キャリアと健康はトレードオフ!? 管理職の7割が健康を損なう時代に、健やかに働き続けるコツ
将来の年収アップやキャリアアップを考えるにあたって「管理職への昇進」は、身近な選択肢の一つ。しかし一方で、近年は管理職になって抱える負担の大きさやストレスを考えると「割に合わない」と考える人も少なくありません。
実際、マイナビ転職の「管理職の悩みと実態調査」では、管理職の約7割が心身の健康を害している、という調査結果が出ています。
仕事に打ち込むためにも、仕事以外の面で充実した生活を送るためにも、健康は何にも代えがたい資産。無理をして健康を害しては元も子もありません。そこで、ストレスと上手に付き合い、健やかにキャリアアップしていくには、どうすればいいのか。キャリア・コンサルタントの林碧先生にお話をうかがいました。
キャリア・コンサルタント
林 碧(はやし みどり)
株式会社キャリアイズ 代表取締役社長、国家資格キャリアコンサルタント・キャリアコンサルティング技能士2級、両立支援コーディネーター。 企業人事経験および個別相談対応経験を活かし就職・転職の相談からライフキャリアビジョン構築、育児・傷病など個別事情との両立まで、幅広い相談に対応。通算4000件以上の個別面談実績、年100件以上の研修登壇実績を保有。特に若年層のキャリア形成支援を得意とし、大学での登壇実績が豊富である他、企業向けの育成者研修や若手定着支援、人材コンサルティングも実施。日経Xwomanアンバサダー。小学生・保育園児の2児の母。
•健康に代わるものは存在しない
•見失ってはいけないのはあなたにとっての幸せです
•自分の軸で、自分の優先順位に従って判断する
「管理職の7割が心身の健康を害している」という調査結果があるとのこと。自分のキャリアと健康のバランスで悩む管理職は少数派ではなく、むしろ多数派なのかもしれませんね。そんななか、健やかなキャリアアップに必要なことは何か。自分の挑戦を考えるうえで大切にするべきことは何か。改めて一緒に考えていきましょう。
健康に代わるものは存在しない
ストレス社会のなか、心身の不調を来すことは珍しくありません。私自身も過去にハードワークの末、バーンアウト( https://meetscareer.tenshoku.mynavi.jp/entry/20240415-kubo )し精神疾患を発症してしまったことがあります。長期の休養や休職のうえ、薬物療法をはじめとするさまざまな治療も経験し、10年以上かけてやっと安定した生活を送れるようになりました。
その経験もあり、現在キャリア支援者として活動するなかで、特に精神的に辛い状態を抜け出せなくなっている方や、辛い時期を乗り越えて自身のキャリアを立て直したい方への支援は、注力的に取り組んでいる分野の1つです。
大前提として、皆さんにお伝えしたのは「健康を完全に失う前に、立ち止まってほしい」ということです。「健康である」ことは、今後、皆さんが幸せに生きていくうえで圧倒的に強い武器です。もし健康を完全に失ってしまうと、キャリアアップ、収入アップはおろか、今の生活の維持すら難しくなってしまうケースが多くあるからです。
本格的に健康を害してしまうと、人は本来の能力を十分に発揮することができなくなります。今は当たり前にできていることすら難しい状況で、キャリアアップや年収アップにつながる成果をあげるのは無理な話でしょう。ですので、健康とキャリアアップ・年収アップを比較するのはそもそもおかしく、まずは健康維持、ないし身体状態の改善に意識を向けるべきです。
仮に、大きく健康を損なうような状態になった場合、回復するには心身が壊れるまでに費やした月日以上の時間がかかると思っておきましょう。もし、既に本来の力が発揮できないほどの不調があれば、焦ることなく回復に努めていただけたらと思います。
ただ、そこに至る前のタイミング、長い回復期間が必要な程心身の不調が進行する前に、ご自身のバランスを整えるべく立ち止まりたいところです。その結果、あなたが自分の幸せ作りに使える時間を最大化することにもつながるのではないかと思います。
見失ってはいけないのはあなたにとっての幸せです
もちろん、生きていくうえではお金も必要です。ご自身の人生設計だってあるでしょうし、社会的な立ち位置、周囲からの期待、仕事上の役割期待などもあるでしょう。あなたが無理をしなければと思わせる要因はいろいろあるからこそ、「キャリアアップ・年収アップと健康維持」という、本来であればアンバランスな悩みを持ったり、あるいは健康を害している自覚がありつつも立ち止まることができずに悩んでいたりもするのです。
ただ、そういうときに思い出していただきたいのは、その先に何を目指しているのか。「あなたにとっての幸せとは、何か」です。お金もキャリアも、あくまで人生を豊かにするための道具に過ぎません。それらを求めているのはその先にある、「あなたの幸せ」に必要だと感じていたからであったはず。お金を得た先に、キャリアアップした先に、何が待っていると考えていますか?それはあなたが本来求めていた幸せと一致していますか?
この問いに大きな違和感があるのであれば、健康を代償にしてまでその目標に重きを置く必要はないのでしょう。改めて方向性を整理するべきです。取り組みの一部でも手放すことができるなら、あなたの心身の状態が改善に向かうかもしれません。
これまでその先の幸せを意識したこともない、そんな方もいると思います。ぜひこれを期に考えてみましょう。健康を害しつつも収入アップやキャリアアップを大切にしようとしてしまう方は、「周囲が憧れる姿」をなんとなく目指している、というケースも多くあるのです。
ただ、必ずしもあなたにとっての幸せが、周囲のイメージする幸せ像と一致するとは限りません。あなたが心から満たされるには、何が必要となるのでしょう。あなたは日々のなかで、どんな時間を幸せだと捉えていますか?どんな時間を得るために、誰とどんな関係を築くために、あなたは日々お仕事をされていますか?あなたの命が終わるとき、あなたご自身の人生を「いい人生だった」と思うには、何があると良いと思いますか?
自分の軸で、自分の優先順位に従って判断する
もちろん、あれもこれも全てが得られるのであれば嬉しいですし、欲を言うのであれば…というポイントはあって当然だとも思っています。ただ、健康という大切なものを犠牲にしないためにも、自分のなかでの基準に照らして優先順位をつけておけるといいでしょう。何を頑張るのかを決めること、自分にとって大切なことを整理しておくことは大切です。
自分が重視している基準は理解しつつも、ついつい自分軸ではなく、「他者の期待」や「役割の期待」で動いてしまうという方もいると思います。ただ、「あなたの人生はあなたのもの」ですし「人生は1度きり」しかありません。「自分の幸せ」につながりにくい期待や役割があるのであれば、ときにそれを手放したり断ったりすることも、健康にあなたの幸せなキャリアを構築していくためには必要です。
ただ、それが簡単にはできないからこそ、他人軸優位の生き方になってしまうのだと思います。他者の評価軸で動いてしまう、周囲の期待を裏切れないと思う人は、その背景も捉えておくといいでしょう。もしも他者の期待に応えられなかった場合、あなたは何を恐れるのでしょうか? 同じ結論でもその背景はそれぞれ異なりますし、思考パターンの獲得過程も人それぞれです。ご自身の自己評価が低く、自分の判断に自信が持てないが故に他者の視線が気になるケース。他者に嫌われたり失望されたりすることが必要以上に怖いケース。周囲から見下されるのではないかと社会的地位にこだわっているケースなど、理由もまちまちです。
ケース別にできることは異なりますが、改めて自分の思考の癖を捉え、それはどんな過去の経験から来るものなのか自認することが最初の1歩になります。そこから更に踏み込んで、本当に自分が恐れている状況が起こり得るのか、客観的に眺めることもおすすめです。
ご自身の思い込みや矛盾への気付きが、他者基準で動く状態からの脱却につながるでしょう。考え方を変えていくのは簡単ではありませんが、少しずつでも自分の基準で物事を捉えられるようになることで、「自分の幸せ」と異なる期待まで受け取りすぎない判断や行動を取れるようになります。結果的に、健康を害することのないキャリアビジョンが描けるようになるでしょう。
真面目な人や誠実な人は、必要以上にストレスを貯めやすい傾向があるという風に、よく言われます。あなた自身が日頃のご自身の頑張りをきちんと認め、ときには休暇を取ってリフレッシュすることも、どうか大切にしてくださいね。頑張るあなたの未来に「あなたの幸せ」がきちんと待っていますように。
文:マイナビ転職編集部