高性能住宅を建てるだけでは快適にならない。性能を生かす暮らしの4つのポイント
「建てる」だけで快適になるとは限らない
2025年から始まった新築住宅の省エネ基準義務化を受けて、高断熱・高気密の「高性能住宅」が急速に増えている。高性能住宅の魅力は、少ないエネルギーで快適に暮らせることにある。夏は涼しく、冬は暖かい。部屋ごとの温度差は少なく、ヒートショックや熱中症のリスク軽減など健康面のメリットも大きい。近年の猛暑や光熱費高騰を考えると、その価値はさらに高まっているといえる。
一方で高性能住宅は、建てれば自動的に快適になる「魔法の家」ではない。性能を生かすためには、従来の住宅とは少し違った住まい方を意識することが必要になる。例えば、日本の既存住宅は隙間が多く、良くも悪くも空気や湿気が自然に出入りしていた。しかし高気密になったことで、空気の流れや湿気の管理を意識しなければ、かえって不快になることも起こり得る。
逆に言えば、少しだけ意識を変えることで、快適性も省エネ性も大きく向上する。この記事では、実際に高性能住宅に暮らす断熱ジャーナリストの筆者が、快適に暮らすために意識しているポイントを紹介する。なお、以下で説明することは、高性能ではない一般の住宅でもある程度の効果を発揮する。
紹介するポイントは以下の4点だ。
・日射を防ぐ
・湿気を逃がす
・空気を流す
・設備を手入れする
※本稿では、高性能住宅の基準を断熱等級6以上、C値1以下を目安としている。なお、換気については、第一種換気か第三種換気か、ダクト式かダクトレス式かによって条件が異なる。筆者は第一種のダクトレス換気装置の住宅に住んでいるので、以下で説明するように各部屋の温湿度管理を意識するようにしている。第一種のダクト式換気の場合は最も手間がかからず、各部屋の温湿度を保ちやすいが、設備の初期コストとメンテナンスコストは一般的には高くなる。
夏は「窓の外」で日射遮蔽
夏対策で最も重要なのは、窓から入る日射を防ぐことだ。特に高性能住宅ではその効果は絶大になる。「断熱・気密性能が優れた家なのに暑い」という声を聞くことがあるが、原因の多くは窓から入る日射熱が防がれていないことにある。
気密性能が高い家は、一度入った熱が外へ逃げにくいため、強い日差しが入り続けると、一般的な住宅以上に室温が上がるケースもある。そのため、日射遮蔽を含めた日射コントロールは本来、家を建てるハウスメーカーや工務店が意識して、設計や施工で対策しておくべきものとされている。しかし実際は、高性能住宅を建てている大手メーカーでも、十分に対応しているところは多くない。
そこで住まい手にとって重要になるのが、窓の外側で日射を遮ることだ。窓の内側から断熱カーテンやブラインドを閉めても、40%の熱しか防げない。一方で窓の外側での対策なら、80%の熱を防ぐことができる。効果が大きいのは、
・外付けシェード
・すだれ
・外付けブラインド
などである。中でもおすすめしたいのが、手軽な価格で設置できる外付けシェードだ。すだれでも効果はあるが、日射取得をしたい場合のつけ外しの手間を考えると、シェードのほうが使い勝手がいい。
筆者宅では外付けブラインドを採用しているが、真夏の日差しによる室温上昇は大きく抑えられている。まだ価格は高めだが、新築時にはぜひ検討したい設備の一つだ。
マンションなど、外側にどうしても付けられない場合は、内窓を設置したうえで、外窓と内窓の間に既存のブラインドなどを設置するという裏技もある。これなら効果も高いうえ、コストも安く済む。
なお冬の場合は逆に、窓から日射を積極的に取り込むことが暖房負荷の低減につながる。高性能住宅では、「季節ごとに日射熱をコントロールする」という考え方がより重要になる。
感覚よりも数値を確認する
次に注目するのは湿気、換気、電気やガスの消費量だ。「なんとなく暑い・寒い」といった感覚だけに頼らず、温度や湿度を数字で把握することが大切だ。筆者がおすすめしたいのは、
・各部屋に温湿度計を置く
・電気やガスの消費量を定期的に確認する
といったことを習慣化することだ。数字を見ることで、「この部屋だけ湿度が高い」「冷暖房が効きすぎている」「電気消費量が急に増えた」といった異変に気づきやすくなる。また、頻繁に確認することで、「この部屋だけ湿度が高い」「空気が流れにくい」といった「その家の特性」もわかってくるので、対策もしやすくなる。
例えば、わが家の換気設備は第一種(ダクトレス換気)だが、ダクトレスの場合、ドアを閉め切ることで空気が滞留しやすくなるため、通常からトイレや浴室のドアを少し開けておくなどの工夫をしている。特に注意が必要なのは使用後の浴室の湿気だ。気密性が高い分、入浴後も換気せずに放置すると湿気が抜けていかない。そのため、
・換気扇を回す
・ドアを少し開ける
・湿気が抜けるまで換気する
といった工夫は欠かせない。
ただし、ダクト式の第一種換気設備が付いている家庭では、基本的にはこの辺りのことを気にしなくても良いようになっている。それでも、排気口と吸気口の位置や空気の流れがどうなっているか把握しておくことは、役に立つはずだ。
どんな換気設備でも共通している注意点は、基本的なことだが家具などの配置により気流が妨げられるケースもあることだ。筆者が以前「暑くてたまらない」と相談を受けた高性能住宅では、エアコンの真下に大きな家具が置かれ、冷気がうまく循環していなかった。その家では、家具の配置を変えただけで室温が大きく改善した。性能の高い家でも、空気の流れに逆らえば快適にはならない。
電気やガスの消費量のチェックについてだが、なぜ「電気料金」や「ガス料金」ではないのかと聞かれることがある。金額は特に近年の変動が激しいため、それだけではエネルギー効率などを評価することが難しいからだ。消費量そのものは、暮らし方や家族の人数が同じであれば、数年前とそれほど変わらない。その上うえで、急に上がったり下がったりしているものがあれば、その原因を探るヒントになる。
エアコンは「メンテナンス」が大事
最後のポイントは、これからの季節に欠かせないエアコンについてだ。高性能住宅では、少ない台数のエアコンを長時間運転するケースが多い。そのため重要なのが、メンテナンスである。特にフィルター掃除を怠ると、
・風量低下
・電気代の増加
・冷暖房効率の悪化
・カビの発生
などにつながる。
フィルター掃除は数分で終わる作業だが、後回しになりやすい。一般的には2週間に一度の清掃が推奨されているが、筆者も含めて、きちんとできている人はあまりいない。しかし少なくとも、夏の冷房シーズン前には必ず一度は確認したい。
近年は、エアコンの水漏れやガス漏れの相談も増えている。背景には、日本の高温多湿化があると指摘されている。エアコンの性能や課題について詳しい松尾和也さん(松尾設計室代表)に伺うと、「冷房時にはエアコン内部に大量の結露水が発生し、ホコリと混ざってスライム状の汚れになる。これが排水経路を詰まらせ、水漏れの原因になる」と言う。「一般の住宅でも同じように起きるのだが、高性能住宅では、少ないエアコンを長時間運転することが多く、負荷が集中する傾向がある」と松尾さんは分析する。
一方でガス漏れに関しては、さまざまな原因が推測されていて一概には言えない。ただ松尾さんは、「以前は稀な事象だったが、近年は設置後2~3年で発生することが増えている」と言う。原因の一つとして、「消臭スプレーに含まれる成分がエアコン内部で化学反応を起こし、銅管に蟻酸による微小な穴を開けること」があると松尾さんは指摘する。水漏れ、ガス漏れについて注意したいのは、
・冷えが悪い
・異臭がする
・水が垂れる
・効きが急に悪くなった
といったサインだ。
「まだ動くから大丈夫」と放置すると、真夏に突然故障することもある。異変を感じたら、早めに点検することが重要だ。
なお、いずれも具体的な対策は、個人ではなかなか難しい。松尾さんは、各エアコンメーカーの担当者と、エアコンの水漏れ、ガス漏れについての問題を話し合っているが、「メーカー側の根本的な対策は遅れている」と言う。ただ、「どちらもこの数年に頻発している問題なので、今後はメーカーも対応せざるを得なくなるだろう」と予測している。
「性能を生かす暮らし」を
ここまで述べたように、高性能住宅は決して「魔法の家」ではない。しかし、
・日射を防ぐ
・湿気を逃がす
・空気を流す
・設備を手入れする
という基本を押さえるだけで、一般の住宅に比べてはるかに快適で省エネな暮らしを実現することができる。そして性能の高い家ほど、「住まい方」の影響は大きくなる。家の性能を最大限に活かせるかどうかは、最終的には、毎日の小さな暮らし方の積み重ねにかかっている。
高橋 真樹
[オピニオンリーダー]ノンフィクションライター、断熱ジャーナリスト
エコハウスに暮らし、サステナビリティをテーマに取材、執筆、講演を続ける。著書に『「断熱」が日本を救う 健康・経済・省エネの切り札』(集英社新書)ほか多数。公式サイト(https://t-masaki.com/)
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