世界のトップダンサーと柚香光が集う刺激的な美のステージ 『マチュー・ガニオ スペシャル・ガラ ニューイヤーコンサート』が開幕
2025年1月3日(金)大阪・フェスティバルホールにて、『マチュー・ガニオ スペシャル・ガラ ニューイヤーコンサート』が開幕した。この度、舞台写真と開幕レポートが公開された。
20年にわたりパリ・オペラ座バレエ団のエトワールを務め、今春アデュー公演を控える偉大なバレエダンサー、マチュー・ガニオ。彼の新たな門出を祝うべく、世界のトップダンサーと、元宝塚歌劇団花組トップスター・柚香光(ゆずか・れい)が集う刺激的な美のステージ『マチュー・ガニオ スペシャル・ガラ ニューイヤーコンサート』が、1月3日(金)に大阪・フェスティバルホールで開幕した。
場内は新春らしい華やかさと熱気に満ち、生粋のバレエファンと宝塚ファンが入り交じっているような雰囲気が漂っていたが、演目ごとに熱い拍手が送られ、フィナーレは大喝采が巻き起こった。「ダンスール・ノーブル」と謳われるマチューが醸し出す気品と端正なテクニックはもちろん、奥深いバレエの魅力、稀有なダンサーである柚香の魅力を存分に浴びた観客は熱狂! さまざまな意味で至福の出会いとなったこのスペシャル・ガラでは、演目がパ・ド・ドゥ中心で、ラストに柚香光とマチュー・ガニオのキャリアと感性が響き合う斬新なデュエットを披露。“愛”がステージ上で昇華するような崇高な瞬間が何度もあり、このうえない多幸感に包まれた。
舞台は2部構成で、1部では『眠れる森の美女』『ロミオとジュリエット』『白鳥の湖』などクラシックバレエのドラマティックなパ・ド・ドゥや、コンテンポラリー作品が並んだ。スペシャル・ゲストの上野水香(東京バレエ団 ゲスト・プリンシパル)は、『眠れる森の美女』で王子そのものの容姿と実力を誇るジャコポ・ティッシ(オランダ国立バレエ団 プリンシパル)と、長身の二人ならではの美しい踊りを見せ、フィッシュ・ダイブも華麗に魅せる。
一方、ローラン・プティ振付の『ランデヴー』では、約16年ぶりの共演となるマチューを相手に、スリリングで妖艶な美女を長い四肢を存分に活かして踊り切った。ここでマチューはパリの夜の街にたたずむ不幸な青年のさまざまな思いを、一つひとつのステップや表情に込め、物語を“演じる”才能を見せつける。
またマチューはパリ・オペラ座バレエ団のエトワール、アマンディーヌ・アルビッソンと『ル・パルク』を官能的に踊り、“解放”へと振り切った男女の甘美な関係を、エレガントなクールさを放ちながら濃厚に届ける。アマンディーヌの透明感のある美しさ、長く共に歩んできたマチューとの息の合い方にも目を見張った。
ほかにもパリ・オペラ座バレエ団のシルヴィア・サン=マルタン(プルミエール・ダンスーズ)と、パブロ・レガサ(プルミエ・ダンスール)が、『ロミオとジュリエット』よりケネス・マクミラン振付の優雅なパ・ド・ドゥを。『ジュエルズ』より「ダイヤモンド」をアマンディーヌとジャコポが、まさにスターダンサーの煌めきをまとって華麗に踊る。
第2部は柚香の新作ソロ「新しき夜明け~大河を越えて~」からスタート。清水のり子の演出、大野幸人・川本アレクサンダー振付のこの演目は、手拍子が沸き起こるほどノリのいい音楽が使われ、1部とはガラリと雰囲気が変わる。昨年5月に宝塚歌劇団を退団し、男役という枠を取り払った柚香は、表現者・ダンサーとしてさらに魅力を増し、別次元のボーダーレスな輝きを放っているが、ホリゾントまで広がるフェスティバルホールに一人で立っても、ステージが埋まるオーラにまず感嘆。
新年の幕開け、柚香は初日の出のごとく、眩い照明のなかしゃがんだ姿勢から身体を少しずつ上げ、両手を広げると、十二支を表すダンスを12の光の円の中で見せていく。寅にも巳にもなりきれる柚香は、その後趣向を凝らした演出でエレガントな女性、長いジャケットの裾をなびかせて踊るクールな紳士と、名曲にのせて変幻自在の魅力を振りまく。そこには踊ることが好きという喜びや信念が、希望へと繋がるようなメッセージ性さえ感じさせる。思い出を包み込み、未知なる自分を模索するような、ストーリー性のあるソロダンスを終えて会釈する柚香に、温かく熱い拍手が送られた。
さらに2部では、シルヴィアが『瀕死の白鳥』で羽ばたこうともがきながら最期を迎える白鳥の儚さを、美しいポール・ド・ブラなどで繊細に表現。パブロは『ルネサンス』抜粋ソロでの、滑らかに繋がっていく高いジャンプなどで、ダイナミックかつ華麗なバレエを堪能させてくれた。
そしてラストにいよいよ、ジョルジオ・マンチーニ演出・振付によるスペシャルな新作デュエット「A day in the sun」が、柚香光とマチュー・ガニオの初共演で届けられた。クラシックバレエとショーダンスを掛け合わせた“挑戦”と奇跡の“融合”。それは始まりから衝撃的で、それぞれが歩み極めたスタイルで並んだ異質な二人が、徐々に理解し合い、ときに挑発や戯れを繰り返しながら、その“スタイル”を脱ぎ捨て、歩み寄り、信頼の証のごとく身体を相手にあずけ、さまざまなリフトを繰り返し、花びらにまみれて“愛”を成就させてゆく——。
二人だからこそ表現できる素晴らしい振付と世界観は、ただただ美しい。麗しさ、にじみ出る優しさ、クリエイティブな感性、そしてプロとして極めた心技体。柚香とマチューに共通すると感じられるものが多いからこそ、この奇跡のデュエットに胸を打たれるのかもしれない。場内は万雷の拍手に包まれた。カーテンコールでは裸足のままの柚香が舞台袖のマンチーニを手招きし、出演者7名とマンチーニが手を繋いで観客の喝采に応える。マチューの晴れ晴れとした笑顔に、新たな挑戦への充実感が溢れていた。
この公演は、1月6日(月)に愛知・Niterra日本特殊陶業市民会館 フォレストホール、1月7日(火)に東京・NHKホールでも上演される。
取材・文/小野寺亜紀 写真/瀬戸秀美