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小川絵梨子×倉持裕『イロアセル』×西沢栄治『あーぶくたった、にいたった』 新国立劇場が取り組む「フルオーディション」と「こつこつプロジェクト」とは

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西沢栄治、小川絵梨子、倉持裕(左から)

新国立劇場のフルオーディション企画第4弾『イロアセル』(作・演出:倉持裕)が2021年11月11日(木)、作品創造プロジェクト「こつこつプロジェクト」の第一期作品『あーぶくたった、にいたった』(作・別役実、演出:西沢栄治)が12月7日(火)から開幕する。
 
同劇場の演劇芸術監督を務める小川絵梨子が、2018年の就任とともに打ち出した三本柱の一つである「演劇システムの実験と開拓」。その中で温めてきたのが、この「フルオーディション企画」と「こつこつプロジェクト」だった。開幕を前にした9月13日、同劇場で取材会があり、小川絵梨子のほか、倉持裕西沢栄治が参加して、プロジェクトについての進捗と思いを報告した。

オーディションは作品に向かった出会いを持てる場

ーー改めて、フルオーディション企画とこつこつプロジェクトに込めた思いを教えてください。
 
小川:これらの企画自体が、私が芸術監督を引き受けた理由のひとつでして、演劇の作り方の実験や開拓をぜひやってみたくて、このお仕事を引き受けさせていただきました。なのでフルオーディションと、こつこつプロジェクトをこうやって続けてこれて、みなさんに作品を届けられることは幸せに、ありがたく感じております。
 
まず、フルオーディションのことをお伝えします。オーディションは演劇の世界でもいくつかありますが、事務所に入っていない役者さんに情報が行きにくかったり、全てのキャストをオーディションで選ぶことが、現実問題難しいところがたくさんあります。その中で、事務所に所属しているか否かに関係なく、どんな方でもオーディションを受けられるような企画を始めました。
 
これは、私がアメリカにずっといたことが影響しています。オーディションが日常茶飯事にあって、舞台でも、映画でも、ドラマでも、CMでも、役者は常にいろんなオーディションを受けているんです。オーディションはとてもシンプルで、ある意味とても健康的なものの作り方・考え方だなと考えていました。やりたいと思ってくださった方が受けてくださり、作り手の方は作品に似合った方と作品を作ることができる。シンプルに作品に向かった出会いを持てる場なので、是非これをやってみたいと思って始めたものです。

小川絵梨子

小川:試行錯誤でやってきているのですが、実際稽古が始まると、非常に稽古場がフラットで、気遅れとか遠慮とかではなくて、同じ境遇で稽古場に参加してくださっているので、風通しのいい空気が流れている。いいチーム感がすぐ立ち上がる。ある種贅沢なんですが、豊かで、そして、フラットで、その分、創造性の高い現場が作れるのだなと体感しています。
 
今年はコロナ禍の影響で、フルオーディション企画が1年間で3本続くことになりました。1年のうちにフルオーディション企画を3つお届けできるのは、劇場として学ぶこともありました。1回目は鈴木裕美さん、2回目は千葉哲也さん、3回目は上村聡史さん、そして、この度倉持裕さんにお願いしています。この先も毎年、少なくとも1年に1本、もう少し増やしていきたいなとは思っています。フルがちょっと難しいということがあっても、オーディションを増やせていけたらいなと。
 
劇場としてもいい役者さん達と出会わせていただけるので、本当に大きな財産になります。メリットはとてもたくさんありますが、もちろん改善すべき点もあります。書類選考の難しさや、オーディションの期間などです。その辺りは試行錯誤して、ケースバイケースで探っていきたいと思っています。フルオーディション企画ができることは、とても嬉しいですし、幸せな気持ちです。

こつこつと作品の強度や豊かさを深めていく

「こつこつプロジェクト」第一期作品『あーぶくたった、にいたった』

小川:そして、こつこつプロジェクト。こちらも、どうしてもやりたくて、やりたくて始めた企画です。最初は、新国立劇場のみなさんにも意味がわからない状態からのスタートでした。時間をかけてつくるというのも、自分のバックグラウンドから来ているものです。
プロデュース公演の場合、ひとつの作品を1ヶ月という時間の制約があります。私の演出家としての実力だと、1ヶ月でまとめきるのが、どうしても難しかった。なんとか初日を迎えるためだけの意識になっているんじゃないかと、もやもやしていました。初日のためだけではなくて、いい作品を作り上げることを目的として、それを上演する/しないではなくて、作品を練り上げていくという場がなんとかできないかなと。
時間と空間、お金もかかってきますので、やるとしたら、公共の劇場で挑戦的にやらせていただけないかなと、芸術監督になる時に考えていました。なんとか、みなさんのご協力のもと、こうやって実現することができました。アメリカでもそうでしたし、イギリスのナショナルシアターでも、ディベロップメントだけの部署や建物があって、私たちからすると、羨ましくて、素敵だなと思っていました。

小川絵梨子

小川:作品を練り上げるためだけの場所と空間、参加してくださった方への敬意を払える分だけのものを支払う部署と建物があって。矢継ぎ早にどんどんつくっていく良さはもちろんあると思うのですが、作り手によっては、じっくり時が来た時に舞台にあげるようなシステムができないかなと思いました。
 
ナショナルシアターで話を聞いた時には、コロナの前でしたが、常時200ぐらいプロジェクトが動いていて、その中からこれだと思ったものをシーズンに上げていく、と。口頭で作家と演出家が話しているものもあるし、3年間ワークショップを続けているものもあるし、それはさまざま。決して365日ずっとその作品を作っているわけではなくて、何度も何度も期間を空けても、その作品をもう一回訪ねる経験を積み重ねて、作品の強度や豊かさを深めていく作業をしていました。
 
とてもとても贅沢なんですが、作り手の自分としては、そこから学ぶこと、知ること、作品への理解度が圧倒的に変わってきますし、チームを作るとはどういうことなのかとか、いろいろなことを経験することができるなと思いました。
  
そして、西沢さん含め、3つ作品をスタートさせました。1年間かけてという中で、我々劇場として足りなかった部分も含めて、やり方を学びながら進めています。昨年、こつこつプロジェクトの3作品を発表する場を設けたのですが、それがコロナ禍で叶わず、涙が出るほど悔しかったのですが、こうして西沢さんの作品をお届けすることができたことは嬉しく思います。

『あーぶくたった、にいたった』(2020年3月3rd試演会より)

小川:1年間作品に向き合うと100%いい作品ができるかというと、そうではなくて、もっともっと長い目が必要な大きなプロジェクトでして。もちろん作品に直結することを目指していますが、時間をかけて作ることはどういうことなのかを、自分たちが劇場として学んでいきたいというのが大きなことでもあります。
 
表に出るか出ないかわからないものに投資としてのお金を払うことは難しいことなんだなと思いながらも、とてもとても大事なことだと思っていて。いっぱい挑戦して、回り道して、楽しいと思っていただけるような場を劇場として、提供しつづけていきたいなと思っています。できれば私の次の芸術監督にもお願いしますとも思っているんですが。こうやって西沢さんの作品をお伝えすることができて、嬉しいです。
 
西沢さんの作品も、毎回毎回変わっていく様がすごいなと思いました。こうやって作品って、豊かに大きくなっていくんだなと目の当たりにして。私としても嬉しいです。
 
すぐの成果のために動いているわけではなくて、50年かけてゆっくり変わっていく、ゆっくり豊かなやり方がさらに増えていく。今のやり方を否定しているわけではなくて、こういうやり方をひとつ根付かせるためにはどうしたらいいかと模索しているところです。そのためにはすごく時間がかかると思う。ちょっとずつその良さを証明して、改善しつつ、失敗しつつ、世代を超えて、積み重ねてこのプロジェクトが続いていってほしいと思います。

倉持裕「想定外のことがたくさん起きて楽しい」

倉持裕

ーーフルオーディション企画の『イロアセル』を演出される倉持さんはいかがでしょうか。
 
倉持:フルキャストオーディションは随分前から興味がありました。どうしても商業的な芝居は、知名度や集客力を優先にキャスティングしていくことが当たり前になってきて。それはもちろん興行的に成功させなきゃいけないので、大事だとは思うのですが、どうしてもその方法だけに偏ってくると、そのときに旬の俳優を選ぶわけだから、結果似たようなキャスティングになっていく。
 
こればかりはつまらないなと思って。僕がいいなと思う役者を推薦しても、「ちょっと知名度が……」などと却下されることが多くて。なんとかねじ込んでも、僕が望んでいたような役ではないとかありまして。だから、全員オーディションで選びたいなと思っていた矢先に、新国立劇場がフルオーディション企画を始めてくださいました。
僕は『かもめ』(鈴木裕美演出)を観に行って、やっぱりおもしろくて。あまり「いよ、待ってました!」みたいな雰囲気にならないのがいいですよね(笑)。もちろん有名な役者も出ていましたけど、役を役者に寄せていくのではなくて、役者が役に寄っていく作り方がいいなと思っていたら、そのオファーをめでたく受けまして、本当に嬉しかったです。
 
やってみたら、大変でしたけどね。役を皆さん死ぬ気でとりに来ているので、その人間のエネルギーはすごいので、本当に苦労はしました。けど、面白かったですね。普段は演出家とプロデューサーという1人、2人の頭で決めたことなんだけど、オーディションとなると、役者の方からこれをやりたいんだと発信してくれる。想定外のことがたくさん起きて、楽しい経験でした。これから稽古ですが、想定外のことが起きるんだろうなと思って、楽しみにしています。

《オーディションの道のり》
公募期間:2020年10月16日(金)〜11月11日(水) 男性役6役/女性役4役
書類選考:2020年11月14日(土)〜11月16日(月) ※1835人→280人
一次選考(モノローグ):2020年11月30日(月)〜12月6日(日) ※280人→80人
二次選考(ダイアローグ):2020年12月10日(木)〜12月18日(土) 全員決定
今回は三次選考を待たずに全員決定となった。
西沢栄治「劇場の底力になれば」

西沢栄治

ーーこつこつプロジェクトについて、西沢さんはいかがでしょうか。
 
西沢:僕がこつこつやるのが苦手なタイプで、8月31日に泣きながら宿題をやるタイプなんです。本当にこつこつやることが苦手でなぜ僕に声がかかったのかなと思っていたんですけど、あと2人の演出家(大澤遊、西悟志)がおりまして、1人ぐらい不向きなやつがいても面白いんじゃないかと思います。第一期という位置づけですが、感覚としては0期というか、制作からみんな手探り、なんだかコツコツってやっておりましたね。
 
一番初めにリーディングを小劇場でやらせてもらって、お客さんを入れて、それが一番派手でした(笑)。そのあと、内部発表が3回あったんですが、クローズになってしまったので、リーディングがこつこつプロジェクトの到達点だと思われていたお客様がいまして。1年かけて作品を育てていく企画なんだと言っても、世間的になかなか伝わらない状況でしたね。
 
しかしながら、稽古と発表を重ねていくうちに、芝居自体の強度があがってきましたし、もちろん発見があって、1回目の発表では分からなかったところに最終的には到達したような気がするのでね、時間をかけて作るのが不向きな私にとってはとてもよかったことですね。普段は時間とお金が限られる中で、初日に向かってしか作ることができないのですが、そうではない中で、決して結果を目指さなくていいんだというのは、とても豊かなことだと実感としてありました。
 
短期集中型で、出会って燃え上がって、うわーっと恋のよさみたいなのもあるじゃないですか。結婚して、長年付き合って出てくる味合い深さみたいな。両方愛なんだけど、どっちもいいなと思います。いつものように短い中でガッと作る良さもあるし、長く付き合っていく良さも感じましたね。
それこそ、公共の劇場でしかできないことですもんね。地下の稽古場で何かを作っている。それは面白いことじゃないですか。劇場の底力みたいになっていけばいいんだろうなと思っております。これからどうなっていくかは分かりませんが、頑張ります。

取材・文・撮影(一部オフィシャルより提供)=五月女菜穂

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