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【ウナギの資源保護と完全養殖】”夢の技術”の商業化はできるのか?資源保護と食文化継承の両立に向けた課題とは?産地の地元紙記者が解説します!

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静岡トピックスを勉強する時間「3時のドリル」。今回のテーマは「ウナギの資源保護と完全養殖」です。先生役は静岡新聞の高松勝ニュースセンター専任部長です。(SBSラジオ・ゴゴボラケのコーナー「3時のドリル」 2024年7月8日放送)

(高松)7月24日は「土用の丑の日」。年間で最もウナギ消費が増える日とされています。水産庁は7月4日に、養殖ウナギの大量生産に向けた「完全養殖」の研究で、稚魚1匹当たりの生産コストを従来から半減できたと発表しました。

ニホンウナギの稚魚は近年不漁で、ウナギの蒲焼の価格は依然高いままです。夢の技術とされるウナギの「完全養殖」はいつ実現できるのか。それまでにウナギを絶滅させずに保護できるのか。今日はウナギを巡る資源保護と研究の現状を考えたいと思います。

(山田)土用の丑の日は毎年変わりますよね。

(高松)土用は年に4回、それぞれ立春、立夏、立秋、立冬の前の18日間を指します。その期間に巡ってくる十二支の丑に当たる日が「土用の丑の日」で、今年の夏は7月24日と8月5日になります。なので、日にちは毎年変わります。

(山田)その中でウナギのちょっと明るいニュースがあったということですね。

(高松)そうですね。国はウナギの人工養殖の研究に一生懸命取り組んでいますが、稚魚1匹当たりの生産コストが現時点で1800円程度まで下げられたとのことです。4年前から半減しましたが、天然の稚魚の価格に比べればまだまだ高いので、さらに下げないと一般に流通させるのは難しい状況です。そもそも、現状は生産できる人工稚魚の絶対量が少ないということもあります。

国は2050年までにウナギの養殖に使う全ての稚魚を人工にする目標を掲げていますが、まだ先の話です。

(山田)2050年!そこを過ぎれば、若干だけどウナギが安くなる可能性があることでしょうか。

(高松)まずはそもそも論の話をしたいと思います。

(山田)お願いします。

(高松)日本人が食べているウナギは99%以上が養殖物です。

(山田)確かに天然物のウナギなんて食べたことないですね。

価格高騰の背景に稚魚の不漁

(高松)そもそも昔は、川で普通に取って食べていたと思いますが、基本的に今は天然のウナギの遡上は非常に少ないです。ちなみに養殖というのは国産だけでなく、輸入物も一定数を占めます。

養殖物とは何かというと、日本の近海に上ってくる稚魚のシラスウナギを川で採り、それを養殖池に入れて育てたウナギのことです。おいしいウナギに育てるという養殖技術の継承も課題ではありますが、そもそも稚魚そのものが採れなくなってきているということが近年、県内でもニュースになっています。

日本近海に上がってくるシラスウナギの絶対量は少なくなっていて、そう簡単には回復しないと思います。稚魚が採れなければ養殖ウナギの数も少なくなるので、値段も上がってしまいます。一方で海外から輸入するにしても円安が続いているので、うな丼やうな重が安くなるというのは構造的に難しくなっています。

そもそもウナギ自体が絶滅危惧種に指定されています。

(山田)レッドリストですか。

(高松)環境省は2013年、国際組織IUCN(国際自然保護連合)は2014年に相次いで、ニホンウナギを「絶滅危惧IB類」に指定してレッドリストに掲載しました。「いますぐ絶滅する」という意味ではなく、過去何十年かの中で量が激減していて、このままでは近い将来に絶滅する危険性があるという趣旨での指定になっています。

ニホンウナギだけではなく、世界にはヨーロッパウナギやアメリカウナギなど19種ほどのウナギ種があるんですが、これらも絶滅の危険性があると指摘されています。

ニホンウナギに限って言うと、太平洋のマリアナ海溝近くで産卵し、そこから台湾や中国近海、韓国付近を通って日本に上がってくるとされています。長年の研究の末に産卵場所が分かったときは奇跡だと言われたんですが、ニホンウナギの子どもの頃の生態は今も詳しく分かっていません。

親ウナギは皆さんにも馴染みがあると思いますが、何千キロも回遊していることも含め、ウナギはいまだに生態がよく分かっていない魚で、謎が多いんです。どうしても食べる方の話ばかりになりがちなんですが、その前の過程がとても重要です。絶滅させないように、ウナギを自然界にどう残すかというところが大事です。

完全養殖の商業化はコスト面が課題

(高松)人の手で卵から稚魚を育てて親にし、その親から卵を取ってまた稚魚にするというサイクルのことを「完全養殖」といいます。現在、マグロなどさまざまな魚で完全養殖の技術が進んでいて、ウナギについても完全養殖は一応できるようになっています。

(山田)できているんですか?

(高松)できてはいますが、冒頭の話のようにまだとてもコストがかかってしまう状況です。育て方が難しい繊細な魚で、大量に育てるのも難しいんです。この10年ぐらいでものすごく研究が進み、劇的に前進してはいますが、ウナギを完全養殖して商業化するというのはまだ難しい。言うほど簡単な話ではありません。

そもそも天然のウナギが絶滅してしまったら元も子もないですし、人間が研究所で作ればいいというのは傲慢な議論です。補完的な話としては必要ですが、やはり天然のウナギがなぜこれほど取れなくなってしまっているのかということを考えたり、どのようにありがたく食べるかということに思いを巡らしたりするべきだと思います。そういう意味では、ウナギは非常に奥深い魚ですね。

(山田)ウナギの価格がどんどん高騰すると、高すぎて食べないという人たちも増え、ウナギのことを知らないという子どもたちが出てくる可能性もありますよね。そうすると、ウナギが絶滅危惧種だということへの関心も薄れてしまう恐れがありませんか。

(高松)業界団体はウナギに触れてもらう活動も県内で展開しています。資源保護に配慮し、植物由来など「ウナギもどき」の食べ物も出回るようにもなっています。

世界の研究者も驚く日本人のウナギ好き

(高松)ヨーロッパやアメリカでもウナギは食べられていますが、日本人の「ウナギ好き」は海外の研究者にも驚かれるほどだそうです。これには食文化的な要素もあります。焼いたり蒸したりする調理法のクオリティが高いですし、土用の丑の日もそうですがウナギが生活に根ざしています。食べてみなければ、いろいろと想像ができないというのもあります。

非常に価格が高騰していて難しい部分ではありますが、山田さんが言うようにウナギを食べたりする中でいろいろな問題を考えるというのはとても大事だと思います。また、一定程度食べるということをしなければ、産業として関わっている漁師、業者、店舗、職人さんたちがいなくなってしまうことにもつながってしまいます。食文化的なものをどのように持続可能にするかという側面もあると思うので、資源保護と両面で考えなければいけないという話になります。

(山田)今、日本人はウナギ好きだという話がありましたけど、それぞれ好きなうなぎ店とかもありますよね。

(高松)そうですね。背開きか腹開きか、焼きか蒸しかなど、好みの違いなどもありますしね。

ウナギの世界は漁業から養殖、流通、さらに調理加工があって、消費者にたどり着きます。また、研究者もいるので、さまざまな角度から見ることができます。そういった学びの意味でもとても奥深い魚だと思います。

(山田)食文化もそうですし、養殖、生態と切り口がたくさんありますね。

(高松)僕らが子どもの頃は静岡県内にも養殖池がたくさんありましたよね。今は養殖池は減ってきてしまっていますけど、静岡県は全国的にもウナギの養殖が盛んな県です。

(山田)もうすっかりウナギの口になってしまっています。タレだけでもいいから(笑)。

(高松)これはウナギを食べたことがあるから言える話ですよね。

(山田)今月の土用の丑の日を機に、家族でウナギについてちょっと考えようという話をしてもいいかもしれませんね。今日の勉強はこれでおしまい!

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