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北海道から世界へ。ウェルネットがスピードスケートとともに描く日本の未来とは?

Sports

「自身の可能性を試したい」と思うすべての社員に、挑戦できるフィールドを提供したい。
2026年4月、スケート部を正式に発足させたウェルネット株式会社。北海道のIT産業を牽引するトップランナーである同社が、なぜ今、アスリートの支援にこれほどまでの情熱を注ぐのでしょうか。

効率や論理が重んじられるITの世界と、0.1秒に命を懸ける氷上の世界。一見すると遠く離れた2つを繋いでいたのは、代表取締役・宮澤一洋さん(以下、宮澤)の“死生観”と、次世代への切実な願いでした。

今回は、スポーツがもたらす“試行錯誤する力”の重要性を説く宮澤さんの想い、そしてスピードスケート支援や地域貢献を通じて同社が描く「日本の未来」に迫ります。

三度の死線を越えて。「生きてるだけで儲けもの」という哲学

ーー宮澤さんは、もともとスポーツとどのような関わりがありましたか。

宮澤)子どものころは草野球、高校では山岳部に所属していました。出身が長野県松本市ということもあり、北アルプスは常に身近な存在でしたね。大学に入ってからも「より自由に山を歩きたい」という思いから山岳サークルと社会人山岳会に入り、夏は登山、冬はスキーに明け暮れる生活を送っていました。

山岳の厳しい自然と一体になる感覚、自分が自然の一部になる感覚に魅了され、社会人になってからも情熱が衰えることはありませんでした。スポーツは、自分自身と向き合う力や、困難に立ち向かう精神的な強さを私に授けてくれたと感じています。

ーー登山をするなかで、命を落としかけたこともあるとお聞きしました。

宮澤)実は、岩登りで3回ほど死線を彷徨った経験があります。なかでも鮮烈に覚えているのは、北アルプスの難所「滝谷の第四尾根」に挑んだときのことです。当時は岩登りへの自信に溢れており、勢いに任せて未経験者を連れて出かけました。

その日の目的地であった北穂高岳のテント場に早く着いたので、翌日歩くコースの偵察のつもりで軽装で岩場に向かい、勢いに任せてそのまま登頂を開始してしまいました。しかも天候の崩れやすい午後だったため、雷雨にやられてその場から動けなくなってしまい、昼夜を岩壁で過ごすことになりました。幻覚や幻聴も止まらず、数時間にわたる瀕死の経験をしてからは人生観が大きく変わりました。

ーー生死をさまよった経験が、起業にも繋がっていくのでしょうか。

宮澤)死を間近にしたことで、「生きてるだけで儲けもの」「何をやったって死ぬことはない。一度きりの人生なのだから、やりたいことを思い切りやろう」と思うようになりました。ウェルネットを立ち上げたのは35歳のときですが、その根底には「好きなことを自由にやりたい」という想いがあります。当時はまったく違う分野の会社にいたのですが、「もっと自分の力を試せるフィールドがほかにもあるのではないか?」と悩んでいたタイミングで、姉からも背中を押され、“北海道での新規事業”への挑戦として今のウェルネットがスタートしました。

「会社は社会人である」|高専基金2.2億円の決断

ーー北海道の高等専門学校へ向けた奨学基金の設立もされていますが、支援を始めた背景を教えてください。

宮澤)採用活動を通じて北海道の高等専門学校を訪れた際、校長先生や教職員の方々が“経済的な理由で退学せざるを得ない学生たち”に心を痛めている現状を目の当たりにしました。北海道は離婚率が高く、高専学生の約18%が片親家庭で、アルバイトに追われて学業がおろそかになり退学してしまう子が後を絶ちませんでした。「北海道のIT産業を担う金の卵が、経済的な理由で未来を諦めて欲しくない」という想いから、返済不要・ウェルネットへの入社義務なしという条件で2.2億円の基金を作りました。

ーー「返済不要、自社への入社義務なし」という条件は驚きです。

宮澤)基金設立から11年経ちますが、経済的理由による退学者ゼロがここ数年継続しています。全国高等専門学校連合会長からも表彰をいただき、「北海道モデル」として評価していただいていますし、この活動のおかげで今では道内高専で、ウェルネットの名が知れ渡るようになりました。 現在の高専卒業生は非常に評価が高く、1人に対して29社もの求人が集まる「超売り手市場」ですが、それでも毎年安定してウェルネットへ入社してくれる学生がいます。現在、当社には24名の高専出身者が在籍しており大活躍してくれています。

ーー多額の資金や労力を投資して、地域貢献を続ける理由は何なのでしょうか。

宮澤)「会社は一人の社会人(市民)である」と考えています。社会の一員として、ただ利益を追うだけでなく、その利益をいかに地域に還元し、次世代を育てていくのか、それが将来の自分たちを支える土壌になると信じています。また、北海道のウィンタースポーツ振興にも力を入れており、地元出身の選手が世界を舞台に活躍できるよう支援を続けています。

道内4高専の校長先生・北海道新聞社会福祉振興基金のみなさま及び当社高専出身社員との集合写真

「手をつないでゴール」では、日本は勝てない

ーースポーツ支援のなかでも「スピードスケート」に関わるようになったきっかけを教えてください。

宮澤)北海道でスポーツ支援ができないかと考えていたときに、元スピードスケート五輪選手の鈴木靖さんとお話する機会がありました。そこで、2022年の北京五輪後に長野のチームが解散し、行き場を失う北海道出身の選手たちがいるという話を聞き「それなら、みんなうちへ連れてこい」と答えたのがスケートとの関わりのきっかけです。

もともと持っていた“スポーツ振興への想い”もあり、北海道の企業として力になりたいと考え、まずは山田将矢選手と契約を結びました。その後、弟の山田和哉選手、2025年には山本悠乃選手と蟻戸一永選手を「アスリート社員」として迎え、活動を支援しています。

ーー選手たちを「アスリート社員」として競技に専念する形で採用されたことで、社内の雰囲気も変わってきたそうですね。

宮澤)当社の社員は画面に向かって黙々と作業する時間が長いのですが、選手たちが仲間になり、彼らの応援を通じて社内にたしかな一体感が生まれました。選手としても、社員として福利厚生を享受しながら安心して競技に専念できますし、彼らがワールドカップやオリンピックなどの大舞台へ羽ばたく姿は、社員全員の誇りとなっています。世界のトップレベルで戦うアスリートの息遣いや挑戦を間近で見ることが、社員にとっても素晴らしい刺激になっています。

ウェルネット株式会社スケート部が行うスケート教室の様子

ーー支援開始からわずか4年で2名の五輪代表を輩出されたのは快挙ですね。

宮澤)今回のスピードスケート日本代表のなかで、同一企業から2名以上の選手が選出されたのは、唯一ウェルネットだけでした。本当に嬉しく思います。

2025年末に長野県で開催された代表選考会はとてもドラマチックでした。山田和哉選手が男子1000mで粘り強い滑りを見せて見事優勝し代表権を獲得したレースで、兄の山田将矢選手は途中のカーブで転倒してしまったものの、自力で立ち上がり涙を浮かべながらも最後まで滑り切りました。レース後に山田兄弟が抱き合う姿を見て、とても胸が熱くなりました。会場のエムウェーブには社員50人が応援に駆けつけましたが、転倒してもなお執念で滑りきった山田将矢選手の姿を見て、みんな号泣していましたね。

ーー宮澤さんは、スポーツを「人生を切り拓くための教育的基盤」と捉えられています。

宮澤)AIが台頭する現代だからこそ、自分の頭で考え、五感で感じ、答えを導き出す“試行錯誤する力”が必要です。
限界に挑み続ける選手たちから学ぶべきことはたくさんあります。例えば五輪代表の蟻戸一永選手は、自身の課題を極めて科学的に分析し、失敗を他人のせいにせず、自分の現在地を冷静に把握し努力を重ねています。

この“当たり前の強さ”こそがスポーツの力です。「みんなで手をつないでゴールしよう」といった平等の概念では、真の強さは育ちません。コンプレックスをエネルギーに変えるほどのギャップこそが、人生を生き抜く力になると考えています。

「日本一、選手が憧れるチーム」を北海道に

ーー2026年4月にスケート部を正式に発足されました。

宮澤)今までボランティアで支えてくださっていた鈴木靖さんをGM兼監督に迎え、正式な部活動としてスタートしました。目指すのは、すべての選手が憧れるような日本一のチームです。財団も設立し、会社の好調な時期に資金を蓄え、継続的に選手へ最高の環境を提供できる仕組みを整えていくつもりです。

ーー選手のセカンドキャリアへの問題意識も強くお持ちだとお聞きしました。

宮澤)大学時代に優秀な成績を残していても、将来の見通しが立たずに卒業とともに競技をやめてしまう選手もいます。選手としてのセカンドキャリアが構築されていない、その現状を変えたいです。
引退した選手が専門コーチとして地域の子どもたちを指導できる仕組みができれば、子どもたちの才能を引き出すだけでなく、教職員の負担軽減にも繋がります。関わるすべての人達の課題解決を模索しています。

ーー今後、スポーツ支援を通じて、北海道や日本の未来をどのように変えていきたいとお考えですか。

宮澤)選手にとって最高の環境を整えて、子どもたちが憧れるヒーローを育てていきたいです。ミラノ・コルティナオリンピックで現地に応援に行った際、ウェルネットの選手が観客席に来ると写真やサインを求められていました。親子でスピードスケートの大ファンで、一緒に写真を撮ってサインをしてもらってとても喜んでいた姿が忘れられません。こういった熱狂が日本でも生まれてほしいと心から思います。そのためにも、ウェルネット自体の事業も限界を広げ続けていかなければいけません。

日本人は真面目で努力家だから、創造性さえ高まれば本当にすごい力を発揮できると思っています。スポーツを通じてその創造性を日本人のDNAに育てていくことが、日本の未来のためになると信じています。

ーーありがとうございました!

ウェルネットスケート部 左から、山本悠乃選手、山田和哉選手、代表取締役社長 宮澤一洋、鈴木靖監督兼GM、山田将矢選手兼コーチ、蟻戸一永選手

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