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介護の担い手不足と「特定技能」の壁…外国人の熱意と制度のはざまに見えた課題とは

Sitakke

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全国でも人手不足が、顕著に現れているのが「介護」の現場です。

介護人材を新たに確保しようと、北海道名寄市が手を組んだのは、ヒマラヤ山脈を抱く国「ネパール」でした。

シェルパ・ラクパさん(40)。
2年前の2023年5月、ネパールから人口約2万5000人の名寄市にやってきました。

「雪が楽しみ」と笑顔を見せるシェルパさん。
名寄市が運営する特別養護老人ホーム『清峰園』で、介護士として働いています。

清峰園ではいま、9人の外国人が働いています。

このうちネパールから来た人は7人。
シェルパさんは、利用者の介護をしながら、後輩の指導にもあたっています。

利用者からも「ネパールの人は真面目で一生懸命」「すばらしい」と太鼓判です。

今では、すっかり人気者のシェルパさん。
日本にやって来たきっかけは、世界を揺るがせた、あの出来事でした。

世界各地のマチから人の姿や賑わいが消えた、新型コロナウイルスの感染拡大。

当時シェルパさんは、ネパールの首都カトマンズで飲食店を営んでいました。

しか、外出制限によって店は営業が困難となり、やむなく手放すことになりました。

「コロナ禍のとき、3か月ぐらい店を開けるのが駄目になったとき、暇な時間にオンラインで自分で日本語を勉強して、試験を受けてきました」

「特定技能」と「技能実習」

シェルパさんをはじめ、清峰園の外国人介護士は“特定技能1号”として働いています。

“特定技能制度”は、2019年に始まった在留資格で、日本に滞在するための資格です。

1号は介護など16の分野で、最長5年間、日本で働くことができます。

似た言葉の“技能実習”は、日本で習得した技術を母国に持ち帰る制度です。

一方“特定技能”は、日本の労働力不足を解消し、人手を確保する制度で、中身は、まったくの別物なのです。

介護の担い手不足に貴重な労働力

シェルパさんの長女はいま、ITの勉強のためカナダに留学しています。
19歳の次女は、看護師になるため、ネパールで勉強中。

2人を応援するため、シェルパさんは、母国から遠く離れた名寄のマチで頑張っています。

週に1度、シェルパさんが楽しみにしている家族との時間。
スマホを使ったテレビ電話でやり取りします。

近く、試験があるネパールにいる次女の様子が気になります。

地方にとって、貴重な労働力の“特定技能外国人”。

名寄市も、2023年からシェルパさんのようなネパール人の受け入れを本格化させています。
背景にあるのが、介護の人手不足です。

名寄市では今後、高齢化が進む一方、働き手の労働人口が減少し、介護の担い手が足りなくなると予想しているのです。

名寄市総合政策部の藤井智さんは「彼女たちが介護の仕事をしてくれることで、介護の職場においてネパール人が十分に活躍できると確認できてよかった」と話します。


短期の労働力で終わらないために

“特定技能1号”のシェルパさんが日本にいられるのは、最長5年です。

名寄市民の優しさに触れ、常に感謝の言葉をシェルパさんは口にします。

「いま日本に来て1年半が過ぎたが、誰を見ても優しいし真面目、時間を守る人。住みやすい、もっと住みたい、ずっと住みたいと思います」

もし“特定技能2号”を取ることができれば、在留期間の上限がなくなり、家族も日本に呼び寄せることができます。

しかし、2号の対象分野は、建設や造船などの11分野で、介護は含まれていません。

シェルパさんが“特定技能1号”のまま日本で5年以上働くには、特定技能2号と同等の“介護福祉士”の資格を取得し、“介護”という在留資格をとるしか方法がありません。

これは外国人の合格率が40%にも届かないほど、難しいものです。

「外国人なので、易しい日本語しか分からないし、介護福祉士の勉強は、全然わからない。資格を取る準備をしていないので、それが出来なければ、ネパールへ帰らなければならない。なんでそんなルールを作ったのって思う…」

長く働きたい、良い職場で働きたい、という思いは、日本人も外国人も同じです。

シェルパさんが、日本で働くことができるのは、あと3年あまりです。


なぜ5年の期限があるのか

シェルパさんは、韓国などの国の方が給料が高いけれど、日本の良さを感じて働きに来たのだといいます。

HBC「今日ドキッ!」にも出演する医療キャスターの松本裕子さんは、ネパール人と介護職の関係について「高齢者を敬うという国民性があって、日本の介護に必要な思いやり・寄り添いといった姿勢と一致する」と話します。

介護福祉を研究する大学の先生の話では、外国人のかたが話す、ゆっくりとした優しい日本語は、認知症の患者さんと相性がいいとのことです。

こういった外国人の人材が、少しでも長く日本に居ることができるような制度にできないのでしょうか。

特定技能制度を管轄している、出入国在留管理庁に話を聞きました。

担当者によると、5年という期限を設けていることについては、“スキルアップの期間にしてほしいとのことで、技能実習などのほかの資格も5年となっているため、そのバランスもある”としています。

介護人材は、15年後の2040年には、57万人不足すると言われています。

外国人の介護人材はいま、大都市と地方での引き合いになっています。

しかし、アジア各国も日本同様に今後高齢化に向かっていくことを考えると、将来的には、国レベルで介護人材を取り合うような事態にもなっていくことも十分考えられます。

従来の制度上の制限を残すような対応では、シェルパさんのようにモチベーションがあって、5年間でスキルを備えた人でも母国に帰らなければなりません。

日本が置かれている現状を見据えれば、日本が選ばれる国になるために、何が必要なのかを考えていかなくてはいけない段階にあるといえます。

制度改革は、本気で解決していくべき課題が、まだ数多く残されています。

文:HBC報道部
編集:Sitakke編集部あい

※掲載の内容は「今日ドキッ!」放送時(2025年1月17日)の情報に基づきます。

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