ANIAFF 新たな国際アニメーション映画祭が誕生。フェスティバル・ディレクター井上伸一郎氏が語る
12月12日から名古屋市で「第1回あいち・なごやインターナショナル・アニメーション・フィルム・フェスティバル」(ANIAFF)と銘打たれたアニメーションの映画祭が開催される。全世界から最先端のアニメーション作品が集まり、コンペティション部門のほか、最新作や話題作を上映、さらに監督やスタジオにフォーカスを当てる。名古屋で開かれる初の本格的な国際アニメーション映画祭について、フェスティバル・ディレクター井上伸一郎氏に聞いた。
狙いはアニメーションの地位向上
――第1回ANIAFF(あいち・なごやインターナショナル・アニメーションフィルム・フェスティバル)が12月12日~17日に名古屋で開催されます。フェスティバル・ディレクターとして、この国際アニメーション・フェスティバルを開催する狙い、趣旨を聞かせてください。
私は過去3年間、「新潟国際アニメーション映画祭」のフェスティバル・ディレクターを担当してきました。新潟の地にアニメーション文化はしっかり根をおろしたと思っています。一区切りつき、より継続性を求め、より大きな都市で開催しようと考え、プロデューサーの真木太郎さんとともに、愛知県知事・大村秀章さんの賛同をいただき、愛知県名古屋での開催にこぎつけました。狙いは、アニメーションの地位向上、地方都市をアニメーションで元気にしたい、アニメーションに関わる人を元気にしたい、海外も含めた交流を活発にしたい、ということになります。
――ANIAFFの特徴は何ですか?
世界各国から集まる最先端の長編アニメーションの国際映画祭です。ANIAFFでは上映時間40分以上の作品を長編アニメーションとしました。アニメーションは手間がかかるので、これまでは長編が少なかった。ところがここ数年、世界中で長編がつくられるようになってきました。デジタル化の影響が、アニメ市場が拡大化していることが根底にあります。国際コンペティション部門では、世界中から45作品がノミネートされ、今回11作品が上映されます。これだけの数のすぐれた長編アニメーションを首都圏以外で見られることはないと思います。特集上映部門では、細田守監督作品9本を上映します。初期の傑作短編『デジモンアドベンチャー』も見られます。監督本人のトークセッションもあります。他の特集上映はイギリスの制作スタジオ『ライカ』の5作品と、オールナイトでの谷口悟朗監督作品3本。これもトークがあります。
――アニメーションではフランスのアヌシー映画祭が有名です。今回はアニメーション界最高の栄誉といわれるアニー賞とコラボした、日本初の映画祭でもあります。アニー賞とコラボする理由は?
アニー賞は、アニメーションのアカデミー賞ともいわれている最高の権威ある賞だからです。賞の運営をしている国際アニメーション映画協会(ASIFA)の支部ASIFA-Hollywoodは世界最大のアニメーション団体です。しかしどうやったらアニー賞にノミネートできるのか分からない人も多い。日本のアニメーション関係者に海外とのパイプをもってほしいとの思いが背後にあります。そして日本のアニメーションがもっと世界で賞をとってほしいという気持ちがあります。
日本の各スタジオがハリウッドとか海外とコンタクトをとってもらうこともサポートしたい。ASIFA-Hollywoodのエグゼクティブ・ディレクターであるオーブリー・ミンツさんが来日し、審査員、そしてトークセッションをやってもらいます。理想としては、毎年、海外の重要人物に来てほしい。アニー賞とのコラボがそのきっかけとなれば幸いです。今の状況をいうと、日本のアニメーション映画が世界でもヒットするようになってきました。
コロナ禍を通して、動画配信サービスが伸び、コアなアニメーションファン以外でもアニメを見てくれるようになってきました。『鬼滅の刃 無限城編』の北米大ヒットも記憶に新しい。そのうえで、賞をとることは歴史に残るので、重要です。興行的にヒットするという量的評価に加えて、質的評価につながります。日本のアニメ業界がさらなる進歩をするためにも、海外とのパイプを太くしたいとの思いが、この映画祭にはあります。
アニメーションと愛知はクラフトマンシップが共通項
――他のアニメーション映画祭にない特徴は他にありますか?
新潟でできなかったことのひとつが、アニメーションのマーケットをつくることでした。作品に出資いただくマーケットです。今まで日本のアニメーションは、完成した作品を売っていました。名古屋では、料理でたとえると、完成する前の食材とレシピで判断して出資してもらうようにしたいんです。さらにいえば、日本ではアニメに出資できる企業はほぼ固まっています。もっと多くの企業に参加できるよう、そんな環境づくりを考えています。アジア最大のアニメーション映画祭といっていいと思います。将来的には、西のアヌシー(フランス)、東のANIAFFとして世界2大アニメーション映画祭とよばれたいですね。
――クリエーターファーストとリリース資料にあります。具体的に何を?
映画を見ていただくことも大きいですが、これからのクリエーターになる人の刺激となるトークセッションやカンファレンスもやります。またクリエーター全般への賞としては、金シャチ賞(グランプリ)、銀シャチ賞(審査員特別賞)、赤シャチ賞(観客賞)があります。さらにカキツバタ(愛知県の花)賞、ユリ(名古屋の花)賞、ハナノキ(愛知県の木)賞もあります。今回のユリ賞はアニメーション編集の廣瀬清志さんが受賞しました。編集の人が賞をもらうことは非常に珍しいと思いますが、最近のヒット作を多数てがけているので、授賞を決めました。
このように、ふだん受賞しない分野の人を評価したい。カキツバタ賞は新しい映像表現の岩井澤健治監督で、ハナノキ賞は富山県のスタジオで25周年を迎えたピーエーワークスです。このように広くクリエーターの人をサポートしたいと思っています。アニメーションをつくるということは、晴れ晴れしい派手なハレの部分は、作品の公開時など一瞬です。逆の地味なケの仕事が99%です。そのようなケの仕事を地道に行っている人たちを大事にしていきたいです。
――改めてお聞きしますが、東京・大阪でなく愛知・名古屋で開催する理由は?
愛知県の大村知事は、「愛知・名古屋は芸術・文化で特徴を出したい」とおっしゃっていました。私も、政治の東京、商業の大阪と比較して、第3のエリアとして、いい着眼点だと感じました。愛知は自動車産業や精密機械で有名です。アニメーションも同じで、一見派手だけどケの部分で成り立っているので、親和性が高いと感じました。アニメーションと愛知はクラフトマンシップが共通項だと思います。私はかつて、富野由悠季の担当編集者だったのですが、富野さんはよく「自分たちは町場の人間」とおっしゃっていました。町場って職人のことなんですね。芸術・娯楽とクラフトマンシップは正反対に見えて、同じ方向を目指しています。テレビの『機動戦士ガンダム』も最初の放映時は名古屋の地方局がキー局でした。また私がてがけたアニメ雑誌の売り上げも愛知県がよかった。そこに遠因があるかもしれません。
――特集上映の細田守監督の魅力を語ってください。
私が最初に注目したのは99年の『デジモンアドベンチャー』。ひとめ画面を見ただけで、心を奪われました。映像センスがある、この人はすごいと思いました。東映アニメーションから独立した06年に『時をかける少女』を一緒につくりました。常に視点が若々しく、作家的視点がぶれません。通底するテーマは「若者に希望を与える」。2009年の『サマーウォーズ』、21年の『竜とそばかすの姫』にもつながっていきますね。新作『果てしなきスカーレット』では映像表現がアップグレードして、豪華な作品になっています。しかもこの数年の戦争や不均等の世界もアニメーションにフィードバックしています。ANIAFFで一気見できるのは、ファンにとって貴重な機会ではないでしょうか。
――アジア、特に韓国や中国でもアニメーションは人気です。アジアとの関係は?
確かに人気があります。今回のオープニング上映は韓国のキム・ヨンファン監督の『Your Letter』です。今年の新作ですね。新海誠監督の影響を受けている方で、いい作品です。もちろん、韓国、中国、さらには他のアジアの国からも参加してほしい。将来的には審査員としても、アジア圏の方に来ていただくこともあると思います。
――中長期的に見て、この映画祭はどうなります?
世界の最先端のアニメーションをこんなに見られる機会というのはありません。日本のファンにとって、それはうれしいことであり続けるでしょう。新幹線なら関東や関西からも近い。もうひとつ、先ほどもいいましたが海外からたくさんの人が来て、日本のアニメーションの現場の人と交流し、海外とのパイプが太く、多様になってほしい。日本のアニメーションはもっともっと発展するはずです。ANIAFFに来たみなさんが「来てよかったな」と感じたことをSNSで発信してくれたら、動員数という評価以上の成功と考えています。
――今のマンガとアニメへの関係をどう思いますか?
マンガに関しては紙よりデジタルが売れているのはご承知の通り。昔は店頭で『りぼん』や『なかよし』に読みたい作品があっても男子は買いづらかったのが、今では電子版があるので抵抗なく読まれるようになりました。カテゴリーが突き破られています。またスマホでマンガを見る人が増えていますが、スマホ独自のマンガ文化として紙とは違った進化をしていくかもしれません。そして昔と比べると、アニメがきっかけでマンガを読む人が増えています。海外でも、似たような傾向があります。現代では新作マンガがアップされて反響がよかったら、すぐアニメ化の話が生まれてきますね。
――この映画祭に賭けるモチベーションは?
日本そして世界において、アニメの社会的地位をあげたいということです。子どものころ、「アニメなんか見るもんじゃない」と大人にいわれて育ちました。その価値観を覆すのが、若い頃からの自分のモチベーションです。
井上伸一郎
編集者、映画プロデューサー、アニメプロデューサー。「月刊Newtype」「Chou Chou」「月刊少年エース」編集長、KADOKAWA代表取締役副社長などを歴任。ZEN大学客員教授。
「あいち・なごやインターナショナル・アニメーション・フィルム・フェスティバル」
会期:2025 年 12 月 12 日(金)~17 日(水)
会場:ミッドランドスクエア シネマ、ミッドランドスクエア シネマ2、109シネマズ名古屋を中核とした上映施設、名古屋コンベンションホール、ウインクあいち 5カ所を予定