移籍したら希望のポジションにつけなくなった息子。何もしないで見守るべきだとわかっていても辛いです問題
チームメイトと一緒に強豪に移籍したが、試合に出られず希望のポジションもできない。チームの中心的な子に厳しく言われるのはうちの子だけだし、誰にも話せなくてツライ。
下手だけどサッカーは好き、そんな子がずっと続けるメリットって何? というご相談。同じような悩みを持つ親御さんも多いのではないでしょうか。
スポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、悩めるお母さんに3つのアドバイスを送ります。
(構成・文:島沢優子)
(写真は少年サッカーのイメージ ご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)
<サッカーママからのご相談>
子育てのツボ全部読ませていただいてます。
最新の中学生のお母さんのお話、まさにうちも悩んでおりました。うちは小三(8歳)で、同じように考えるしかないのか、悶々とします。
一年生からチームに入り、練習をずっと頑張ってきましたが、後から入った子たちのほうが上手でレギュラーになっていきました。
色々あってそのチームから数人が移籍することになり、うちの子も一緒に移りたいというので、強いチームに移り数ヶ月たちました。
移った当初はミニゲームで点を入れたりして、思ったよりレベル差はなく、なんとかついていけるかなと安心しました。
でも試合にはあまり出られず、希望するポジション(ハーフ)もなれず、予想はしましたが移籍して本当に良かったのかな、と不安になります。
練習でも消極的な感じになったので、聞くと中心的な子にバックをやれと言われるのだそうです。前に行くと怒られ、シュートもしちゃだめだとか。
一年近くかかって初ゴールを決めたときは本当に嬉しそうでしたが、ああもう二度とシュートは見られないのかなと......。
こちらの連載を全て読んでいるので、何もしないで見守るしかない、と言われるでしょう。
でもツライ。言われてるのはうちの子だけだし、ママたちにもコーチにも誰にも話せない。
子どものサッカーは他の習い事よりはるかに辛い。下手だけどサッカーは好き、そんな子がずっとサッカーを続けるメリットって何なのでしょう。心の成長とかですかね......
<島沢さんからの回答>
ご相談ありがとうございます。
当連載をすべて読んでいただけていると書かれていて、とても嬉しいです。その反面「何もしないで見守るしかない、と言われるでしょう」とも書かれており、読者の皆さんのなかで私はどうやら「見守れとしか言わない人」になっているようです。
お母さんを始め多くの親御さんは、この連載で「あれをやれ、こうやれ」と、わが子のために動き回る作戦を得たいのかもしれません。
しかし、子どもに最も近い親が何も言わずに見守る力が、子どもを成長させるエンジンになるのは紛れもない事実です。スポーツ心理学のリーダーシップ論や教育学でも、多くのエビデンスが出ています。
何の確証もなく皆さんにアドバイスしているわけではありません。皆さんどこかで納得されるからこそ、200回以上続く連載は今月10年目を迎えるほど支持されてきた。手前みそかもしれませんが、そう考えています。よってここはぜひ、ご自分の「見守る力」を磨くことに専念してください。
見守れる親になるために、3つほどアドバイスさせてください。
■アドバイス①母と子、自分たちの姿をちょっとだけ客観的に見てみよう
1つめ。
自分たち親子の姿をちょっとだけ客観的に見てみましょう。お母さんは「ツライ」「辛い」と書かれています。こうなるのは、息子さんにとってあまりよろしくない心理状態です。自分のサッカーがうまくいかないからお母さんが辛そう、悔しそう、悲しそう。言葉に出さなくても、息子さんには伝わっているかもしれません。
家庭は子どもにとって安全基地であるべきです。その観点から言えば、お母さんがまずはご自分の感情を整理することから始めましょう。そのためには冷静に今の状況を見つめ直してください。
お母さんは恐らく少々感情的になってこのメールを書いたと思います。しかしながら、お子さんがバックを任されている親御さんはこれを読んで嫌な気持ちになっていると思います。
本来なら少年サッカーのコーチは全員で攻めて全員で守ることを教えなくてはいけません。試合も全員が平等に出るほうがいい。ですが、メール全体のニュアンスだと、そういったことを理解しているコーチの方ではなさそうです。
次に息子さん。
そもそも後から入った子たちのほうが上手でレギュラーになって行った事実があるのに、ついみんなと一緒に移籍してしまった。強豪チームへの移籍が子どもの意思であるのならば、試合に出られないことも、センターバックをやれと言われることも、そこは彼自身が引き受けなくてはなりません。
でも、やはりもっと試合に出たい、ハーフをやりたいと本人が言うのであれば、前のチームに戻ればよいことです。前のチームに戻れば好きなハーフのポジションでシュートをたくさん打つ確率は高くなるかもしれません。そうすればお母さんの辛さも半減するかと思います。
■アドバイス②本人の意思が見えない、今のお母さんは「カーリングペアレント」になっているかもる
2つめ。
ご相談文を読むと、お母さんが息子さんと完全に同化してしまって、自分が傷ついたような気持ちになっているように映ります。3年生の息子さん自身は、どうしたいのでしょうか? 相談文には「練習でも消極的な感じになったので、聞くと」と書かれています。
お母さんから「消極的になってるよね?」と尋ねられたので、息子さんは「バックやれって言われた」「前に行くと怒られる」「シュートもしちゃだめだって」と伝えたとも考えられます。
それって、嫌なら断ればいいし、前に行きたい、シュートしたいのならばそれを伝える。お母さん自身、本来ならそうあってほしいですよね? でも、9歳の今はまだその力をつけていない。
それをこれから育ててあげませんか? 消極的になってるとか、何が出来ていないとか、サッカーのことに口を挟むのはやめませんか?
「カーリングペアレント」という言葉を聞いたことがありますか。冬季五輪種目でもあるカーリングでストーンの進む道をブラシでこすってならしていくように、子どもの進む道をならしてしまう親御さんを指します。
さまざま程度はありますが、子ども同士のいさかいはどこでも起きます。子が歩む道がごつごつして歩きづらそうに見えるため心配になるかもしれません。だからといってそれをその都度他者のせいにして、親が中に入って子どもをかばう。つまり、転ばぬ先の杖を立ててしまうと、子どもの足腰は弱くなるばかりです。
どうかブラシを捨ててください。
■アドバイス③好きなだけで続けるのはメリットがないの? 子どもの活動を長い目で見守って
3つめ。
「子どもが育つことの本質」を勉強してください。相談文の最後の一行に「下手だけどサッカーは好き、そんな子がずっとサッカーを続けるメリットって何なのでしょう」と疑問を持たれています。
この「メリット」を子どもの世界に持ち込んでしまうと、子どもたちのすべての活動や取り組みを否定することになります。
「成績は悪いけどみんなと勉強するのは好き」という子に対して、そんな子どもが学校に行くメリットなんかないよね、とは誰も言いませんよね? 大人から見ると下手な絵だけど、絵を描くのが好きな子どもに「メリットはないからやめろ」とは誰も言いません。
まだ9歳です。もっと長い目で、温かいまなざしで息子さんを眺めませんか?
■親に言い訳するためにわざと転ぶ子も......、スポーツは親子のありようまで白日の下にさらす
(写真は少年サッカーのイメージ ご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)
十数年前。私の息子がサッカー少年だったころ、試合で活躍できなかったわが子を木陰で小突く父親がいました。サッカーで大量失点をした後に1点返し歓喜する子どもたちに「1点返したくらいで喜ぶな!」と叫ぶ母親も見ました。
親たちが威圧的なので、シュートを外すと、応援に来ている親のほうを見る子。ミスをすると、必ずこける子がいました。そういった親子を見てきたあるコーチは「親の反応が怖いんですよね。言い訳したい心理からわざとこけるのでしょう」と話していました。
お母さんが「子どものサッカーは他の習い事よりはるかに辛い」とおっしゃるように、サッカーをはじめスポーツは恐ろしいコンテンツです。子育て、要するに親子のありようまで引きずり出して白日の下にさらしてしまいます。
でも、だからこそ私たち親は鍛えられるとも考えられます。勝ち負けがあったり、他人と比べられ「相対評価」になりがちなところを、いかに親が「絶対評価」で見てあげられるか。
そんな本質に気づけたら、試合の結果やわが子の優劣に左右されず、広いこころで子どもを見守ることができます。
子どもがスポーツを楽しみつつ成長するように、親のほうも全く同じ恩恵を受けています。お母さんなら大丈夫。こうやってご自分の意志で私にメールを書くエネルギーがあるのですから。愛情のベクトルを少し変えるだけで、息子さんは変わっていくはずです。
島沢優子(しまざわ・ゆうこ)ジャーナリスト。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』『東洋経済オンライン』などでスポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実 そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート 夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』(小学館)『世界を獲るノート アスリートのインテリジェンス』(カンゼン)『部活があぶない』(講談社現代新書)『スポーツ毒親 暴力・性虐待になぜわが子を差し出すのか』(文藝春秋)『オシムの遺産 彼らに授けたもうひとつの言葉』(竹書房)など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著・小学館)『教えないスキル ビジャレアルに学ぶ7つの人材育成術』(佐伯夕利子著・小学館新書)など企画構成者としてもヒット作が多く、指導者や保護者向けの講演も精力的に行っている。日本バスケットボール協会インテグリティ委員、沖縄県部活動改革推進委員、朝日新聞デジタルコメンテーター。1男1女の母。新著は「叱らない時代の指導術: 主体性を伸ばすスポーツ現場の実践」(NHK出版新書)