Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀4 虚淵玄ロングインタビュー②
TOPICS2025.02.19 │ 12:00
Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀4
虚淵玄ロングインタビュー②
およそ10年にわたって展開されてきた『Thunderbolt Fantasy Project』の完結編たる劇場上映作品『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀 最終章』の公開日まで、あとわずか。ここでは『最終章』に直接つながるTVシリーズ4期『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀4』について、原案・脚本・総監修の虚淵玄(ニトロプラス)にたっぷりと語ってもらった(全5回)。虚淵作品の根底にある哲学にも迫るこの記事を読んで、完結編の衝撃に備えていただきたい。
取材・文/前田 久
※本記事はTVシリーズ4期最終回までの内容を含みますので、ご注意ください。
Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀
霸王玉と花無蹤はものすごく神蝗盟らしいキャラ
――霸王玉(ハオウギョク)と花無蹤(カムショウ)についても聞かせてください。
虚淵 あのふたりは魔宮貴族と同様に、出番が予告されていたキャラでした。虫の紋章を持つモノリスが登場していたじゃないですか。あの紋章を作ってもらった分のキャラは全部出そうという構想はあったので「残りの蜘蛛と蜂をどうしよう?」というところから考え始めたんです。ここに至るまでにいろいろな神蝗盟(シンコウメイ)の法師を出してきて、みんな、それぞれ何かしらの矛盾を抱えたが故に、禍世螟蝗(カセイメイコウ)に傅(かしず)くことになったんだなという流れが見えてきた。そういう意味では、ものすごく神蝗盟らしいキャラになったなと感じています。
――ふたりが若干反目し合うところからスタートするのも、狙いがあったのでしょうか?
虚淵 そこを凜雪鴉(リンセツア)に付け込まれる、という流れは考えていました。結局、神蝗盟があれだけ人を揃えながらも、政府転覆にまで至らないのはなぜかといえば、不協和音が鳴っているから。中の人間たちが仲良くしていない、お互いの個性がぶつかり合って一丸になれないからこそ、国の脅威にはなりきらない。組織の規模として、神蝗盟はそれくらいのバランスという感覚はありましたね。
民意の足を引っ張らないと西幽は王制が維持できない?
――4期になって東離と西幽、魔界も含めて、それぞれの組織が単純な善悪ではなく、バランスを取って共存している描写がグッと濃くなった点も、作品の魅力につながった気がします。
虚淵 組織って、結局いちばん重要なのは「現状維持」のはずなんですよ。だから、それぞれの国の都合に応じて、それぞれのやり方でバランスをとっている。もともとは西幽も相当危うい国だったんじゃないかなと思うんです。うっかりすると民が力を持ちすぎてしまうような。だから、何らかのかたちで民意の足を引っ張らないと、王制を維持できないところまで追い詰められていたんじゃないかと。だから禍世螟蝗が、ああいうかたちで暗躍したんでしょうね。
――革命を防ぐために、国のトップが悪の組織を裏で作る、と。
虚淵 そこには民意を削(そ)ぐ狙いもありつつ、さらにはまともに団結したら一大反乱勢力になりそうな人たちを一カ所に集めて、反目させあいながらもひと括りにしてコントロールするという狙いもあったんでしょうね。逆マッチポンプとでもいいましょうか。悪の組織を、あの国の軍備を強化する口実に使えるくらいには危なっかしく、なおかつ本当の脅威にならないくらいにはナーフしながら運営していくというのが、禍世螟蝗が掲げた天秤で謀ったことだったんだろうな、と。
「死」と同じ、ひとつの結末としての「恋愛の成就」
――話を少し戻させてください。霸王玉と花無蹤があのような結末を迎えたのにも驚かされました。最初から、あのふたりの落としどころはここだと考えていたんですか?
虚淵 あの方向で凜雪鴉をぐぬらせるのは、前から考えていた構想ではありますね。「次に凜雪鴉の策略を打倒するのは、どんなヤツにしようかな」と考えたときに「恋愛脳かなぁ」と。「頭が桃色になっちゃって話を聞いてくれない」みたいな(笑)。以前の嘯狂狷(ショウキョウケン)とは別の方向で凜雪鴉を悔しがらせるならこれかな、というアイデアですね。
――『サンファン』の恋愛はなかなか成就しない、しても幸せになれないパターンが多いですが、珍しく幸せになるケースが神蝗盟のふたりだったというのは皮肉といいますか。虚淵さんは、今作における恋愛の成就に関しては、どんな考えを持っているのでしょうか?
虚淵 ドラマツルギーで言ったらひとつの終着なので、お客さんの受け止め方とは真逆だと思いますが、じつは死ぬことと変わらないんですよ。「死」と同じ、ひとつの結末のかたちとして「恋愛の成就」もある。恋愛が成就したあとのすったもんだを描こうとすると、また別のドラマになって、物語のジャンルが変わってきますよね。いわゆる活劇だとか、そういう別のテーマがある物語の中で、ひとつの要素としての恋愛というのは、成就するともう舞台から降りざるを得ない。死んで終わるか、ハネムーンに行って終わるかの違いでしかないというのが、自分の考えですかね。
凜雪鴉は自分の興味から外れたものは触る気も起きない
――霸王玉と花無蹤に関しては、もとは悪党だったけれども、敗北してすべてを失い、武器を捨てたことで、因果応報のくびきから許されている感もありました。ある種の勧善懲悪的な発想の中での、落とし前の付け方に関しての考えも聞いてみたいです。
虚淵 そうですね……何らかの使命とか矜持、プライドのような、自分に背負うものがあると、それが恋愛の邪魔にはなりますよね。そういったものがなくなったところで、ようやく素直な気持ちで、人と人とが結びつくことがあり得るんだろうな、と。霸王玉と花無蹤も、まだ神蝗盟でキャリアを積める望みがあったら、おそらく意地を張ったと思うんですよ。「もう組織の人間としては終わりだ」となったときに心に隙間ができて、ようやく組織じゃなく、個人としての幸せを探そうという気持ちにたまたまふたり同時になれた。だからこそ、あの場で関係が成就したというのはあると思います。
――それにしても、あそこで凜雪鴉が見逃すのは、彼の性格を考えるうえで面白い点のような気がします。あとで禍世螟蝗にそのことを軽くいじられたりもしますが……。
虚淵 まず「こいつらはせっかくの宝物を腐らせやがった」という怒りがあるわけですよね。上等な料理にハチミツをぶちまけられた、みたいな(笑)。ハチミツをぶちまけられちゃったあとなので、もう口には入れられない。盗むものを奪われたようなかたちなので、となると見逃すしかない。
――クズのような悪党だったら、自分のセッティングを台無しにされたから、自棄になって殺しちゃおう、みたいな発想もできる。でも、しないところが、凜雪鴉の流儀なんだなと。
虚淵 殺す手間すら惜しいんですよ。徹頭徹尾、凜雪鴉というのは興味があるものの方向性が一方向に限られていて、そこから外れたものに関しては触る気も起きないんです。
第3回(③)に続く虚淵玄うろぶちげん 株式会社ニトロプラス所属のシナリオライター、小説家。『魔法少女まどか☆マギカ』『PSYCHO-PASS サイコパス』『仮面ライダー鎧武/ガイム』『楽園追放 -Expelled from Paradise-』『GODZILLA 怪獣惑星』『OBSOLETE』など、数々の映像作品の原案や脚本を手がける。作品情報
武侠ファンタジー人形劇
『Thunderbolt Fantasy Project』シリーズ、堂々の完結!
『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀 最終章』
2025年2月21日(金)~全国劇場で上映決定!!
©2016 Thunderbolt Fantasy Project