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宮本浩次、自身のバースデーライブを文字通り"縦横無尽"な歌とステージングで完遂

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宮本浩次 

バースデーライブ「宮本浩次縦横無尽」 2021.6.12 東京ガーデンシアター

「音楽は素晴らしい!」
すべての曲をやり終えて、ステージから去る直前の宮本浩次のそんなひと言に深くうなずいてしまった。ライブが始まった瞬間から終わるまでずっと、宮本の歌とバンドの演奏の“素晴らしさ”と“すさまじさ”をまざまざと感じながらステージを観ていたからだ。55歳となった宮本の初のコンサート。というか、この東京ガーデンシアターがソロシンガーとしてデビューしてから初のバンド形態でのワンマンコンサートということになる。

「縦横無尽」というタイトルどおりのコンサートだった。ソロ曲、カバー曲、提供曲のセルフカバー、エレファントカシマシの曲、最新の曲が散りばめられていて、しかもそれぞれの歌の世界観の振り幅がとてつもなく大きな構成だ。夜から朝へ、大地から上空へ、昭和から現在へ、女心から男心へ、叙情的な空間から激情ほとばしる空間へ。宮本の歌が時空を越えて、観客をどこへでも連れていってくれる。どこまでも連れていってくれる。音楽が素晴らしいのは演奏する側だけでなく、聴き手にも圧倒的な自由を提供してくれるところにあると思うのだ。

曲調はバラエティーに飛んでいるのだが、宮本が歌い、百戦錬磨のメンバーが演奏することによって、全編を通して大きな流れのようなものが存在していると感じた。曲から曲へのバトンの渡し方も集中力あふれる演奏も見事だった。バンドのメンバーは小林武史(Key)、名越由貴夫(Gt)、キタダ マキ(Ba)、玉田豊夢(Dr)という4人。それぞれが宮本のソロ楽曲のレコーディングでも深い関わりを持っており、ソロシンガー宮本の魅力とともに、自由自在のバンドサウンドを堪能した。バンドが宮本の歌のポテンシャルを引き出し、宮本の歌がバンドのポテンシャルを引き出していく。歌と演奏の応酬のなんとスリリングなことか!

映像や照明などの演出も見事だった。オープニングの演出から息を飲んだ。映像やセット、小道具などを効果的に使うことによって、彼の歌がこの世界に光をもたらしていくようなシンボリックな世界が出現していた。ライブが始まった瞬間から“あたらしい明日”“あたらしい世界”が確かにそこにあったのだ。「解き放て、我らが新時代」では宮本がまるで檻から解き放たれていくかのように見える瞬間があった。

この日のこの瞬間にしかない歌の数々に胸が熱くなる。宮本のフェイクと小林のピアノの応酬で始まった「きみに会いたい-Dance with you-」では気迫や情熱までもが歌と演奏の中に溶けこんでいると感じた。この日の“きみに会いたい”というフレーズには、観客に歌を届けることへの熱い思いが込められていたのではないだろうか。さまざまな制限がある中でのコンサートでありながら、まったく不自由さを感じさせなかったのは、宮本が圧倒的に自由だったからだろう。宮本が解き放たれ、歌が解き放たれ、そして会場内の観客も一緒に解き放たれていた。

『ROMANCE』収録曲も数多く披露されたのだが、どの曲もライブで歌われることで、さらに歌の世界が深くなっていると感じた。歌の核の部分に肉迫していく歌声なのだ。これは歌い手としての表現力の豊かさとともに、人間としての心模様の豊かさがあるからこそだろう。人生の悲しみや喜び、さまざまな感情や思い出を“歌に託していく”と形容したくなるようなリアルな歌の数々に胸が震えた。男性が主人公、女性が主人公といった区分けを超えて、“人間が主人公の歌”として届いてくる歌がたくさんあった。例えば、「あなた」。この日の宮本の歌声の中に宿っている祈りのようなものをなんと表現すればいいのだろう。

これまで数え切れないほど演奏されてきた曲からも新たな顔が見えてきた。例えば、「ガストロンジャー」。すさまじい切れ味と強度を備えたリズムに体の芯の部分から揺さぶられた。エレファントカシマシとは異なるグルーヴが存在していた。「縦横無尽」というタイトルに合わせて四文字熟語で表すと、エレファントカシマシのバンドサウンドを「以心伝心」とすると、この日のバンドサウンドは「電光石火」「一触即発」といったところだろうか。そして終盤に披露された、「素敵な日がやってきますように」という言葉に続いての「ハレルヤ」、あらゆる感情を胸に抱いて進んでいくような「sha・la・la・la」からは、今の瞬間の宮本の思いがダイレクトに伝わってくるようだった。

ソロアルバム『宮本、独歩。』とカバーアルバム『ROMANCE』のリリース、そしてバンド形態でのワンマンコンサートによって、やっとソロシンガー・宮本浩次の全体像が見えてきたところだろう。だがこれは全体像ではあっても全貌ではない。55歳のバースデーライブ「宮本浩次縦横無尽」は、宮本が見せてくれる“あたらしい世界”の始まりの一歩なのだろう。

取材・文=長谷川誠

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