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亀田誠治(東京事変)「本当に君、これいいと思える?」#3

ほぼ日

東京事変のベーシストであり、椎名林檎、平井堅、スピッツ、GLAY、いきものがかり、JUJU、石川さゆり、ミッキー吉野、山本彩、Creepy Nuts、アイナ・ジ・エンド、yonawoなど、幅広いアーティストのプロデュースやアレンジを手がけてきた亀田誠治さん。
実は、音楽活動のおおもとには、個性的な少年時代の経験があるのだとか。
「ほぼ日刊イトイ新聞」の連載を全10回でおとどけします。
第3回、まだまだお母さんのエピソードが続きます。


亀田
‥‥もうちょっと母の話をしますよ?

観客席の糸井
いくらでも(笑)。

亀田
僕が小学校5年生の頃ですね、「サイクリング車(ジュニアスポーツ車)」という自転車が流行ったんです。自転車だけど、車みたいにウインカーとか、いろんな装備がついているんです。
当時『仮面ライダー』もはじまったばかりで‥‥って、いまと違って「変っ身!」ですからね(笑)。

亀田
そういう世界がきっかけになって、変速機つきで、ウインカーとかもある自転車が流行ったんです。クラスで何人も乗りはじめる。
でも僕だけ小学5年生にもなって、ママチャリどころか、姉ゆずりの赤い、こんなにちっちゃい子供チャリを漕ぎながら、みんなと遊びに行ってたんです。だからもう、欲しくなっちゃって。
母に「サイクリング車が欲しい」とお願いするわけです。「山田くんも持ってる。黒田くんも持ってる。あの子もあの子も、みんな持ってるよ」とかって。
そしたら母がうなずきながら聞いてくれて、でも、こう言うわけです。「あらそう。でも、みんなが持っているからって、誠治が買う必要はないわよね?」
バーーン!ってまず第1弾が来て。
「あぁ、これは無理なのかな」と思ったら、母がこう言いました。「わかった。誠治がこれから1年間、風邪を引かなかったら買ってあげる」

亀田
僕ね、小学2年生で小児喘息になって、身体がちょっと弱かったんです。それを水泳とかをやりながら、少しずつ克服して、だんだん元気になってはきた。
それで小学5年生ぐらいでその自転車をほしいと伝えたら、母がまずは大前提として言うわけです。「みんなが持っているからという理由じゃ買ってあげない」と。
でも、かといって、勉強で一番になれとも言わないわけ。そうじゃなくて「1年間、風邪を引かなかったら買ってあげる」。
これ「どう計画を立てればいいだろう?」って話なんです。今でこそ手洗い、うがい、マスクとか、そういう指針がありますけど、当時はどうすればいいかまったく分からなくて。
でも小学生の僕は、たとえば「夏の水泳スクールをがんばる」とか。あと当時は今とまったく逆の教え方があって、「たくさん日光に当たれば風邪をひかない」といった指導もあって、一所懸命、日なたで甲羅干ししたりとか。ほんとに「亀の甲羅干し」ですよ(笑)。いまだと「日光に当たりすぎてはいけない」と言うと思うんですけど。
あとは本当に、よく寝て、よく食べて。ぷっくら太っちゃったりもしたんですけど、最終的に、1年間風邪をひかなかったんです。

亀田
そうしたらば、自分のもとに、ついにピカピカのサイクリング車がやってきました!
‥‥1年後、ブームがちょっと去った後ですけど(笑)。
でもそのときに、ほしいものを我慢して、しかも自分で方法を考えて、実行して、目標にたどりついた。がむしゃらに頑張るだけとかじゃなくてね。
たぶん母親は僕に、「考えさせる癖」みたいなものをつけさせたかったんだと思うんですね。そして同時にまたそのとき僕は、簡単には耐えきれない「辛抱する期間」みたいなものを教えられた気がするんです。
それはいま、僕の仕事でほんとに役に立っていて。
数年がかりのプロジェクトもありますし、1、2年経ってうまくいかなくなるものもやっぱりありますから。そのなかで、子供の頃にそういう経験を積めたのは本当に良かった気がするんです。
いろんなことに時間をかけて取り組んでいく。しかもサドンデスで。サイクリング車も、もしも一発風邪をひいたらアウトでしたから。
そのなかで「人生にはいろんなことがあるけども、受け入れてきなさい」というメッセージを母から受け取っていたんじゃないのかな。そういうことが、いまはわかります。

亀田
‥‥母のエピソード、もういっこ!(笑)

会場
(笑)

亀田
僕、小学校6年生の9月の終わりぐらいに、東京に転校してくるんです。
ちょうどその年に、地震用の「防災頭巾」が義務化されたんです。椅子の後ろにクッション代わりに置いて、何かあったらそれをかぶって逃げるというものですね。
それで、学校の制服と同じで、生徒全員が指定のお店で指定の防災頭巾を買うんです。オレンジと茶色の市松模様。ああいう頭巾が学校で配布されるのが、転校してきた東京の小学校だったんです。
だから10月の頭かな、学校から「防災頭巾を1人1セット購入するので、数百円徴収します」という手紙が来たんです。
だけど母はそれを見て、「みんなが同じものを買うのはおかしい」って言ったんです。
何をするにしても、「みんながやってるから」という理由では、絶対ダメ。この「みんな」が、サイクリング車のときはクラスの男の子7、8人でしたけど、今回は全校生徒600人ですよ?
600枚の防災頭巾はもう配られているのに、「誠治の防災頭巾は私が作る」と言って、僕の防災頭巾は、母が作ったレモン色。599対1で、僕一人だけ真っ黄っ黄です。朝の朝礼で、みんなが同じものをかぶるなか、僕ひとりレモン色の頭巾をかぶって朝礼に並ぶというのを味わいました。
めちゃくちゃ恥ずかしいし、「何でかな?」と思ったけど。
‥‥でもね、これ本当に、さっきのサイクリング車の話もそうですけど、「みんなが持っているからといって、必ずしも正しいとは限らない」ということなんです。
「じゃあ、みんながいいって言ったら、あなたはそれで全部よしとなるのか」そういうことを、母は僕に教えてくれたんだと思うんですよね。

亀田
そしてその考えは、いま僕が音楽を作ったり、仕事をしたりする上で、ものすごく重要なものさしになっているんです。

マーケティングだったり、いろんな数字から見えてくる「みんながどう行動していて何が流行る」とかも、確かに大事かもしれない。
だけど、それ以前に「自分はどう思うか」「自分がそれを好きと思えるか」「正しいと思えるか」。そういうことを、母は常に教えてくれていたんだなと感じます。
まぁでもね、いじめに発展しなかったのが奇跡ですよ。僕だけレモン色ですから(笑)。
でも、その防災頭巾の話は僕、いまでもよくいろんなところで話すんです。
小学校6年生という一番多感な時期に、「自分自身の尺や基準を持つこと」を教えられた。
当時のそれは親から言われた基準なんだけども、「みんなが同じだから選ぶんじゃなくて、自分が正しいと思ったことを選びなさい」と、母の行動から教えられた。そのことは今でもすごく役に立っていて、いろんな場面で基準にしています。
このごろは、メディアやSNSで本当にいろいろ情報収集ができるから、みんなが情報で満たされちゃっているんです。そしてその情報から、自分はどうしていくかを考えてしまう。
でもその前に「本当に君、これいいと思える?」ということ。
僕はやっぱり母が僕に言ったことと同じことを、自分の手がけているアーティストやスタッフに言うようになりました。

[亀田誠治6才]

(出典:ほぼ日刊イトイ新聞「 僕と音楽。亀田誠治|(3)「みんなそうだから」で選ばない。」 )

亀田誠治(かめだ・せいじ)
1964年生まれ。
これまでに椎名林檎、平井堅、スピッツ、GLAY、いきものがかり、JUJU、石川さゆり、ミッキー吉野、山本彩、Creepy Nuts、アイナ・ジ・エンド、yonawoなど、数多くのアーティストのプロデュース、アレンジを手がける。
2004年に椎名林檎らと東京事変を結成。
2007年と2015年の日本レコード大賞にて編曲賞を受賞。
2021年には映画「糸」にて日本アカデミー賞優秀音楽賞を受賞。同年、森雪之丞氏が手がけたロック・オペラ「ザ・パンデモニアム・ロック・ショー」では舞台音楽を担当。
近年では、J-POPの魅力を解説する音楽教養番組「亀田音楽専門学校(Eテレ)」シリーズが大きな話題を呼んだ。
2019年より開催している、親子孫3世代がジャンルを超えて音楽体験ができるフリーイベント「日比谷音楽祭」の実行委員長を務めるなど、様々な形で音楽の素晴らしさを伝えている。

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