Yahoo! JAPAN

中森明菜のデビューアルバム「プロローグ」は “いわゆる普通の17歳” の序章だった

Re:minder

1982年07月01日 中森明菜のアルバム「プロローグ<序章>」がリリースされた日

中森明菜ファーストアルバム「プロローグ」に感じた強烈な力


そのアルバムのA面にレコード針を落とした時の衝撃は、40年経った今も忘れられない。激しいピアノのイントロに続いて聴こえてきた「♪かーるくウェーブしてーるー」のボーカルは、どこかミステリアスで、心に何かを抱えているように聴こえた。特に、音程が上がる「ウェーブ」の部分は、声が眼前に迫ってくるような衝撃を受けた。

この「あなたのポートレート」から、B面ラストの「ダウンタウンすと~り~」までの全10曲を聴き終えた時、私はすっかり楽曲と歌声の虜になり、アルバムの世界観にずっと浸っていたいと思った。

これが、中森明菜のファーストアルバム『プロローグ<序幕>』を私が初めて聴いた第一印象だった。それは高校1年の冬で、巷では明菜の「セカンド・ラブ」が大ヒットしていた。多くのファンと同じように私はこの曲で明菜にハマり、アルバムも順を追って聴こうと思ったのだ。

明菜の曲はラジオや歌番組で聴いていたが、『プロローグ』の歌声は別物で、楽曲の世界に引きずり込まれる強烈な力を感じた。しかし、続けて聴いたセカンドアルバム『バリエーション』からは、個々の曲は気に入っても、そうした力は感じなかった。この違いは何なのか?

…ということで、私が『プロローグ』を聴いて感じた力の正体、というか独特の魅力を分析してみたい。どうやらこのアルバムには “17歳少女の夏マジック”が掛けられており、それがリスナーを引き付けてやまないと思うのだ。

アルバムアーティスト・中森明菜として


「明菜の歌姫伝説は、デビューアルバム『プロローグ』から始まった」―― こんな表現が、明菜を語る評論などでよく見られる。デビューアルバムと称しているのは、デビュー曲「スローモーション」がアルバムの先行シングルだったため。明菜は『プロローグ』に収録する全10曲をまずレコーディングして、その中からデビュー曲を選ぶという、アーティストっぽい作品作りをしていたのだ(この辺の経緯は指南役さんのコラム『40周年!中森明菜「スローモーション」にみるデビュー戦略、エースは遅れてやってくる?』に詳しい)。

背景には、『スター誕生!』で史上最高得点を叩き出した明菜の歌唱力を活かしたいレコード会社の思惑があった。明菜のアーティスト性を前面に出して、他の82年デビュー組との差別化を図ったのだ。それが、デビューから1年でシングル4枚、アルバム4枚(ミニアルバム『Seventeen』含む)という作品量産につながった。

そんな明菜が初めてレコーディングした『プロローグ』には、新人アイドルが歌うには難易度が高い作品が集められた。作家陣も、来生姉弟のほかはアイドルと縁遠い方々ばかり。ワーナー・パイオニア(当時)のディレクターで明菜を担当していた島田雄三氏によれば、「まずコンセプトを決めて、それぞれの作家さんが持つ色を考えながら『こういう曲を書いてもらえませんか』というお願いをしていた」らしい。『プロローグ』の制作でも、販売時期が夏で明菜も17歳を迎えたことから、「17歳の少女の夏」のようなコンセプトで楽曲を発注し、テーマ性を持たせたと思う。そんな同世代の心情を綴った楽曲に、私を含め多くの高校生の心が動いたのではないか。

テーマ性ある楽曲、緩急ある曲順… 心揺れ動かないリスナーはいない!


また、島田氏は明菜の楽曲を制作する上で、「嘘くさい歌は絶対に作らない。そのためには17歳の少女が持つ表と裏の要素を描く」と考えていた。これが明菜が持つ「ツッパリ、ナイーブ」という二面性と重なり、「少女A」や「セカンド・ラブ」のヒットに結びついたと言われる。

『プロローグ』では、この二面性が “少し背伸びした少女” のモチーフで使われているように思える。アルバム屈指の美しいスローバラード「イマージュの翳り」では、3歳年上の彼との失恋が歌われる。「見知らぬ世界に気づいたら 少女でいるにはせつなくて」という歌詞からは、大人と子供の狭間で揺れ動く少女のやるせなさが伝わってくる。同じ作家による「銀河伝説」も、3歳年上の彼との恋を、当時流行していた星占いと絡めて表現している。明菜の声が跳ね上がるサビは聴きどころ。際どい歌詞は、山口百恵の性典ソングを彷彿させる。

「あなたのポートレート」は、「スローモーション」と同じく来生姉弟の作品。男女の突然の出会いがテーマで、盗み撮りした写真を眺めては恋い焦がれる少女の歌詞が何ともいじらしい。哀愁が漂う明菜のボーカルも絶品だ。

一方、ツッパリ感を出した「条件反射」や、同棲を描いた「ダウンタウンすと~り~」では、明菜はロックなアレンジをバックに、鋭く突き刺すように歌っている。楽曲の内容に応じて歌い方をガラッと変えるあたり、歌姫の片鱗を感じる。A面ラストの「Tシャツ・サンセット」は、夕暮れの海岸にたたずむ少女を歌ったフォーク調の曲。明菜の高音が伸びるサビが印象的で、聴いていて切なくなる。

「ひとかけらのエメラルド」は、美しいスローバラード。幻想的なシンセサイザーをバックに、明菜はしみじみと、情感込めて歌い上げている。低音域をハスキーぎみに歌う前半と、キーがオクターブ上がる後半とのギャップもたまらない。ずっと聴いていたい珠玉の一曲だ。

こうしたセンチな楽曲のほか、明るいラテン系の「Bon Voyage」や、血液型占いがテーマの「A型メランコリー」を収録し、メリハリを持たせている。曲順にもドラマ性が感じられ、通しで聴くとアルバムの世界観に心が満たされる。

17歳の少女を歌って呼んだ“同世代の共感”


このように、少し背伸びした17歳の少女の夏模様を、同年齢の自分と重ね合わせるように歌っている点が『プロローグ』が持つ独自の魅力であり、楽曲に引きずり込まれる力の源泉だと思う。明菜のボーカルも全体的に技巧が足りない分、17歳らしく素直に生き生きと歌っている。だから、少女の内面が迫ってくるように聴けるのだ。

この”少し背伸びした17歳の少女”のモチーフは、同月発売のセカンドシングル「少女A」で “見かけはツッパっているが内面は臆病な少女” へと変化する。それは、突然の出会い、片思い、年上の彼との恋、同棲などを経験した生意気盛りの少女が、「いわゆる普通の17歳」だと自覚し、「似たようなことを誰でもしている」と悟る過程でもあった。そう考えれば「少女A」は、自分の二面性を自覚して受け入れた曲であると言えるだろう。そして明菜劇場も、序幕が終わり本編に突入する。

小沼純一氏は著書『発端は、中森明菜―ひとつを選びつづける生き方』のなかで、「中森明菜は、女性の自立、突っぱる女性というテーマと重なり合ったり、微妙にかすったり、あるいは時代の、ほんのわずかの先だったり、というところを歌っていました。だから共感を得ることができた」と述べている。これはまさに『プロローグ』にも通じる話だ。大人の世界に少し背伸びをして、二面性の自覚に”かすっている”少女の姿が愛おしく、甘酸っぱさを感じて、共感を呼んだのだろう。

参考文献・媒体
■ ヒットソングを創った男たち~歌謡曲黄金時代の仕掛人 / 濱口英樹(シンコーミュージック 2018年)
■ 発端は、中森明菜― ひとつを選びつづける生き方 / 小沼純一(実務教育出版 2008年)
■ 中森明菜はなぜ「かけがえのない存在」であり続けるのか 小倉ヲージ氏の証言とともにライブ映像を振り返る (リアルサウンド 2020年)

【関連記事】

おすすめの記事