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最低年俸270万円で終わらせない。未来の"なでしこ"のため、WEリーグが進める女子プロサッカー改革

OTEMOTO

2021年に開幕した、女子プロサッカーリーグの「WEリーグ」。女子サッカーにおける国内最高峰リーグとして、競技の普及とクラブの経営改革も推進しています。トップを務めるのは、V・ファーレン長崎の社長などを歴任した髙田春奈チェア。男子サッカーに長年携わってきた経験と、競技経験者ではない視点を生かした女子プロサッカー改革とは。

2024年2月28日、東京・国立競技場で行われたサッカー女子のパリオリンピックアジア最終予選。日本女子代表のなでしこジャパンは対戦相手国の北朝鮮に2対1で勝利し、2大会連続のオリンピック出場を決めました。

海外クラブで活躍し代表に召集された選手がいる一方、国内クラブで活躍している選手たちも全国各地から参加しています。勝利へと導いた2点目のゴールを決めた藤野あおば選手が所属する日テレ・東京ヴェルディベレーザをはじめ、各クラブがリーグ戦で戦っているのが日本女子プロサッカーリーグ(Japan Women's Empowerment Professional Football League)。略称の「WEリーグ」として知られる、2021年に開幕したばかりの女子サッカーにおける国内最高峰のリーグです。

日テレ・東京ヴェルディベレーザの藤野あおば選手(グリーンのユニフォーム)
©WE LEAGUE

管理・運営を行っているのは、公益社団法人日本女子プロサッカーリーグ。日本サッカー協会(JFA)の下位組織として、2020年に設立されました。理事長も2代にわたり女性が務め、Jリーグでは「チェアマン」という呼称が用いられているのに対し、WEリーグでは「チェア」と呼称されています。

2022年に初代チェアの岡島喜久子さんが退任し、現在チェアを務めているのはJリーグ所属クラブのV・ファーレン長崎の代表取締役社長を務めた髙田春奈さん。Jリーグ、JFAの理事なども歴任してきた髙田チェアにお話を聞きました。

非経験者だからこそできること

ーー髙田チェアはサッカー競技経験者ではありませんよね。これまで経営や運営に携わった経験は女子サッカーにどのように生かされていますか?

Jリーグに携わったことで、サッカーが日本だけではなく世界中で愛され、 多くの人の人生を豊かにしているスポーツだということを実感しました。一方で、女子サッカーに携わるようになってから痛感したのは、男子に比べると女子は環境面や注目度で大きな差があるということです。女子サッカー選手にも、いきいきと競技ができるような環境でプレーしてほしい。そして、多くの人たちに注目され、応援してもらえるような世界をつくっていかなければという課題意識が持てたのは、その経験が大きいですね。

また、競技経験者ではない私からすると、現役の選手や活躍していたOB・OGたちは雲の上の存在という印象です。しかし、当人たちは自分のすごさに気づいていない場合が意外と多いことに驚きました。狭き門を突破し選手となったみなさんへのリスペクトを持ちつつ、ファンの気持ちになって女子サッカーを盛り上げる方法を考えることができる。これは、非経験者の視点があるからこそではないかと考えています。

髙田春奈(たかた・はるな)/ 公益社団法人日本女子プロサッカーリーグチェア
長崎県佐世保市生まれ。国際基督教大学卒業後、ソニーに入社。秘書、人事を経て、2005 年独立。主にジャパネットグループにおける人事コンサルティング、広告代理店業(メディアバイイング、クリエイティブ)を経て、2020年Jリーグ V・ファーレン長崎の代表取締役社長に就任。2022年3月にはJリーグ常勤理事となり、同年9月には公益社団法人日本女子プロサッカーリーグ(WEリーグ)のチェア(理事長)に。
©WE LEAGUE

こどもたちの憧れを大切に

ーー日本国内には女子サッカー部がない学校も多く、男子に混じって競技を続けてきたという選手も多くいます。女子サッカーは広まっていくのでしょうか。

サッカーに興味をもってくれる女の子たちを増やすには、憧れられるような女子サッカー選手の存在が不可欠です。日本中が沸いた2011年のなでしこジャパンのFIFAワールドカップ優勝時には、代表の澤穂希選手が大きく注目されました。現在の代表選手など女子プロサッカー選手のなかには、澤さんに憧れてサッカーを始めたという人も多いのです。そうしたスター選手を、一人でも多く生み出したい。女子サッカーの普及のためにWEリーグとしてできることですし、やるべきことだと考えています。

そして、ニュース番組でも試合結果が取り上げられるプロ野球やJリーグのように、WEリーグも身近なプロスポーツにしていきたい。そのためのメディアへのアプローチなど、認知拡大のための地道な活動は継続しています。

また、普段スポーツ観戦をしないような人たちにも、「女子サッカーってかっこいいな」「試合を観に行ってみようかな」と思うきっかけを提供したいと考え、2023年に東京都の渋谷区と連携協定を締結しました。

この取り組みは渋谷区の『渋谷区スポーツ推進計画』に基づくもので、スポーツと関わる機会を創出することで、全ての人がスポーツに関わることができる社会の実現を目的としています。渋谷は世界的にも知名度が高く、各国から多くの人々が訪れる場所のため、国際的な盛り上がりを見せる女子サッカーをアピールする街としても最適なのです。これに伴い、公益社団法人日本女子プロサッカーリーグの本拠地も渋谷に移転させました。

さらに、若者たちが集うMIYASHIYA PARKからもほど近いロケーションには、情報発信拠点の『Home of .WE』もオープンさせました。Home of .WEでは、日本女子代表のなでしこジャパンや、日本や世界のアマチュア女子サッカーに関する情報も発信しています。プロリーグであるWEリーグだけではなく、女子サッカー全体をPRする拠点としても活用していきたいです。

Home of .WEの内観
©WE LEAGUE

あえて明確にした報酬

ーー女子サッカーと男子サッカーでは注目度にも大きな差がありますが、待遇面での格差もメディアなどに度々取り上げられています。

待遇面での格差という無視できない現状を踏まえ、WEリーグでは選手の最低年俸を270万円に設定しています。実は、これはJリーグでは設定されていないものです。

生活していくには難しい金額で契約してしまうなど、経済的な理由でプロ選手を目指すことを諦めないでほしい。生活の最低限のラインを守り、報酬を明確にするのは大切なことだと捉えています。

さらに必要だと考えているのは、選手たちが所属するクラブの経営力強化です。クラブ自体に稼ぐ力がないと、選手たちにも報酬という形で還元されません。クラブのブランディングやチケット販売におけるマーケティング戦略など、WEリーグとクラブが一丸となって経営力の強化に取り組んでいく必要があります。

ーー正式名称の「Japan Women's Empowerment Professional Football League」では女性のエンパワーメント(力、自信を与える)を掲げています。一方で、世界経済フォーラムが2023年に発表した日本のジェンダーギャップ指数は146カ国中125位と過去最低レベルですが、こうした現状はスポーツ界にも影響を与えていると考えますか?

さまざまな企業とコミュニケーションをとるなかで、社内での女性登用の推進など、女性が活躍できる社会の実現のための活動に真剣に向き合っている企業に出会いました。今はそうした姿勢を大切にしている企業とともに、リーグが理想とする「ひとり一人が輝く社会」の実現のための取り組み「WE ACTION」を通し、スポーツ界における男女格差の課題を一緒に解決していきたいと考えています。

しかしながら男性優位社会を感じる瞬間もいまだ多くあり、特に女子スポーツに対する支援は集まりづらいという現実もあります。ジェンダーギャップ指数低下の要因となるようなことが、スポーツ界にも影響していることを感じるシーンは多いですね。

髙田春奈チェア
Hirohiko Namba / OTEMOTO

男性優位社会への挑戦

ーー男性優位社会を感じる瞬間があるとのことですが、それゆえにどのようなことがハードルになっていますか?

いま実感しているのは、男性社会であるサッカー界での意思決定の難しさです。

女子サッカーの魅力について考えたとき、同性の私たちが感じる魅力と、男性が感じる魅力は多少違うと思っています。もちろん男女で共通する部分もたくさんあるのですが、国外に目を向けると女子サッカーは若い女性ファンが多く、そのパワーもあいまって少しずつ発展してきている側面があります。

ですが日本の場合、サッカーはまだまだ男性が楽しむスポーツというイメージ。女子サッカーを発展させるため若い女性向けの施策をしようとしても、それを決定する組織が男性優位社会ではどうしても男性目線になってしまいます。あるいは、女性目線で考えたことに対してもなかなか理解が得られないなど、特に意思決定の場に男性が多いスポーツ界では簡単なことではありません。

©WE LEAGUE

女子選手ならではの知識や事例の発信

ーーさらに男女の違いについて目を向けると、生理や妊娠・出産など身体的な違いがありますよね。

体のコンディションやメンタルヘルスにも影響を与えることがあり、体が資本のスポーツ選手にとっては死活問題にもなり得ることです。特にサッカーのような激しく体を使うスポーツの場合、例えば妊娠中にプレーを継続するといったことは現実的ではないと思います。

そうすると、「妊娠で休んだら契約を切られてしまうんじゃないか」という恐怖で踏み切ることができなかったり、結婚や出産をしたいから若いうちに引退してしまうというケースもあり得ます。固定観念や認識不足から、競技人生や結婚、妊娠・出産を諦めてほしくはないので、女子選手のライフイベントに関する知識や事例を蓄積し、発信していくことが急務です。

出産経験のある選手はWEリーグのチームのうち日テレ・東京ヴェルディベレーザの岩清水梓選手だけですが、岩清水選手は元なでしこジャパンで知名度も高いので、彼女の経験やライフスタイルを動画にして発信しています。また、選手だけではなく、コーチやスタッフたちが産休・育休を取得しても戻りやすい制度をつくり、クラブに対する協力要請も行っています。いまは最低限のことしかできていない状況ではありますが、今後さらに力を入れていきたいポイントですね。

ーー選手以外のスタッフの女性比率はどのようになっていますか?

WEリーグを管理・運営する公益社団法人日本女子プロサッカーリーグはスタッフの半数以上が女性で、理事会も男女半々で構成されています。クラブのWEリーグ参入基準にも「クラブの運営にあたる法人を構成する役職員の50%以上を女性とする(入会から3年以内に達成すること)」と定めているのですが、目標の実現はまだ難しいというのが現状です。

どの企業も苦心されてると思いますが、ある程度の思い切りがなければ女性登用は難しい。私自身もサッカークラブの女性社長としては史上2人目でしたし、現在のJリーグにいたっては全60クラブのうち女性社長は一人もいません。そもそも、女性の人材が業界内にいないという問題もあり、まだ苦戦している部分ではあります。

日テレ・東京ヴェルディベレーザの岩清水梓選手
©WE LEAGUE

ーー女子スポーツ、そして社会全体を改革するためにどのような取り組みを推進していきたいと考えていますか?

実現には時間がかかると思いますが、理想は社会全体がもっと男女の役割に対する偏見をなくしていくことです。例えば、女子プロ選手を生活面で支える配偶者やパートナーが増えるなど、キャリアを選択する際のジェンダーバイアスがなくなっていけば、女子サッカー、ひいては女子スポーツに対する社会のハードルも低くなっていく。

出産や育児についても同じです。そうしたジェンダーバイアスが、「プロスポーツ選手になったら結婚や出産が遠のく」「結婚や出産をしてしまったら周りに迷惑をかける」と選手に思わせてしまっているかもしれない。

そもそも、選択肢として考えられていないということ自体が好ましくないわけですから、WEリーグでの取り組みが他の女子スポーツなどにも影響を与えエンパワーメントしていくことで、そうした考え方が徐々に変わっていってほしいですね。

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