TVアニメ『スナックバス江』リレーインタビュー⑥ 森田役・岩崎諒太
TOPICS2024.01.10 │ 12:00
TVアニメ『スナックバス江』リレーインタビュー⑥
森田役・岩崎諒太
北海道最大の繁華街「すすきの」から5駅離れた「北24条」の小さなスナックを舞台に、人生経験豊富なママ&チーママのコンビとクセの強すぎる客が繰り広げる、恋の予感ゼロの会話劇……。人気ギャグマンガ『スナックバス江(以下、バス江)』のアニメ化で、(ある意味)「最強の客」と呼べそうな森田を演じるのは岩崎諒太。これまで数多く担当してきた爽やかな好青年とは何もかも違う森田への率直な思いを聞いた。
取材・文/前田 久
インタビュー_TOPICSスナックバス江声優岩崎諒太
決まってから「大変な役だったんだ」と気づいた
――まずは原作を知ったきっかけと、読んだ感想を聞かせてください。
岩崎 オーディションのお話をいただいて、初めて原作の存在を知りました。読んだ感想は……男子としてはめちゃめちゃ面白いですよね。集まる人たちが、中学生や高校生の頃の意識のまま歳を取った感じで。中高生男子的な着眼点と、(原作の)フォビドゥン澁川先生ならではのワードセンスの組み合わせがたまらなくて、読んでいると思わずうなずいてしまいます。
――オーディションでは森田役に決め打ちでオファーがきたのでしょうか?
岩崎 そうですね。まず「エセ関西弁」のキャラクターだと聞いて「自分は大阪出身だから本物の関西弁はしゃべれるけど、エセ関西弁はどうなんだろう?」と思ったのをおぼえています。オーディションを受けるにあたって、そういったキャラクター性をまず把握したんですよ。ただ、その時点では世間の評判までは知らなくて(笑)。「受かりました」と聞いてから、さらに作品を深く知っていくうちに「あ、これ、大変な役だったんだな」という意識が芽生えてきた感じですね。
――「世間の評判」というのは……?
岩崎 世の男子の声を代表しているというか。『バス江』という作品が愛される理由の中でも、重要な要素を担っている役なんだなと。ネットの掲示板やSNS上でこの作品が話題になるとき、ネタに上がるのはたいてい森田だったりしますから。もう、はっきり言ってしまうと「クソ童貞」ですからね(笑)。こじらせにこじらせまくった童貞感を包み隠さない。全部ありのままを出す。でも、それでいて妙に筋が通っているところも持っていて、言っていることにうなずけるところもある。
――たしかに。ほぼ主役……とまでは言いすぎかもしれませんが、作品のある側面を象徴するすごい存在です。本当に「クソ童貞」なんですが……。
岩崎 でも、「いい意味で」ですよね。誰もが愛情を込めてそう呼ぶ。純なんだけど、一方で狂気じみているというか。表に出さないだけで誰でも、どこかそういう面は持っているんじゃないかと思うこともあります。絶対に普通の人は口には出さないけど(笑)。だから本当にとても好きなキャラクターですね。
――中でもいちばんの魅力はどこだと思いますか?
岩崎 やっぱり純粋なところです。善でも悪でもないピュアさ。友達にほしい。でも、スナックで会ったときに一緒にしゃべるくらいでいいかな(笑)。タツ兄や山田たちと同じくらいの立ち位置が、いちばんいい距離感の相手だと思います。
昔の自分を見ているような気持ちになる
――アフレコで苦労した点はありましたか?
岩崎 やっぱり、エセ関西弁をどうするかが最大の悩みどころでした。でも、最初のアフレコのときに相談したら「普通の関西弁でいいよ」と監督から言っていただいて。最初はそれでも、なるべく「エセ」に近づけたいなと思ったんですけど……。そもそも「エセ関西弁」と言われていますけど、原作のセリフは文字だけ追うとちゃんとした関西弁なんですよ。
――ああ、森田の関西弁はネイティブの方が読んでも違和感がないんですね。
岩崎 そう。だからセリフそのものは、関西弁として成立しているんですよね。ときどきギャグの流れで、関西弁ではない言い回しの「○○だ」みたいなセリフを言う場面はありますけど、それ以外のセリフは、ほぼ普通の関西弁です。
――感情の追い方などで難しかった部分はありましたか?
岩崎 何を考えているのかわからない、と葛藤したり、困るようなことはとくになかったですね。
――それって……これを森田役の方に聞くのは、若干失礼かなとも思いつつ、役と似ているところがあったから?
岩崎 似ているところ、めちゃくちゃあります。考え方というか、発想のひねくれ方が似ているんですよ。もちろん、森田のように表には出さないですけど(笑)。それからガジェット好きなところですね。男のロマンや夢を語るところは、すごく共感します。僕も中学のときに買いましたもん、十徳ナイフ(笑)。あと、意外と核心を突くんですよね。まわりがなんとなく流しているところを「ホンマはこうなんや!」と指摘する。
――けっこうズバッと言い切りますよね。
岩崎 「モテとるやつは全員悪党や…」とかね(笑)。今はそんなことはないですけど、昔は僕にもそういう気持ちがありました。森田はそれを忘れないまま大人になったんやな〜……と、微笑ましくなります。あと、人見知りなところも共感できますね。初対面の相手にはあまり深いところまで入らないところは自分と一緒だな、と。
――明美や常連たち以外の前だと萎縮しますもんね。
岩崎 そうそう。なじみの相手には上手(うわて)の立場からいくんですよね。でも、関係値が築けていない人とは、最初のやりとりで一度日和ったら、もう気持ち的に負けてしまう。「ウェーイ!」と明るく絡んでいけたら、きっといい感じに仲よくなれると思うんですけどね。きっかけがつかめなくて気持ちをシャットアウトしちゃうと、心の壁が厚くなる。その距離の取り方はすごくよくわかるし、かわいいところだとも思います。まるで自分を見ているような気持ちになる。
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森田と他のキャラクターとの「間」にこだわった
――演じるとき、森田らしさを表現するために心がけていることはありますか?
岩崎 森田が入ると、物語の展開がスピーディーになるというか、ボケとツッコミの往来が加速するんです。その勢いを保ちつつ、セリフ自体はあまり早口にならないようにするところですかね。関西弁でバーっとまくしたてると早口になりがちなんですが、森田はそうはならんやろうな、もっとゆっくり、ゆっくり……と常に気をつけています。
――スナックの会話らしいテンポ感が大事なんですね。
岩崎 あともうひとつ、どこまで森田のキャラクターを濃くしていいのかのバランスも意識していますね。なんだかんだ言っても、森田には愛されてほしいんですよ。だから原作そのままだとけっこうエグい印象になるシーンでは「女性が見てもギリギリ笑ってもらえるかな?」くらいのラインにしたいと思って演じています。それでいて、男子にはちゃんとエグみで笑ってもらえるような「間」を作るというか……。
――「間」ですか?
岩崎 明美や他の人が持っている知識や経験と森田とのギャップで、かすかに生まれる「間」があるんですよ。みんなが常識と思っていることが、森田にとってはそうではなくて、ズレて困惑する雰囲気にリアルな感触を出せないかな、と。リアクションで絶妙なラインを突くことにはこだわりましたね。
間違いなく伝説のアニメになる……いろいろな意味で
――他にも『バス江』のアフレコならではの難しさを感じる点はありますか?
岩崎 他に類を見ない、特殊な現場だと思うんですよね。独特のグルーヴ感というか、収録現場がもう、スナックそのものみたいな雰囲気なんです。ホームのような温かさと、アウェイのような鋭さがありつつ、ちょうどいい「身内感」がある。その絶妙な雰囲気をみんなで表現していくのが、なかなか気持ち的には大変でしたね。でも、やってみると意外とすんなり、全員の芝居がハマったりするんですけど。
――共演者の方のお芝居で、とくにインパクトがあったものは?
岩崎 いやー、皆さん、インパクトありまくりですね。でも、あえて選ぶなら福島潤さんの演じる風間先輩かなあ。キャラクターが強いんですよね。「三顧の礼!」というセリフが現場で大流行しているんですよ。スタジオに入ったら、挨拶代わりにみんなで言っていますから。
――本編そのまま、使い方が間違ったまま根付いて……(笑)。
岩崎 そう(笑)。いやー、他の人もとにかくみんなキャラクターが濃い! バス江ママ役の斉藤貴美子さんも、明美ちゃん役の高橋李依さんも、ホンマにキャラクターにぴったりやな!って。「こんなこと言わせていいの!?」みたいなセリフを高橋さんがバンバンに言っているのを横で見ていると、意識がバグりますよね(笑)。「これ、放送できないんとちゃうかな?」と心配になってくるんですけど、それが皆さんの名演技によって芸術的に昇華されていくというか……限界に挑戦している感じですね。森田のセリフにしても「こいつ、マジ何言うてんねん!!」のオンパレードですから。地上波のアニメで森田以上のキャラクターは現れないと思います。たぶん……いや、間違いなく伝説のアニメになるでしょう。いろいろな意味で(笑)。ぜひ毎回、見逃さないようにしてください。あ、でも、家族と一緒には絶対見ないでください(笑)。ひとりで、もしくは信頼できる仲間と見てくださいね。
岩崎諒太いわさきりょうた 7月1日生まれ。大阪府出身。アトミックモンキー所属。主な出演作に『からくりサーカス』(仲町紀之役)、『ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-』(白膠木簓役)、『め組の大吾 救国のオレンジ』(渡役)、『柚木さんちの四兄弟。』(柚木隼役)など。作品情報
TVアニメ『スナックバス江』
2024年1月12日(金)よりTOKYO MX他にて放送開始!
©フォビドゥン澁川/集英社・「スナックバス江」常連一同