「台風」のリスクを高めるのは、海の中でも進む温暖化?!北海道周辺の海でトップクラスに迫る危機【気象予報士が解説】
7月の北海道は、平均気温が統計史上過去最高を更新し、北見で39.0度、帯広は38.8度まで上がるなど、これまでに経験したことのない暑さになりました。
「地球温暖化」を身近に感じる昨今、海の中でも温暖化が進んでいるのはご存じでしょうか?
HBCウェザーセンターの気象予報士・篠田勇弥が、「地球温暖化と北海道」をテーマに、北海道では何が起こっているのか?これから何が起こるのか?連載企画でお届けします。
より影響が身近な暮らしに迫ってきた今、何ができるのか…。一緒に考えてみませんか?
第1回、第2回に続き、今回は第3回です。
連載「気象予報士コラム・お天気を味方に」
特別企画:地球温暖化と北海道の話~「日本の気候変動2025」を紐解く~ 第3回
海の中でも温暖化?!
最近、人と会って最初に出る言葉と言えば「暑いね~」がすっかり当たり前になってきましたよね。特に今年は異常な暑さで、夏の暑さが明らかに変わってきていることを感じている方も多いのではないのでしょうか。
そして、「気温」とともに「海水温」も高くなっているのは知っていますか?
7月の北海道周辺の海水温は、晴れた日が多くなったのに加え、暖かく湿った空気が流れ込んだことで、平年よりも高い海域がほとんどとなっています。
平年よりも海水温が高く、真っ赤なエリアが広がっています。
将来的に、海水温はさらに上がっていくことがわかっています。
海水温が上がることで、「海のレジャーが長く楽しめる」というのは人によっては嬉しいことですが、海の生き物たちにとってはすでに大きな問題になりつつあるのです。
今回は、文部科学省と気象庁が発表した「日本の気候変動2025」をもとに、北海道の太平洋側の気温や海水温に注目し、今後、私たちの暮らしにどんな影響を与えるのかを一緒に見ていきましょう。
気温だけじゃない!?海の温暖化
地球温暖化というと空気の温度「気温」のイメージが強いですが、実は、水の温度「海水温」も変化が起きています。過去100年で全国の平均気温は1.40度上昇しているのに対し、海水温はおよそ1.33度と、気温とほぼ同じペースで上がっています。
中でも、北海道の南東側、釧路沖の海水温は1.78度も上がっていて、トップクラスの上昇幅となっています。
また、釧路は海沿いの都市ですが、気温の上昇幅も大きくなっています。同じ太平洋側の室蘭や根室がともに+0.9度に対し、釧路では+1.8度と、気温の変化も目立っています。
このような変化は、2024年に記録的な高温という形で現れました。
いつもは関東からそのまま東に流れる暖かい海流「黒潮」が、三陸沖まで北上し、釧路沖に暖かい水の渦(暖水渦)を作りました。
この暖かい海の影響もあり、この年の釧路の10月は、16日に最高気温が23.7度、23日に最低気温が17.2度を観測するなど、秋になっても気温がなかなか下がらず、100年以上ある観測の歴史の中でも、記録づくめの月となりました。
将来的にも、海の温暖化は進んでいくと予想されています。
そして「追加的な温暖化対策」を取らなかった場合。三陸沖から釧路沖にかけての海域では、海水温の上昇が全国の中で最も大きくなると予想されています。
追加的な温暖化対策を取らなかった場合、釧路沖では今より5度近くも海水温が上がる可能性があります。
この海域で海水温が特に高くなる背景には、地球全体の海の温度が上がることに加え、日本付近を流れる上空の風「偏西風」の影響があります。偏西風がこれまでよりも北を流れることによって、黒潮も合わせて北まで流れてくると考えられています。
「海の温度が少し上がったくらいで何が変わるの?」と思うかもしれませんが、私たちの生活にも深い影響が出る可能性があるのです。
例えば…
・台風の勢力が衰えず、これまで以上の被害が発生する
・これまで当たり前にとれていた海産物がとれなくなる
このあと、それぞれの影響についてもう少し詳しく見ていきましょう。
衰え知らず?勢いを増す台風
海水温と台風は切っても切れない関係にあります。
そもそも台風は、赤道付近の暖かい海で発生します。
水温が高い熱帯の海の上では、海水がどんどん蒸発し、次々と雲が発生。雲が集まって発達すると「台風」に変わります。
つまり、台風は「暖かい海」がないと発達できないのです。
それだけに、地球温暖化で海水温が高くなればなるほど、台風の勢力も一層強まっていくことになります。
そして将来的に、暖かい海のエリアは北へと広がっていきます。
その結果、台風はより北の海で生まれたり、強い勢力を保ったまま日本列島に近づいたりするリスクが高くなってしまいます。
東北付近まで赤やピンクの暖かい海のエリアが広がりました。将来的にはさらに上がる可能性も…
幸い、北海道ではここ数年、台風による大きな災害は発生していませんが、これからもずっと安心…とは決して言い切れないのです。
例えば、2016年の8月。この年はわずか一週間の間に3つの台風が北海道に上陸しました。
連続する集中豪雨により、道東を中心に月の降水量の記録を大幅に塗り替えるほどの大雨となり、各地で河川のはん濫や土砂災害が発生しました。
特に記憶に残るのが、道央と十勝を結ぶ北海道の大動脈の一つ「日勝峠」での大規模な土砂崩れです。通行可能になるまで1年以上の長い時間がかかるほどの大災害で、台風の恐ろしさを改めて感じた出来事でした。
災害級の大雨の影響により、至る所で土砂崩れが発生しました。
道東ではわずか一か月で500ミリを超える大雨となり、最も多い上士幌町糠平では978.0ミリの雨が降りました。
もちろん、2016年のような年は特異なケースとも言えますが、北海道には毎年1~3つの台風が近づいています。
そして、将来的に一つ一つの台風の勢力が強まると、北海道でもこれまでにないような記録的な暴風や大雨により被害の出るリスクがますます高まっていくのです。
筆者は、過去の気象のデータや記録を調べることは好きですが、大きな被害が出るような災害は、記録に残らないでほしいと、いつも切に願っています。
さらに、海の中での温暖化は、海の生き物にも大きな影響を及ぼします。
北海道が誇る「海の幸」にも大きな変化が…。
続きは次回の記事でお伝えします。
連載「気象予報士コラム・お天気を味方に」
特別企画:地球温暖化と北海道の話~「日本の気候変動2025」を紐解く~
文: HBCウェザーセンター 気象予報士 篠田勇弥
札幌生まれ札幌育ちの気象予報士、防災士、熱中症予防指導員。 気温など気象に関する記録を調べるのが得意。 趣味はドライブ。一日で数百キロ運転することもしばしば。
HBCウェザーセンターのインスタグラムでも、予報士のゆる~い日常も見られますよ。
編集:Sitakke編集部IKU
※掲載の情報は記事執筆時(2025年8月)の情報に基づきます