「SDGs未来都市」を後押し 相模原市と連携する企業の取り組み
「SDGs未来都市」に認定されている相模原市
リニア中央新幹線開通に向けて工事を行っている橋本駅周辺
神奈川県の北部に位置し、都心から約1時間の場所にありながら、湖や丹沢の山並みなど、豊かな自然を有する相模原市。人口70万人を超える、政令指定都市だ。
リニア中央新幹線・神奈川駅(仮称)の設置が予定され、“降りたくなる、訪れたくなるまち”となるよう、さまざまな取り組みが進められているが、SDGs達成に向けても積極的に取り組み、注目を集めている。
2020年には、内閣府から「SDGs未来都市」に認定されており、同年9月には、政令指定都市で初となる「さがみはら気候非常事態宣言」を表明。さらにSDGsを推進するための体制の整備や、環境施策への取り組みなどが評価され、日本経済新聞社が2022年に実施した「全国市区第3回SDGs先進度調査」では、対象の全国区815市区中、5位にランクインした。
相模原市がSDGs先進都市として評価されているのには、行政とともにSDGs達成や普及・啓発に取り組む企業や団体、施設の存在がある。今回は実際に見学・取材させてもらった、相模原市のSDGs達成に貢献する企業や施設、団体を紹介していく。
2つのリサイクルで循環型社会に寄与する「南清掃工場」
南清掃工場の見学エリアから見える周辺の景色。緑が豊かでごみ処理場にいることを忘れてしまう
私たちが毎日排出しているごみが、どのように処理されているか知っているだろうか。自治体によってごみ処理施設は異なるが、ほかの生態系や気候変動に大きな影響を与えてしまうため、ごみを適切に処理することは、地球環境を守るためにとても重要だ。
相模原市のごみは、「南清掃工場」と「北清掃工場」で処理している。およそ6割のごみを処理しているのが、南清掃工場だ。周囲には、大きな公園などの自然や、大学、温室、温水プールなどの文化施設があり、遠く丹沢の山並みを望むことができる自然豊かな場所に位置する施設である。
南清掃工場では、循環型社会の構築や環境に配慮した設備の導入により、SDGs17の目標達成に取り組んでいる。なかでも特徴的な取り組みが、ごみ処理において行われている2つのリサイクルだ。
中央制御室のモニターには、ごみが処理されていく様子が映し出されている
1つは、ごみの処理過程で発生する熱エネルギーを使って発電したり余熱を活用したりする「サーマルリサイクル」だ。施設内の電力をまかなうとともに、余った分は電力会社に送電。さらに余熱を利用して清掃工場内の冷暖房や給湯に利用するほか、隣接する温水プールや温室に送り活用している。
もう1つは、ごみに含まれる鉄、アルミを資源として回収するとともに、ごみを溶融してスラグ(家庭ごみ等の一般廃棄物や下水道汚泥の焼却灰等を1200℃以上の高温で溶融したあと、冷却、固化したもの)にして、道路用資材として再利用を図る「マテリアルリサイクル」だ。マテリアルリサイクルを行うことで、最終処分場に埋め立てるごみを減らすことができ、限りある最終処分場の延命に寄与している。また、同じく相模原市内のごみを処理している北清掃工場の焼却灰も南清掃工場に運んでスラグにしている。
さらに、高度な排ガス処理設備を設けており、ダイオキシン類をはじめとする有害物質の排出を抑制し、公害防止にも努めている。
南清掃工場は、紹介したように循環型社会に寄与するための仕組みをもった施設だが、現在使用している最終処分場が、このままのペースで埋め立てていくと令和19年にはいっぱいになってしまうという課題を抱えている。そのため南清掃工場では、スラグをさらに有効活用して埋め立てる量を減らすことができないか、または技術的にこの問題を解決できないか探っているそうだ。
新たな技術の開発にも期待が高まるが、ごみそのものを減らす・なくすことの重要性も忘れてはいけない。南清掃工場では、見学に訪れた人々に展示パネルを活用して、ごみを出さないライフスタイルへの転換を呼びかけている。
“もったいない”だけではない! 社会課題・食品ロスに新たな価値を
日本フードエコロジーセンターでは、毎日大量に排出される食品廃棄物を受け入れ、それを原料に独自の発酵処理技術でリキッド発酵飼料(家畜用飼料)を製造している。原料としているのは、一般家庭で排出されるものではなく、スーパーマーケットやコンビニのような食品関連事業者から出る食品廃棄物だ。
食品工場等から回収し運ばれてきた原料を、手作業で厳重に異物除去し、破砕しておかゆ状に。その後、殺菌処理を行い、冷却・発酵を経てリキッド飼料にして、タンクローリーで契約養豚農家へ出荷している。受け入れた原料は、できるだけフレッシュで栄養価の高い状態で届けるため、その日のうちに加工し、翌日には出荷しているそうだ。
立ち上げ背景にはごみ処理問題と畜産経営の課題が
日本フードエコロジーセンター代表の髙橋巧一氏
「食品ロスは、“もったいない”だけではない、社会課題」と話す、代表の髙橋氏。たとえば、ごみ処理の問題。現在、全国の自治体のごみ処理費は年間約2兆円。焼却炉で燃やされているもののうち、約40%が食品廃棄物だといわれている。つまり、年間で8000億〜1兆円近くの税金が食品を焼却するために費やされているという計算になる。これを踏まえて髙橋氏は「市民は、大事な税金を食品関連事業者の食品廃棄物を燃やすのに使われていることを理解し、自分事として捉える必要がある」と話す。
また、畜産経営の課題も深刻だ。家畜飼料は約75%を輸入に依存しており、輸入先国の影響を大きく受けてしまう。畜産経営にかかるコストの半分以上がエサ代といわれているなか、飼料の高騰は畜産農家にとって大打撃だ。こうした背景もあり、現在日本の畜産はどんどん減少しており、日本の食品自給率低下にもつながってしまうという悪循環が生まれている。
これらの問題を「なんとかしたい!」と、髙橋氏が立ち上げたのが、日本フードエコロジーセンターだ。
食の循環を通じて新たなビジネスモデルを構築
日本フードエコロジーセンターの事業では、廃棄される食品を利用することで、焼却に必要な化石燃料を減らして発生するCO2を削減することができる上、食品関連事業者が廃棄物処理にかかるコストも抑えることができる。さらに、安心・安全な飼料を安価で養豚農家に提供できるため、人にも環境にも嬉しい循環が実現している。
また、日本フードエコロジーセンターは、食品廃棄物を受け入れて加工し、飼料化しているため、原料の仕入れを行っていない。双方からの収入があるため、継続性が高い雇用を確保することができているのだ。
食品循環資源の有効活用によって環境負荷を減らしながら経済を回し、複数の課題を同時に解決することができるという、新たなビジネスモデルを構築している。
さがみはらSDGsパートナーである「火焔山餃子房」の優とんを使った餃子
さらに、契約養豚農家と協力し、リキッド発酵飼料を食べて育った豚肉をブランド豚「優とん」として付加価値をつけ、食品関連事業者で販売。小田急百貨店のお中元やお歳暮にラインアップしているほか、相模原市内の飲食店でも「優とん(ゆうとん)」を使ったメニューを味わうことができる。
こうしてサーキュラーエコノミーを構築している日本フードエコロジーセンターは、その事業内容が評価され、2018年に第2回「ジャパンSDGsアワード」で最優秀賞(内閣総理大臣賞)を受賞している。
国内初のカスケード利用型リサイクル施設「さがみはらバイオガスパワー」
食品循環資源をタンクでメタン発酵させ、発生したガスにより発電を行っている
日本フードエコロジーセンターに隣接しているのが、同じく髙橋氏が代表を務める「さがみはらバイオガスパワー」だ。さがみはらバイオガスパワーでは、液状にした食品循環資源をメタン発酵させ、発生したガスを発電機に注入し、ガス発電を行っている。日量50トンの液状の食品循環資源を原料として、出力528kW(一般家庭の約1000戸分に相当)のガス発電を行い、再生可能エネルギーの固定価格買取制度を利用して売電事業を行っているのだ。
発電機横にはEVの充電ステーションが設置されており、災害発生時には、地域住民が利用できるよう、相模原市と協定を締結している。そのほか、停電時でもガス発電を利用して、井戸水を汲み上げることができる。
ガス発電の原料には、日本フードエコロジーセンターで飼料化が難しいと判断された原料(脂っこいものや、塩分が高いもの)を使用。さらに発酵後に出るカスは、廃熱で乾燥させて肥料にしている。フードエコロジーセンターとバイオガスパワーが連携することで、食品循環資源の「飼料化」「エネルギー化」「肥料化」を実現。食品循環資のカスケード利用に挑戦している。
“地域共生型”を実現。ソーラーシェアリングを備える「さがみこベリーガーデン」
相模原市の青野原地区には、農産物と自然エネルギーを同時に生産する「ソーラーシェアリング」を相模原で初めて実現した、「さがみこベリーガーデン」がある。この地区は、首都圏にいることを忘れるような豊かな自然が特徴である一方で、過疎化や高齢化が進み、耕作放棄地が年々増えていることが問題となっている。「さがみこファーム」では、耕作者がいなくなった遊休農地を利用してソーラーシェアリングに取り組み、36種類1100本のブルーベリーの摘み取りが楽しめる体験型農園さがみこベリーガーデンを2023年6月に本格オープンした(会員制・完全予約制)。
代表の山川氏は、それまで太陽光事業を10年ほど行っていたそうだが、自然や地域と調和的に再エネを広げていけるソーラーシェアリングの存在を知り、農業にも挑戦。
太陽光の事業は、景観を損ねることや反射光の問題などから、地域との関わりがうまくいかないケースも多いそう。しかし、さがみこベリーガーデンでは“地域共生型”を心がけ、地域コミュニティの災害時の非常電源として提供協定を結んだり、地域の小中学校で授業の長期協力したりするなどして、地域とのさまざまな連携をしている。
ブルーベリーの摘み取り体験はシーズンである6月〜8月だけだが、農園で採れたブルーベリーを使用したスムージーづくり体験はオフシーズンでも楽しむことができる。さらに、ファーム内では養蜂を行っているほか、新しくワイン用のブドウの栽培にも挑戦中。どのシーズンでも、訪れた人が自然のことや農業のこと、エネルギーのことを楽しみながら学べる設計になっている施設だ。
見学や体験を通じて、SDGsを自分事として捉えるきっかけに
東京23区の半分以上もの広さを持つ相模原市は、発展を続ける都市部と雄大な自然を有する山間部など、エリアによって違った魅力を持っている。今回取材させていただき、それぞれの地域性にフィットしたSDGs目標達成への取り組みを企業や団体がおこなっているところが印象的だった。
相模原市には、本記事で紹介した施設以外にもSDGs未来都市としての相模原市を後押しする企業や団体がたくさんあり、SDGsへの取り組みを、見学や体験を通じて学べる施設が充実している。知識としてインプットするだけでなく、実際に見学や体験を通して学ぶことで、市民をはじめとする訪れた人々のSDGsへの認知度が上がっていくとともに、SDGsを自分事として捉えるきっかけになっているのだろう。
画像提供/相模原市 取材・執筆/永原彩代 編集/後藤未央(ELEMINIST編集部)