子どもの「好きをとことん」どう支える?精神科医・本田秀夫先生と漫画家・沖田×華さんが語るヒント【日本LD学会第34回大会レポート】
発達特性がある子どもと接する大人へーー沖田×華さん・本田秀夫先生からのメッセージ
日本LD学会 第34回大会の一般公開講演会『「好きをとことん」進むために 〜周りの大人が知っておくこと』では、信州大学医学部教授・本田秀夫先生と、「透明なゆりかご」などの著作で知られる漫画家・沖田×華さんが登壇しました。一般公開講演会の前半では、本田先生による講演が行われました。後半では本田先生と沖田さんによる対談が行われ、大会会長である阿部利彦先生がファシリテーターをつとめ、発達に特性がある子どもたちの育ちについてそれぞれの立場からの思いが語られました。
本田先生からは特性がある子どもたちへの療育のあり方や、本人らしさを抑えることなく力を発揮し、意欲的に社会参加するために鍵となるのは「純粋に好きなことに取り組める環境」であることや「趣味を共有できることができる居場所」があること、といったお話がありました。
対談では、小学校4年生の時にLD・SLD(限局性学習症)とADHD(注意欠如多動症)だと診断された沖田さんの幼少期の頃の様子や、さまざまなストレスも感じていたという看護師時代のこと、漫画家になってから経験した二次障害についてまで幅広いエピソードが語られ、本田先生や阿部先生とのトークセッションがありました。
この一般公開講演に際して、LITALICO発達ナビ編集長が、本田秀夫先生と沖田×華さんそれぞれに取材。発達特性がある子どもたちの育ちへの思いを伺いました。
「子どもたちの”好き”を利用して、学ばせようとか、定型発達に近づけようとかということはしないほうがいい」ーー本田秀夫先生
LITALICO発達ナビ編集長(以下ーー)ーー発達に特性があるお子さんの育ちについて、とても学びになる講演をありがとうございました。
本田秀夫先生(以下・本田):僕は医者なので、通常の診察では、教育などの現場でできないことを医療で担っています。ただ、LD・SLD(限局性学習症)というのは教育の場面での支援が主なので、自身の臨床に直結しないことに少なからずジレンマはあるんですよ。LD学会でシンポジウムに登壇するのは実は初めてのことなんです。
ーー講演では「発達特性がある子どもたち特有の生き方を保障すべきではないか」というお話がありました。
本田:発達特性がある子どもにとっての最適な道筋、社会参加をどう保障するかという視点が大切だと考えています。その子の特性を無理に矯正させてはいけない。定型発達に合わせようというスタンスで療育を受けたお子さんが、思春期に入ったあたりで過剰適応になりバーンアウトするパターンも指摘されてきています。
昨今、インクルーシブな教育、インクルーシブな社会が求められています。もちろんインクルーシブであることは重要ですが、定型発達中心の社会のなかで、特性がある子どもを大きな社会の中にばらばらに存在する状態にしてしまうと、その子たちは大きなストレスを感じてしまう面も忘れてはいけない。
僕は、大きな社会の中に、ネストーその子たちが心から好きだと思うことで共通項がある仲間たちとの居場所ーが入れ子の状態であることが必要だと考えています。
ーーなるほど。その子たちが生きる社会の中で、自分の好きなことを自分らしく語り合える仲間が近くにいる。そうした心の安全性がその子の育ちを支えてくれる。その視点は、保護者も支援者も忘れてはならないと感じます。
一般公開講演での本田秀夫先生の講演内容は、ぜひアーカイブで視聴をしてみてほしいと思います。保護者の皆さんや支援者の皆さんにとっても、子どもたちの育ちを支える際のヒントをいただけると思います。
一般公開講演会の内容は、アーカイブで視聴ができます。
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「切り替えがうまくなったのは家族の存在が大きい。今は自分を客観視できるように」ーー漫画家・沖田×華さん
漫画家の沖田×華さんにもお話を伺いました。
LITALICO発達ナビ編集長(以下ーー)ーー沖田さんのお話で印象的だったのは「自分にとって過去のことは他人事のよう」という発言です。だから、過去のできごとを昇華して漫画にもできる。沖田さんは自分自身について、すごく客観視ができているように感じました。
沖田×華さん(以下・沖田):解離じゃないですが、もう一人の自分を見ているようなイメージです。ストーリーの漫画を描くようになってから、いろんな人のことをよく見るようになっていて。そのときに、自分のことについても、自分じゃないものとしてみたほうがお話がつくりやすいんです。
ーー漫画ではつらいことも描かれますよね。ご自分の気持ちが揺さぶられないように、あえて距離をとっている、第三者の視点で見ている、という感じなのでしょうか。
講演では、20代の頃には感情の起伏も激しかったというお話もありました。セルフコントロールはだんだんできるようになっていったのでしょうか?
沖田:20代の頃は「私を怒らせる人が悪い」と思っていました。約束がなぜ守れない?という感覚で。そのころは若かったし稼げていたので、自信があったんですね。また、怒りのスイッチが入るとすごくテンションが上がって、あれこれ動きやすかった面もあります。
今は、怒らない方法が見つかった感じです。怒るほどのテンションが上がらない、切り替えがうまくなった。これは、夫の存在も大きいです。テンションが上がりそうになると察知して「飲みにいこっか!」と明るく誘ってくれたり。笑いに変えてくれるんですよ。
ーーありがとうございます。パートナーとの生活の中で、切り替えの方法をいろいろ学んで、それが自然と身についてきたということかなと感じました。ご家族の関わり方というのはやはり大切だと思います。ご自身の幼少期からのご経験を踏まえて、発達ナビの読者の皆さんへのコメントをいただけたら。
沖田:お子さんと関わるときには、目的や目標は小さく、短くしてあげるといいと思います。うまくいかないことが続くと自信を失ってしまうし、私自身そうでしたから。小さな目標を立てて、もし仮にうまくいかなくても「ダメだった」と言わないでほしい。「今日はうまくいかなかったけど、明日はうまくいくようにしよう」という風に、ダメだったら終わりなんだと思わないような関わり方をしてもらえたらと思いますね。
ーースモールステップで成功体験を積み上げていくということですね。ありがとうございました。
講演では、沖田さんの幼少期から今に至るまでのご経験が沖田さんならではのウイットに富んだ形で語られました。またその経験について、本田先生や阿部先生によるコメントが差し込まれ、示唆に富むものとなっています。発達に特性があるお子さんを育てるうえでも、当事者である沖田さんのお話はきっと参考になるはずです。
一般公開講演会の内容は、アーカイブで視聴ができます。
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「宝箱のような動画なので、ぜひ皆さんにご視聴いただきたい」ーー阿部利彦先生
ーーこちらの講演では大会会長である阿部先生がファシリテーターをおつとめになりました。お二人のお話を聞いての思いや、講演の見どころなどについて一言いただけますでしょうか。
阿部利彦先生:本田先生、沖田先生との対談でファシリテーターを担当させていただき、大変充実した時間を過ごさせていただきました。本田先生のお話をうかがうと毎回新たな気づきがあります。このコラムでも本田先生がおっしゃっていますが、その子の「好き」なことを支援にいかそうとするのではなく、その子の「好き」をぜひ見守ってほしいと思っています。
また本田先生×沖田先生の対談はとても面白くて「確かに」「なるほど」「そうだったのか」といろいろな感情がわいてきて「アッ」という間です。沖田先生が、子どもの頃大人に「気をつけろ」とよく言われたけれど「どう気をつけたらいいか分からない」「自分では気をつけたつもりでも、大人には理解してもらえなかった。気をつけたかどうかは大人が決めるのでどうしようもない」とおっしゃっていて、「本当にそうだなあ」と思いました。子どもへの「言葉かけ」をあらためて考えさせられました。とにかく宝箱のような動画なので、ぜひ皆さんにご視聴いただきたいと思います。
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(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如・多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。
SLD(限局性学習症)
LD、学習障害、などの名称で呼ばれていましたが、現在はSLD、限局性学習症と呼ばれるようになりました。SLDはSpecific Learning Disorderの略。