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ワイン造りを続けるために—— ボルドーの新時代を築く6生産者に単独インタビュー!

ワイン王国

ワイン造りを続けるために—— ボルドーの新時代を築く6生産者に単独インタビュー!

「ボルドーワイン委員会」が展開するプロモーション「Re BORDEAUX(リ・ボルドー)」の第1弾として4月に開催された「Undiscovered 2024」では、日本を代表するソムリエを含む5人の選定委員によって選ばれた「セレクション 50 ボルドー 2024」に加え、日本未輸入のボルドー・ワイン(蔵出し価格帯:3~15ユーロ)60種が紹介された。
このイベントに合わせて6人の生産者が来日。リ・ボルドーのテーマの一つでもある「サステイナブル」に焦点を当て、持続可能なワイン造りを実現するための取り組みについて尋ねた。

——新時代のボルドー・ワインを発信しているプロモーション「リ・ボルドー」では、“サステイナブル”がキーワードの一つとなっています。皆さん、持続可能なワイン造りを実現するために取り入れていることはありますか?

マルク・ミラード 私の「シャトー・ブティス」は、1996年に父のグサヴィエ・ミラードがこの土地を購入したことでスタートしました。
私が環境への配慮として重視していることは、土壌のバランスを整えること。こちらの写真を見てください(画像「円形クロマトグラフィー」)。

円形クロマトグラフィー

マルク・ミラード これは、2カ所の土壌の分析結果を示したものです。左の土壌は地層と地層がくっきりと分断されていることがわかります。このように地層どうしが分断されていると、鉱物と有機物のバランスが悪くなり、微生物の働きも低下します。そこで、畑に雑草を生やしたり、コンポストを土に混ぜたりすると、微生物の種類が豊富になり、働きが活発になる。すると、右の土壌のように地層どうしがなじんでいくのです。生物多様性の過半数は土中にあるとも言われていますから、土壌への配慮には特に注目しています。

\一押しワインを教えてください!/

『シャトー・デ・バルド 2019年』
生産者:シャトー・ブティス
品種:メルロ85%、カベルネ・ソーヴィニヨン10%、カベルネ・フラン5%

モカや甘いスパイスなど濃厚で温かみのある香り。しっかりとしたタンニンがあり、ブラックチェリーの風味とほのかにヴァニラのニュアンスも。余韻はとても長い。

「シャトー・ブティス」4代目のマルク・ミラード氏。伝統を重んじながらも、エレガンスを備えたボルドー・ワインの革新に積極的。人の暮らしの価値、ブドウへの敬意、サステイナビリティーの実践を自身の哲学とする

「アペリティフ(食前酒)としてシャルキュトリー(食肉加工品)などと一緒に勧めることが多いのですが、生き生きとしたダイナミックさもあるワインなので、アントルコット(牛リブロース)やサシの入った肉のグリルなども合うはず。山椒や七味、ワサビなど和のスパイス感にも寄り添うので、それらをかけて焼き鳥とも楽しんでください」(ミラード氏)

エレーヌ・ポンティ 2019年に父から「ヴィニョーブル・ポンティ」を引き継ぎ、7ヘクタールの畑でブドウ栽培、ワイン作りをしています。引き継いですぐにオーガニック栽培に着手し、現在は完全にビオディナミ(*)へ転換しました。例えば、イラクサやホーステールなどの雑草の成分を分析し、それらを煮出したものを醸造所の殺菌に使用しています。
ちなみに、1区画だけ、もともと植えられていたブドウ樹を引き抜いた場所があります。代わりに木を植えて防風林としたのですが、結果、野鳥や昆虫が増え、景色も前より美しくなりました。また、日陰ができるので、暑い時はそこで一休みするんですよ。自然環境だけでなく、人にもやさしい畑になったと思います。

* ルドルフ・シュタイナーが提唱した有機栽培農法の一種

\一押しワインを教えてください/

『ラン・クロ 2022年』
生産者:ヴィニョーブル・ポンティ
品種:メルロ100%

赤い果実と地中海沿岸地方のハーブの香りがあり、とても芳醇。ジューシーで飲みやすく、ベルベットのような柔らかなタンニンが感じられる。

「ヴィニョーブル・ポンティ」5代目のエレーヌ・ポンティさん。経営コンサルタントとして海外で経験を積んだ後、2019年に生家のワイナリーを継ぐ

「軽やかで、季節でいえば春夏がお勧めです。明るい昼のうちから、少し冷やしてバーベキューのお伴に。かすかなスモーキーさがあるので、日本料理ならウナギが合うと思います」(ポンティさん)

マチルド・アズレット 私たちの「シャトー・カンカルノン」は家族経営のシャトーで、昨年、兄とともにシャトーを継ぎました。
現在はワイナリーの改革中。草生栽培など畑への取り組みはもちろん、醸造所から出た廃棄物は徹底的にリサイクルするなど、ワイン造りの最初から最後まで環境への配慮を意識しています。パッケージにも気を配っていて、キャップシールはリサイクルされたアルミニウムを使用し、ボトルも軽量化しました。
また、この地域の一員として地元の環境団体に協力し、コウモリなどの生態調査を行っています。

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『ウイ・デュ・シャトー・カンカルノン 2018年』
生産者:シャトー・カンカルノン
品種:カベルネ・ソーヴィニヨン60%、メルロ40%

ブラックベリーや野バラ、森の下草の香りに、ほのかに煤のようなニュアンスも。味わいの芯にはジューシーな果実味があり、心地よく丸みのあるタンニンとキリッとした酸味が感じられる。

「シャトー・カンカルノン」2代目のマチルド・アズレットさん。2021年にパリの暮らしを離れ、兄とともに故郷のボルドーでシャトーを引き継いだ。フレッシュな甘口から華やかなロゼ、力強い赤と幅広いラインナップを誇る

「タンニンが滑らかで柔らかいので、アペリティフにぴったりな赤ワインです。季節も問いませんね。カジュアルな料理に合わせやすく、ピッツァやバーベキュー、パスタ、ハンバーガーと一緒にぜひ!」(アズレットさん)

デルフィーヌ・フォール・メゾン 「ヴィニョーブル・フォール」は1870年創立のシャトーで、私は6代目に当たります。35年間、両親とともにワイン造りをしてきましたが、2015年に代替わりして完全に引き継ぎました。
健康なブドウ作りのためには土壌の環境を整えることがとても大切だと考えているので、栽培ではリュット・レゾネ(減農薬農法)を採用しています。土中の微生物の活動が良好になり、果実のクオリティーが上がりました。畑には草や花を植えていますが、土壌分析の結果をもとに土壌ごとに最適なアプローチを考えます。例えば、ルピナスという花は冬に植えると土中の窒素を吸収してくれる。春には刈り取って、そのまま畑に放置して肥料にしています。

\一押しワインを教えてください/

『プルミエ・ド・シャトー・フォンタラビ 2020年』
生産者:ヴィニョーブル・フォール
品種:メルロ60%、カベルネ・ソーヴィニヨン40%

モレロチェリーのような赤い果実の香り。よく練れたシルキーなタンニンと、ウッディーなニュアンスが溶け合う。エレガンスとパワフルさが共存するフルボディの味わい。

「ヴィニョーブル・フォール」6代目のデルフィーヌ・フォール・メゾンさん。1970年代に先代が17haで引き継いだ畑を125haまで拡張。2018年には「HVE」(環境価値重視認証)を取得

「スムースで柔らかいので、この1本でアペリティフから食事中まで楽しめます。特に、鶏のロティやアントルコットのステーキ、鴨の胸肉などと相性が良い。もちろんチーズにもぴったりですよ」(フォール・メゾンさん)

ジャン=ユベール・ファーブル メドック地区にある「ドメーヌ・ファーブル/シャトー・ラモット」の3代目として、姉とともにワインを造っています。2013年に姉がシャトーの運営に参画してからサステイナビリティーを意識するようになりました。
自然環境への配慮はもちろんですが、地域への協力も大切。2018年からアキテーヌ地方の種の保存会に参加し、保存会から提供してもらったヒツジを放牧して畑の草を食べてもらい、フンは肥料にしています。このヒツジは原種に近く病気になりにくい。最初は30頭だったのが、気付けば60頭にまで増えていました。(笑) ニワトリも20羽飼育していて、春に発生するカタツムリを食べてくれるので、人の手や殺虫剤に頼る必要がなく助かっています。
この地でワイン造りを続けるには、近隣住民の理解を得ることも欠かせません。住民の皆さんにワイン造りのレクチャーをしたり、子ども向けに生物多様性に関する教育活動を行ったりしています。

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『ファーブル・オン・ザ・ロックス 2021年』
生産者:ドメーヌ・ファーブル/シャトー・ラモット
品種:マルベック100%

フルーティーでスパイシーな香りがあり、質感がしっかりとした口当たり。黒い果実の風味とともに、丸くしなやかなタンニンが感じられる。

「ドメーヌ・ファーブル/シャトー・ラモット」3代目のジャン=ユベール・ファーブル氏。世界的なブドウ栽培を学んだ後、故郷に戻り、シャトーを引き継いだ。生態系を尊重しながら、強い個性を持ったワインを造ることを信条とする

「一般的なオー・メドックのワインの発酵期間は4~5週間ですが、このワインは2週間に抑えています。また、マルベックだけを使いながらも飲み口は軽く、酸もきれい。柔らかくてバランスが良いので、料理も軽めのものがお勧めです」(ファーブル氏)

ネア・ベルグルンド 2019年に父から「シャトー・カルザン」を継ぎました。
自然と調和したワイン造りが大切だと感じていて、シャトーの農園化をしています。ブドウ栽培やワイン造りだけでなく、野菜の栽培や家畜の飼育も行い、それらを地元のレストランに卸しています。地元とより密接な関係を持てますし、地産地消は環境にも良いと思っています。
また、もともと父が始めた、当時はちょっといい加減だった(笑)、オーガニック栽培にも力を入れています。シャトーには、およそ20年前からここで働いているスタッフも多く、それゆえ、はじめはサステイナブルへの意識が希薄なところもありました。考えを刷新してもらうため、農薬についての勉強会など、スタッフ教育を実施。おかげで、手作業の大切さやその効果を実感してもらえて、2022年にはオーガニック認証取得という結果に繋げることもできました。

\一押しワインを教えてください/

『シャトー・カルザン 2023年』
生産者:シャトー・カルザン
品種:ソーヴィニヨン・ブラン80%、セミヨン20%

リンゴや洋ナシなどのフレッシュな果実の香りに、黄色いプラムやメロンも感じられる。バランスが良く、フルーティーでさわやかな白ワイン。

「シャトー・カルザン」2代目のネア・ベルグルンドさん。フィンランド出身。“ワイン造り”と“自然”との調和を大切にしている

「カキをはじめ、魚介類、甲殻類には間違いなく合うはず。辛口ですがフルーティーさもあるので、スパイスの効いた料理にも負けないと思います」(ベルグルンドさん)

歴史ある地で、これからもワイン造りを続けるために——。ボルドー地方では、自然環境、人への配慮を大切にしたワイン造りが行われている。

「Re BORDEAUX」公式サイト

[Re BORDEAUX | ボルドーワイン委員会 CIVB Japon]

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