「犬や猫を飼って!」と願う子どもが大喜び! 「ペットがいる喜び」を味わえる絵本3選[絵本の専門家が選出]
「ペットが大好き・飼いたい子」に贈りたい絵本を絵本のプロが厳選。『あしたうちにねこがくるの』『ねこがしんぱい』『どろんこハリー』を紹介。選者は絵本コーディネーター・東條知美氏。連載「子どもの本のプロが選ぶギフト絵本」第8回。
「猫の迷路ゲーム作って」→数分で完成!? Google社員ママが教える「Gemini」育児活用術絵本は、子どもへの贈りものに最適なアイテム。とはいえ、数ある絵本の中から年齢や好み、贈るシーンに合った1冊を選ぶのは、なかなか難しいもの。連載企画【子どもの本のプロが選ぶギフト絵本】では、絵本の専門家が、子どもにも親にも喜ばれる贈り物にふさわしい絵本をセレクト。
第8回は、絵本コーディネーターの東條知美(とうじょう・ともみ)さんが、「ペットが好きな子」へのプレゼントにおすすめの絵本を紹介します。
猫を迎える女の子の空想をコミカルに描く
よく「子どもに読みたい絵本とはどんな絵本ですか?」と聞かれることがあるのですが、そのたびに私は「おもしろくてドラマティックで、幸せに包まれるエンディングが用意されているもの」と答えます。
子どもは絵本の世界にググっと入り込み、そのドラマや世界を丸ごと体験するものです。せっかくならばワクワクする体験を、心が広々するような世界、あるいは優しい世界を体験してほしいと思っています。
今回は「ペットが好きな子」に、イメージの冒険を思い切り楽しんでもらえるような3冊を選んでみました。
最初にご紹介するのは『あしたうちにねこがくるの』(講談社)です。
「うちで ねこを かうことに なったの。」
猫を飼いたい子、ペットがいる生活に憧れている子にとって、冒頭の一文はなんて魅惑的なのでしょうか。子どもたちから「いいな~」という羨望の声が聞こえてくるようです。
『あしたうちにねこがくるの』 (文:石津ちひろ、絵:ささめやゆき/講談社)
明日うちに猫が来たら、とびきりかわいい猫が来たら、いっぱい抱っこして、やわらかい背中をナデナデして一緒に遊ぶんだ。猫はきっと、のどをゴロゴロいわせて喜ぶだろうな。
だけど、万が一……。
その猫が、ライオンみたいに大きかったら? わたしのおやつを盗んでばかりだったら? わたしよりもピアノが上手だったら?
どうしよう……!
猫のいる日々、幸せを期待する気持ちが大きければ大きいほど、頭の中に浮かぶのは“悪いねこ”のイメージ。そんな心配性な「わたし」の想像が、コミカルに大真面目に映し出されます。
そうでした。子どもの心は、いつだって真剣そのもの。大人にとってはあり得ないイメージも、子どもたちにとっては無視できない“リアル”だったりするのですね。
2000年の発売以来、四半世紀にわたり子どもたちから愛されているロングセラー。すでにペットを飼っているお子さんも、これからペットを飼うお子さんも、想定外のイメージにドキドキハラハラしつつ、最後にはちゃんと安心と満足が得られる絵本です。親子で一緒に“ペットと暮らす喜び”を感じてもらえるのではないでしょうか。
「心配って“愛”なんだ!」を親も子も実感する絵本
続いてご紹介するのは『ねこがしんぱい』(KADOKAWA)。1冊目にご紹介したのは猫を飼う前の心配を描いた作品でしたが、こちらは「飼い始めたら、もっと心配しちゃう」という3人家族の心理を描いた絵本です。
『ねこがしんぱい』(作:角田光代、絵:小池壮太/KADOKAWA)
作中に描き出されるのは、ふたつの世界。ひとつは、ひとりでお留守番をする愛猫・たまこが心配な「わたし」「おとうさん」「おかあさん」、それぞれが頭に思い浮かべた“たまこの危機”。すべて家族の心配からはじまった妄想です。
たまこが、もし、真っ暗なたんすに閉じ込められていたら……?
もし、コップを割ってけがをしていたら……?
もし、家に忍び込んだカラスにいじめられていたら……?
どれもこれも一大事。たまこがかわいそうで、とてもじっとしてなどいられません。しかし、この絵本は都度、そんな悪い妄想とは対をなす、もうひとつの誰も知らない“たまこの世界”を読者にささやきかけます。
実は、たんすの奥には大きな森が広がっていて、小鳥たちと笑いたわむれているたまこ。たまこがコップを見つめれば、水があふれて魚が泳ぎはじめ、ご近所のカラスとも仲がよく、世界中の猫たちとオンラインで遊ぶ約束だってしている。
本当のたまこは、何でもできる子。家族の知らない“たまこの世界”を持っていて、ちゃんと楽しくやれるのです。信じていればいいのです。
……あれ? 猫の話をしているつもりが、なんだか子育ての話みたい。つい我が子を心配してしまう親の姿そのものです。それにしても、心配ってつくづく愛ゆえに起こるものなのですね。
猫は、いつもどこかミステリアス。その計り知れない魅力と飼い主の愛を“たまこの世界”と“飼い主の作り出したイメージ”という、相反するふたつの世界で示したのは、直木賞作家・角田光代さん。角田さんが初めて書き下ろしたという猫のお話に、新進気鋭の洋画家・小池壮太さんの絵が加わり、イメージはどこまでも広がっていきます。
ちなみに、たまこのビジュアルは、作家の愛猫・トトちゃんにそっくり。ペットを飼うことで、子どもも大人もさらに愛情深い人間になれるのかもと感じさせる、ハートウォーミングな物語です。
「まるで自分みたい!」子どもの共感を呼ぶロングセラー
最後にご紹介するのは、ペットの犬を描いたロングセラー絵本『どろんこハリー』(福音館書店)。1956年、アメリカで『Harry the Dirty Dog』というタイトルで出版され、1964年には日本語版が発売。実に70年もの間、世界中の子どもたちの目を輝かせてきた、読み聞かせ現場でも大人気の名作です。
『どろんこハリー』(文:ジーン・ジオン、絵:マーガレット・ブロイ・グレアム、訳:わたなべしげお/福音館書店)
主人公は、「おふろにはいることだけは、だいきらい」な黒いぶちのある白い犬・ハリー。ある日、家族がお風呂の準備をしていることに気づいたハリーは、お風呂用のブラシを裏庭に隠してしまいます。そうして家を抜け出し、街の好きなところで好きなように遊んでいるうち、泥やすすで真っ黒になってしまうのです。
やがて「しろいぶちのある くろいいぬ」になってしまったハリーは、家に帰っても、家族の誰にも自分だと気づいてもらえません。
困った、ハリー! どうする、ハリー!
ドキドキハラハラしながらも、最後には大団円の物語。大判の見開き画面いっぱいに繰り広げられるハリーのプチ家出シーンでは、心のままにやりたいことを全力でやりきるという、子どもの本質的な願望が感じられます。
また、嫌なものは嫌という素直な気持ち、今にもページから飛び出しそうな疾走感、汚れをさっぱり落とした後のえも言われぬ爽快感と、要所要所で“気持ちいい!”感覚にうったえる作品でもあります。
お風呂が嫌いだったり、つい調子に乗りすぎちゃったり、失敗してしょんぼりするハリーの姿。子どもたちは「あ、同じ!」と自らを投影して楽しめるのではないでしょうか。ぜひ親子で読んでいただきたい一冊です。
取材・文/星野早百合