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わーすた三品、神宿小山、ネオジャポ福田 ボカロネイティブ世代アイドルの“歌ってみた” |「偶像音楽 斯斯然然」第76回

Pop’n’Roll

わーすた三品、神宿小山、ネオジャポ福田 ボカロネイティブ世代アイドルの“歌ってみた” |「偶像音楽 斯斯然然」第76回

ボカロシーンとは切っても切れない「歌ってみた」動画。今回は、“ボカロネイティブ世代”と言える現役アイドルの中で、ボカロ曲の「歌ってみた」動画を公開し、高いボーカルスキルを見せている3名をピックアップ。彼女たちのボーカルスタイルと実力の高さを分析していく。

『偶像音楽 斯斯然然』
これはロックバンドの制作&マネジメントを長年経験してきた人間が、ロック視点でアイドルの音楽を好き勝手に語る、ロック好きによるロック好きのためのアイドル深読みコラム連載である(隔週土曜日更新)。

ボカロシーン発、2021年の音楽シーンの革命児にもなったAdoのアルバム『狂言』がリリース。言わずと知れた大ヒット曲「うっせぇわ」をはじめ、ストリーミング再生1億回超えの「ギラギラ」「踊」という強度の高い楽曲が並ぶ。囁きから絶叫、野太い低音から突き抜ける高音まで、巧みなボーカル力を堪能できる。ネット上で活躍する歌い手が、フィジカルなCDリリースをする?……まるで、ボカロの先駆者、supercellが2009年にメジャーデビューした時と同じようなことを思ってしまった2022年。10年以上経っても、CDリリースの強さと説得力を改めて感じる。

【Ado】1st Album『狂言』クロスフェード

特に「うっせぇわ」は、その楽曲と歌唱のインパクトはもちろんのこと、“歌ってみた”文化によってジャンルを超えた社会現象を巻き起こした。コロナによって大きなダメージを受けたエンタテインメント界において、インターネット上のコンテンツが重要視されるようになったことは、今さら言うまでもないだろう。中でも“歌ってみた”を筆頭としたカヴァー動画はアイドルシーンにおいて、通常の活動では観ることのない新たな側面を見られる、見せられるものとして需要と供給の高い人気コンテンツとして確立されている。「うっせぇわ」をカヴァーしているアイドルがどれほどいることか。

うっせぇわ / Ado Covered by 野口衣織

当コラムで幾度となく紹介してきた=LOVEの野口衣織も、歌ってみたでその実力を広く知らしめた。かくゆう私が彼女の“歌ってみた”で、彼女のその正確に精確で丁寧な歌唱力を知った。テクニック的な部分はもちろんのこと、楽曲理解度と原曲へのリスペクトを込めた「うっせえわ」は絶品である。

そして、思わぬところからのAdoカヴァーが後藤真希。LiSA「炎」カヴァーで注目を浴びた彼女だが、Ado「ギラギラ」でその歌唱力をより広く知らしめた。

Ado『ギラギラ』/ 後藤真希が歌ってみた

国民的なアイドルとして一世を風靡し多くの人が知る彼女だが、“こんな歌唱力があったとは……!?”という驚愕と絶賛のコメントがずらり。勢いで押し切ることのできないテンポ感をじっくり腰を据えて歌う貫禄にやられてしまう。

デジタルネイティブなボカロ世代

Adoを生んだボカロシーンは、現在のポップスのトレンドとは別機軸にいると言っていいだろう。海外で流行しているトラップやチルアウトとは異なる音楽性。それは肉声ではないために、メロディ感の少ないものは向かない、というところも大きいだろう。以前、10代にクレイジーキャッツの「スーダラ節」を聴かせたら“ボカロ曲っぽい”と言われた話を取り上げたが、ボカロ映えする音の起伏を考えると、高低差の大きいものや、躍動感のあるキャッチーなメロディに行き着き、古典的であり普遍的な歌謡曲に近づく傾向もある。

みきとPは日本古来のキャッチー性の使い方が見事 ロキ/鏡音リン・みきとP

現在活躍するアイドルの多くはデジタルネイティブ世代であり、同時にボカロネイティブ世代でもある。子どもの頃からボカロが存在し、音楽に触れるきっかけの1つがボカロであるという世代だ。ボカロは動画サイトがメインとなっており、音と同時にイラストレーション&ムービーという視覚効果が入ってくる。すなわち、今の世代はボカロ楽曲を通常のポップスのように“聴く音楽”としてではなく、“視て聴くコンテンツ”として自然に捉えられている。それは歌や楽曲のみならず、ビジュアルや見せ方を含めた総合芸術としてのアイドルに通ずるところもあるように思う。

であるから、普段のアイドル活動とは別にボカロ曲の“歌ってみた”を表現方法の1つとして、器用に使い分けていくアイドルもいる。そこで、ここからはグループ活動以外でボカロ曲の“歌ってみた”をアップしている、今注目したい実力派3人をピックアップ。3人ともにボカロシーンの大人気曲、ツミキ「フォニイ」をカヴァーしている。刹那的なメロと奇抜なフックのあるメロが交錯していく、ボカロらしい複雑な音使いとキャッチー性が共存する、歌いごたえも聴きごたえもある曲だ。3人のそれぞれの楽曲解釈と得意とするボーカルスタイルの違いがよくわかるはず。

わーすた 三品瑠香 細部まで行き届いた丁寧さ

わーすたの三品瑠香は、アコースティックギターの弾き語りをSNSや自身のYouTubeチャンネルにアップしていたが、ついにボカロ曲をアップ。

フォニイツミキ/三品瑠香 (Cover)

ロックスピリッツ溢れる力強いボーカルながら、器用さをも兼ね備えているのが彼女のスタイル。今回はどちらかといえば、器用さにフォーカスした選曲、“好きが過ぎるので歌ってみました、、、”との本人コメントにあるように、ツミキ「フォニイ」は“待ってました!”と膝を打ったのは私だけではあるまい。

わーすたでは、思い切り張った声が印象的な彼女だが、どこか斜に構え吐き捨てるように歌うニヒルさも魅力的。「フォニイ」では、平歌でそうしたつかみどころのなさを見せておいて、猫撫で声でフックをキメる。音符の激しい動き、高音域のファルセットの切り替え、キリッとキメるところと抜きの絶妙な使い分けなど、スキルの高さと細部まで行き届いた丁寧さが垣間見える歌唱。“イラスト・松田美里”というメンバーコラボもファンには嬉しいところ。弾き語りも絶品な彼女の“歌ってみた”に今後も注目である。

神宿 小山ひな 言葉よりも先に音程が前に出てくる鋭い感覚

神宿といえば、脱退した一ノ瀬みかの海外ディーヴァっぷりと、透明感ある塩見きらの歌声に隠れがちなところもあるのだが、実力と安定感はグループ随一を誇る、小山ひな。

小山ひなーフォニイ

彼女の歌を聴いて感じるのは圧倒的な音感のよさ。言葉よりも先に音程が前に出てくるような鋭い感覚を持っている。加えて、楽曲やフレーズに対して声の持っていく術がわかっている。テクニックはもちろんだが、勘が経験によって研ぎ澄まされたように思える。

小山ひな ー グッバイ宣言 COVER

ボカロ曲は音符の動き方が激しいために動体的な音感が問われるところだが、そこに俊敏に対応できる鋭さを備えている。しかしながらエッジィな耳あたりではなく、どこか少女的な柔らかさを感じられるのは彼女の最大の魅力でもあるだろう……などと、思っていると時折、豹変して冷たい微笑の様な声色になったりするのだから、ますます惹き込まれていってしまうのである。

NEO JAPONISM 福田みゆ クセすらもスッと入る蠱惑的な声

ボカロの歌い手としての力の入れ具合いに本気度を感じるのは、“みゅるん”名義で歌い手として活動するNEO JAPONISMの福田みゆだ。

フォニイ phony / みゅるん (Cover)

ライブアイドル最強の“がなり、しゃくり、こぶし”というアクの強さで、他の追随を許さない彼女の歌だが、グループでは味わえぬボーカルの魅力を堪能できる。もともとハイトーンには定評があるのだが、中低音の太く響く蠱惑的な声色も絶品。艶やかな色香の前には跪くしかない。

シャンティSHANTI / みゅるん (Cover)

福田のボーカルの特徴は、ピッチの正確さに加えて音符に忠実なところ。音符の長さ、特に語尾の処理がウマく言葉尻の丸め方が綺麗なので、次のアタマの入り方も気持ちよくキマる。譜面に沿った優等生的な歌い方を極めた上で、自分なりの崩し方と個性を加えていったスタイルのため、クセはあっても押し付けがましさはなく、スッと耳に入ってくる不思議なスタイルだ。逆に独特のこぶしの効かせ方と絶妙なタメが心地よいグルーヴになっており、歌のウマさ、歌唱力の高さももちろんあるのだが、そこより先にとにかく“カッコよさ”を感じるボーカルだ。

ロウワー / みゅるん x 榎本りょう (Cover)

そして先日アップされた動画では、榎本りょう(ex.WILL-O’)とのコラボが実現。榎本のハスキーハンサムボイスと福田のグルーヴが絡む、アイドルシーンきってのクールボーカルの共演は必聴である。

こうして“歌ってみた”は広く親しまれているわけだが、著作権が隣り合わせにあることは知っておくべきだろう。最近“歌ってみた”の著作権に関する気になる事案があったので、最後に触れておきたい。

「歌ってみた」著作権問題を考える

先日、清 竜人が自身の楽曲をカヴァーしたVTuberに対し、注意喚起を促したことが話題になった。特に著作権侵害であるとか、問題に発展することではないのだが、動画サイトやSNSの普及によって曖昧になりつつある権利関係をちゃんと知ってほしいという、著作者からのお願いであったと個人的には解釈している。

ボカロの場合、歌い手がカヴァーすることによって楽曲が広く知れ渡る、評価されるという文化が定着しているため、作曲者自らオフボーカル音源を配布していることも多い。しかし、いわゆる普通のアーティストやシンガーの楽曲をカヴァーする場合はそう簡単にはいかない。

まずは原盤権の問題。原盤とはリリースされている音源自体の歌や音を含めたものであり、リリースされている音源を無断でインターネット上にアップすることはできない。CDなどに収録されているカラオケ音源も同様である。

YouTubeは、社団法人音楽著作権協会(JASRAC)やNexToneといった音楽著作権管理団体と包括利用許諾契約を締結している。簡単に言えば、著作権管理団体が管理する楽曲であれば、演奏してYouTubeで公開することが可能である。つまりは、自作のオケであれば「歌ってみた」をアップすること自体は問題ない……はずなのだが……?

今回話題となったのは“同一性保持権”。これは著作権の一部である著作人格権の中の1つで、“無断で著作物を改変されて誤解を受けない権利”である。簡潔に言うと“マイナスイメージになるような改変(編曲)はやめてくれ!”と著作者が言えるということ。極端な例を挙げれば、勝手に歌詞を変えられたり、勝手にメロディを付け加えられたりしたら、作った本人としてはたまったもんじゃない。そういった改変から守るのがこの“同一性保持権”なのである。少々ややこしいのは、著作権は管理団体が管理しているのだが、この同一性保持権は著作権者にある。

著作権侵害は基本的に親告罪。例えば、バラード曲を第三者がアップテンポにリアレンジしてカヴァーしたとする。バラード曲の著作者は、このリアレンジを“楽曲イメージに反する”と思った。ここで、同一性保持権を行使することができるわけだが、実際はそこまでしないことが多いだろう。大抵の場合、リスペクトを持ってカヴァーすればほぼ問題はないはず。ただ、訴えることができるのは事実であるし、実際それで問題になったケースも稀にある。人の曲をカヴァーするということは、そういうことが起きる可能性がある。だから、念のため著作者の許諾を得てからカヴァーしたほうがいいよね、というのが今回の件なのである。

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