川は神様のハイウェイだった? 現代の日本で失われつつある伝統的な「ムラとイエ」【眠れなくなるほど面白い 図解 民俗学の話】
【「日本民俗学」の基礎知識】日本人の生活基盤 ①「ムラとイエ」
減少つつある伝統的なムラとイエ
民俗学でいうところの「ムラ」は、行政単位としての漢字の「村」ではなく、複数の「イエ」が集まって構成される集落を指します。地方の農村に行くと、今もムラの形を見ることができます。
一般的には、ムラの中心には神社があり、その周辺には旧家が並んでいます。そしてムラ境を超えた周囲には耕作地(田畑)であるノラ(野良)があり、さらにその外には人間の手が入っていないハラ(原野)があります。
ハラの先にはヤマ(里山)がありますが、ノラとヤマがハラを挟まずに隣接していることも多いです。
ヤマのさらに先にあるオクヤマ(奥山)は、猟師や炭焼きなど山で活動する人びとを除くと、基本的に人が立ち入ることはなく、動物や精霊、カミの領域とされます。さらに険しい山を指すタケ(岳)になると、人間は修験者(山伏)くらいしか入れません。
ムラを構成するのが、人びとにとっての最小の生活単位である「イエ」です。日本では、基本的に長男がイエを継承し、単独相続を行うことにより家産(土地や財産)の分散を防ぎ、存続を図ってきました。
ただし、現代では、都市化や過疎化、価値観の変化などにより、伝統的な「ムラ」の拘束力や「イエ」の継承意識は希薄化しつつあります。
ムラを中心とした同心円構造
タケ(岳)
オクヤマよりもさらに遠く、高く険しい山岳地帯。信仰の対象となることが多く、山岳信仰の霊場として特別な意味合いを持つ。
オクヤマ(奥山)
里山よりも人里から遠く、手つかずの自然が多く残る地域。祖霊がやどる場所や神域として認識されることもある。
ヤマ(里山)
人里にもっとも近く、人びとの生活と密接に結びついた山林や低山。人の手が入ることで維持されている。
道祖神
村境や峠、道の分岐点といった「境界」に祀られるカミ。疫病や悪霊のムラへの侵入を防ぐ役割を担うほか、旅行安全、縁結び、子どものカミとしても信仰された。
墓地
墓地は、ムラ外れの一定の場所、とくにムラの境界に設けられていることが多い。
川
ムラを流れる川は、山(神域)と里(人間界)をつなぐ、霊力や霊魂、カミの移動経路と考えられた。また、ケガレを洗い流す浄化の場所でもあった。
【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解 民俗学の話』監修:島村恭則
【監修者紹介】
島村恭則(しまむら・たかのり)
民俗学者。関西学院大学社会学部長・教授。1967(昭和42)年、東京都生まれ。筑波大学大学院博士課程歴史・人類学研究科単位取得退学。文学博士(筑波大学)。国立歴史民俗博物館教官、韓国・翰林大学校客員教授、東京大学客員教授などを歴任。日本各地で民俗学調査を行うとともに、韓国・中国での調査・研究も行う。
近年は、世界民俗学史をふまえた民俗学理論の研究、とくに民俗学を国際的・学際的な「ヴァナキュラー文化研究」として再編成する議論を展開している。
著書に『みんなの民俗学 ヴァナキュラーってなんだ?』(平凡社)、『民俗学を生きる ヴァナキュラー研究への道』(晃洋書房)、『これからの時代を生き抜くための民俗学入門』(辰巳出版)、『昔話の民俗学入門 民間伝承の秘密を読み解く』(創元社)、編著に『現代民俗学入門 身近な風習の秘密を解き明かす』(創元社)などがある。