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2024年は選挙の年【英米プロテストソング TOP5比較】教養としてのポップミュージック

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1982年10月03日 グランドマスター・フラッシュ&ザ・フューリアス・ファイブのアルバム「ザ・メッセージ」発売日(米国)

連載【教養としてのポップミュージック】vol.5

2024年は世界人口の半分が投票を行う “選挙の年”


2024年は世界的な「選挙の年」である。台湾総統選、インドネシア大統領選、ロシア大統領選は既に決着がついたが、この後も韓国総選挙、インド総選挙、欧州議会選挙、メキシコ大統領選が続き、11月には米国大統領選が控えている。これほど多くの選挙が一つの年に集中するのは珍しく、計算上は世界人口の半分が投票を行うことになる。

そんな選挙イヤーだが、残念ながら、ここ日本では政治ネタは話題にしにくい雰囲気がある。一方で、欧米ではセレブリティが政治的信条や支持政党を公言するのは決して珍しくなく、それなりに影響力もある。例えば、米国では歌姫テイラー・スウィフトの動向が、大統領選の結果を左右するとさえ言われている。

彼女は過去に民主党候補の支持を公言したことがあったし、前回の大統領選ではジョー・バイデン支持を表明した。そんな彼女は2023年に米国のニュース雑誌『TIME』から「今年の顔(Person of the Year)」に選ばれていて、その絶大な影響力をドナルド・トランプ支持層は本当に恐れているのだそうだ。ということで、前置きが長くなったが、今回のテーマは「プロテストソング」だ。

数多くのシングルヒットを記録した英米のプロテストソング


プロテストソングとは、政治的抗議や反体制的主張を歌詞に取り入れた楽曲のことである。日本でも1960〜70年代には学生運動の盛り上がりに乗じて多くのプロテストソングが作られたが、僕が学生生活を送った80年代にはすっかり力を失っていた。

だが、海外の音楽市場に目を向けると、特に1980年代の英国と米国では、時の政権に物申す楽曲が数多く発表され、シングルヒットしたものも少なくなかったように記憶している。では、それは何故か? その理由として、有権者の政治参加意識の高さというのもあるかもしれないが、少なくとも他に2つの要素が考えられるのではないかと思う。

1. 強いリーダーがいる
単純に文句を言う相手が大物であれば盛り上がるし、政権が安定していればターゲットも定まりやすい。

2. 解決したい問題が存在している
主な問題として考えられるのは、戦争/紛争、差別/偏見、失業/貧困の3つ。いずれも人間の生命や自我に関わることである。

そんな訳で、ここからは当時の英国社会と米国社会の様子を楽曲を通じて振り返ってみたいと思う。英米それぞれ5曲ずつ紹介するが、並べて見ると両国の違いが如実に表れているので、皆さんにも興味深く感じてもらえるのではないだろうか。

サッチャー批判も少なくなかった英国プロテストソング5選


1980年代の英国のリーダーと言えば、マーガレット・サッチャーを置いて他にいない。保守的で強硬な政治姿勢から「鉄の女(Iron Lady)」と呼ばれ、79年から90年まで、第二次世界大戦後最長となる約11年半、政権を維持した。だが、失業率上昇や経済格差拡大を招いた“サッチャリズム” に対して、批判も少なくない。これから紹介する5曲は、そんな彼女への(かなり直接的な)メッセージである。

【第5位】ブロウ・モンキーズ 「デイ・アフター・ユー」

1987年リリースのアルバム『オンリー・ア・グローサーズ・ドーター』に収録。この “雑貨屋の娘のくせに” というタイトルからしてサッチャーの出自を揶揄している。当時、彼らは保守党政権打倒を目指したミュージシャン団体「レッド・ウェッジ」に参加しており、この曲でも露骨な政権批判を繰り広げたが、発売時期が総選挙期間とぶつかったことでBBCに放送禁止に指定された。なお、この曲には彼らが敬愛するレジェンドであり、数々のメッセージソングでも知られるカーティス・メイフィールドがゲスト参加している。

【第4位】ビリー・ブラッグ 「ビトウィーン・ザ・ウォーズ」

1985年にEPとしてリリース。アンプを背中に担いでエレキギターをかき鳴らし「1人クラッシュ(One-man Clash)」と言われたビリー・ブラッグには、政治的シンガーのイメージが強い。と言うのも、先の団体「レッド・ウェッジ」の主宰として、ポール・ウェラーやコミュナーズらを巻き込んで、時のサッチャー政権を厳しく批判していたからだ。この曲は「戦争と戦争の間に」のタイトル通り反戦歌の1つだが、フォークランド紛争や相次ぐ防衛費の増大に警鐘を鳴らしたかったのだろう。

【第3位】ロバート・ワイアット 「シップビルディング」

1982年にシングルリリース。この詩を書いたのはエルヴィス・コステロで、テーマはタイトル通り “造船” である。当時の英国は “英国病” と呼ばれた経済の長期低迷から抜け出せておらず、かつて造船業で栄えた港町も失業者が溢れていた。そんな中、フォークランド紛争が勃発し、閉鎖されていた造船所が軍艦建造のために再開する。町には潤いがもたらされるが、子供たちはその軍艦に乗って戦地に赴かなければならない… そんな “戦争がもたらす皮肉” がロバート・ワイアットの “世界一悲しい声” で歌われている。

【第2位】ザ・ビート 「スタンド・ダウン・マーガレット」

1980年に「ベスト・フレンド」と両A面シングルとして発売。デビューアルバム『恋のスカ・ダンス(I Just Can't Stop It)』に収録。タイトルの “マーガレット" は、もちろんサッチャーのことで、前年に首相に就任した彼女に対して、ただひたすら辞めてくれとお願いしている。この曲が生まれた背景には高い失業率や核戦争への恐怖があるが、だからと言って悲壮感・緊迫感漂う嘆願に終始している訳ではない。スカの軽妙なビートと合わせて、ちょっとしたユーモアも感じられるから面白い。

【第1位】ザ・スペシャルズ 「ゴースト・タウン」

1981年にシングルリリース。全英シングルチャート(Official Singles Chart)で3週連続1位。人がいなくなった街=ゴースト・タウンをクルマでひた走るミュージックビデオ、不気味なサウンド、「This town is coming like a ghost town(この街がゴーストタウンになってしまう)」のリフレインがとても印象的だ。当時の英国は、失業や人種差別への不満が国中を巻き込む暴動に発展するなど、不穏な空気が漂っていた。この曲ではそんな状況が鋭くタイムリーに指摘されていて、それが若者たちの共感を呼んだ理由だろう。

純粋なポップスとしても十分に成立している米国プロテストソング5選


1980年代の米国を象徴するリーダーは、映画俳優から政治家に転身したロナルド・レーガンだ。81年から89年まで2期8年、大統領を務めた。その間、東西冷戦を終結に導く一方、経済政策では苦戦し、“レーガノミクス” による大幅減税が貧富の差を生む大きな要因となった。これから紹介する5曲は、いずれも政権を批判しているものの、英国ほど直接的な表現ではなく、純粋なポップスとしても十分に成立していると思う。

【第5位】ラモーンズ 「ハンギング・アップサイド・ダウン(Bonzo Goes To Bitburg)」

1986年リリースのアルバム『アニマル・ボーイ』に収録。原題を直訳すると「ボンゾはビットブルクへ行く」となるが、この “ボンゾ" とはレッド・ツェッペリンのドラマーではなく、ロナルド・レーガンが俳優時代に出演したB級映画の主人公の猿の名前だ。“ビットブルク” は第2次世界大戦の戦死者が眠る西ドイツの墓地のことで、85年にレーガンがここを訪問したが、そこにはナチス親衛隊も一緒に埋葬されていたことから大問題となった。ボーカルのジョーイ・ラモーンはユダヤ系なので、この大統領の行動をどうしても許すことができなかった。

【第4位】グランドマスター・フラッシュ&ザ・フューリアス・ファイヴ 「ザ・メッセージ」

1982年リリースのデビューアルバム『ザ・メッセージ』に収録。米国の音楽誌『Rolling Stone』はこの曲を「100 Greatest Hip-Hop Songs of All Time」の第1位に選んだが、その理由はヒップホップ初のメッセージソングだったことだ。80年代に入ると、賃金や社会保障の削減によって経済格差が拡大し、低所得層の黒人が多く住む “ゲットー” はますます苦境に追い込まれたが、この曲はこうした黒人社会を取り巻く厳しい現実にスポットを当てている。その後、数え切れないほどのアーティストによってサンプリングされた。

【第3位】ビリー・ジョエル 「アレンタウン」

1982年リリースのアルバム『ナイロン・カーテン』に収録。今は亡き鉄鋼メーカー “ベスレヘム・スチール” の製鉄所の圧延機の音から始まるこの曲の舞台は、隣町の「アレンタウン」。そこは製鉄所閉鎖の影響で徐々に衰退していくのだが、曲中では寂れた町の様子が描かれている。当時の米国は産業構造変化の真っ只中で、製造業の雇用減少により失業率が10%近くまで上昇。そんな状況に対する “やるせなさ” がストレートに表現された良曲ではあるが、ビリー・ジョエルのシングル曲としてはセールス的に今ひとつだった。

【第2位】ドン・ヘンリー 「オール・シー・ウォンツ・トゥ・ドゥ・イズ・ダンス」

1984年にリリースされた2枚目のソロアルバム『ビルディング・ザ・パーフェクト・ビースト』に収録。この曲は比喩的な表現が多く、歌詞を読んだだけでメッセージを理解するのは難しいが、米国の中米諸国への介入を批判している。東西冷戦の最中、ニカラグアにおける社会主義革命の拡大を恐れたレーガン政権が、同国への経済制裁と反革命武装勢力 “コントラ” への支援を行ったことで勃発した内戦で、約4万人の死者と100万人あまりの避難民を出した。これに対してドン・ヘンリーは、ダンスミュージックの中で非難の意思を表明した。

【第1位】ジョン・フォガティ 「オールド・マン・ダウン・ザ・ロード」

1985年にリリースされた3枚目のソロアルバム『センターフィールド』に収録。ギターのシールドをワンカメラで延々と辿っていくミュージックビデオが印象的だったが、残念ながらジョン・フォガティの公式YouTubeチャンネルには公開されていない。彼はクリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァル時代の69年には既に「青空の使者(It Came Out Of The Sky)」という曲の中で、当時カリフォルニア州知事だったレーガンのことを批判していたくらいなので、この曲の「オールド・マン」がレーガン大統領を指しているのは間違いないだろう。

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