない、物を壊さない、ゴミを放置しない、作業している方の邪魔をしないなど、基本的な配慮するようにしましょう。
自分たちの行いで、立ち入り禁止区域などが増えてしまうのはとても寂しいことなので、皆さん自身で意識しましょう。
流れ藻採集で出会える魅力的な魚たち
ここで、筆者が流れ藻採集で実際に出会った魚たちを紹介します。
ハナオコゼ
ハナオコゼはカエルアンコウの仲間で流れ藻にくっつき隠れつつ、小魚を待ち構えています。
流れ藻にそっくりな色や形態をしていることが特徴。大小様々なサイズの個体を見ることができます。
ヨウジウオの仲間
流れ藻に馴染みがある魚といえばヨウジウオやタツノオトシゴが有名です。
ヨウジウオは細い体型で細い藻や木の枝に擬態しています。タツノオトシゴは流れ藻の端っこに巻き付いています。両種とも大人しくじっとしているので発見するのは至難の業です。
流れ藻を網ですくってみると偶然採集できることが多いです。
回遊魚
台風のおかげで外洋の魚を漁港で見ることができます。幼魚は流れ藻とともに過ごし、大きく成長。流れ藻が漁港に溜まる時期は、回遊魚達の小さい頃の姿を見れる唯一の機会でしょう。
ブリ、カンパチ、シイラ、トビウオ、アジなどはどの種も成魚は普段から馴染みがありますが、流れ藻で採集できる幼魚を見る機会は貴重なので、非常に得をした気分になります。
磯魚
成魚になると磯に棲む魚達です。釣りの対象として有名なイシダイやメジナのほか、藻を食べて磯焼けを起こすイスズミなども幼魚の時は流れ藻に隠れて生活してきます。
大きくなる種も多く、幼魚の形態は興味深いものがあります。
ナンヨウツバメウオ、マツダイ
流れ藻採集でよく見られる種類にナンヨウツバメウオとマツダイという魚がいます。流れ藻だけでなく漁港には様々なゴミも溜まっており、両種とも枯葉に擬態しています。
水面に対し、横になり、漂うように存在を消し、体色も枯葉にそっくりなので、魚達がどのようにしてその技術を身につけたのかとても興味深いです。
フグ目
流れ藻採集でいちばん馴染みあるフグの仲間たちです。
代表種はアミメハギ、アミモンガラ、ソウシハギ、ハリセンボンなどが有名です。形態や色は成魚を思わせる種ばかりなので、なんとなく同定しやすいです。
フグの仲間を初めて見る人の多くは、まず「可愛い」と感じると思います。加えて、それぞれの種で色々な特徴があります。
例えば、アミメハギやアミモンガラを見つけた時は、50匹近くまとまって集まっています。
ソウシハギはウマヅラハギと似ていますが、模様が毒々しいので一発で判別ができます。ソウシハギはパリトキシンという毒を持っているので注意です。
ハリセンボンは浅い岩場、磯などで見つけますがなぜか大きいサイズばかりで、5センチ以下の幼魚に出会うには流れ藻採集がベストだったりします。
簡単に挑戦できる流れ藻採集
流れ藻採集の舞台は漁港です。
漁港は私たち人間にとって、特に海辺に住む人にとっては身近な場所だからこそ、“無意識な場所”でもあります。
しかし、流れ藻が溜まる時期は水族館やアクアリウムショップ、ダイビングではでは見られないたくさんの魅力的な魚や幼魚を見ることができます。まだまだ新しい発見があり、魚を含めた生きものの生き方や生態系を知るロマンがあるジャンルです。
漁港や季節、天気、時間などでも昨日とは全く違う海になっています。わからないことばかりで、こんなにも可能性を秘めた趣味はありません。
この採集は魚好きなみなさんで成長させるジャンルなのです。小さいことでも繰り返し行い、その都度データを集めたらいつか一つの確立されたジャンルになると思います。
海に入らず濡れたりするストレスがないのと、たも網1本とバケツ1個があればすぐ始められる簡単な採集。ぜひこの夏から始めてはいかがでしょうか。
流れ藻採集で気がつくこと
この採集をしていると気づくことがあります。
流れ藻採集ではゴミもたくさん落ちています。私たちはそのゴミに直面した時、少しでもゴミを回収し、捨てるという行為をしてみたらどうか──。
1人ができることは微々たるものかもしれません。しかしみんなが少しでもそういう意識でいれば、いつかは大きな結果になるかもしれません。
我々は魚が大好きで大自然のおかげで、こんなにも楽しく、充実した趣味を続けることができます。海の環境問題を少し意識しながら採集すると、いつか得した気分になる時が来るかもしれません。
(サカナトライター:たつ)
参考文献
瀬能宏、山溪ハンディ図鑑13 日本の海水魚、山と山溪社、p300
宮崎佑介、はじめての魚類学、オーム社、p11
鈴木香里武、ときめき×サイエンスシリーズ4 岸壁採集! 漁港で出会える幼魚たち、ジャムハウス、p2,20,34,38,6275,78,79,83,84,187