砂原良徳×LEO今井×白根賢一×永井聖一によるTESTSET、配信EPリリースとZeppワンマンを前に初の全員インタビュー
2021年8月20日、コロナ禍という事情で「アルコールと声出しNG、マスク必須、国内アクトのみ出演」という特殊な形で開催された『FUJIROCK FESTIVAL’21』にMETAFIVEとして出演が決まっていたが、それがかなわなくなる。メンバーのうちの砂原良徳とLEO今井は、その前にKT Zepp Yokohamaで収録した無観客ライブ(後日、同年11月20日に配信された)に、高橋幸宏の指名で参加したドラマー:白根賢一と、THE BEATNIKS(高橋幸宏と鈴木慶一のユニット)のツアーで、砂原良徳と共に演奏した経験のあるギタリスト:永井聖一にオファーを出し、4人で「METAFIVE特別編成」として、ホワイト・ステージに立った。
砂原としては、この一回きり、というつもりだったが、この年の『FUJI ROCK』はYouTubeで生配信されており、それを観たイベンター等から出演依頼が相次ぎ、2022年4月14日リキッドルーム(THE SPELLBOUNDと対バン)、5月5日大阪の『OTODAMA〜音泉魂〜』、5月12日福岡の『CIRCLE』、と、3本のイベント/フェスに出演。この段階で名前を「TESTSET」に改める。同年8月12日に、初音源『EP1 TSTST』をデジタル・リリース。その後もライブ活動を重ね、2023年7月12日にはファーストアルバム『1STST』を発表。さらにライブ活動を続け、2024年10月9日には、新曲4曲を収めた2作目のEP『EP2 TSTST』をリリースする──。
以上、ファン的には「知ってるよ」って話ですが、TESTSETが4人で活字でインタビューを受けるのはこのテキストが初めて、ということなので、あえて基本情報を書きました。とりあえず、『EP2 TSTST』には、「表題曲とカップリング3曲」ではなく「どの曲も表題曲レベルな4曲」が収められています。で、「METAFIVE特別編成」から今年8月16日の『SONICMANIA』まで、それなりな回数を観ている者として言うと、TESTSETのライブ、特に最近、良くなる一方です。この作品のリリース・ライブは、10月20日(日)Zepp Shinjuku。ではどうぞ。
──当初まで遡りますけども、まず、2021年の『FUJI ROCK』にMETAFIVEで出られなくなった。今井さんと砂原さんは出ることにして、永井さんと白根さんにオファーして「METAFIVE特別編成」として出演した。その時は砂原さんは一回で終わりのつもりだったけど、リキッドルームと『OTODAMA』と『CIRCLE』から出演依頼があった。というので、続いていったんですよね。
砂原:それで福岡の『CIRCLE』に出た日の夜に、「バンドとしてやろうよ」っていう話をして。内部的にはそうなることは決まっていて、徐々に、今の形に近づいていったっていう。僕らふたりはそういう考えだったよね?
今井:うん。
砂原:ふたり(白根・永井)は「めんどくせえ、もうバンドやりたくない」っていうつもりだったかもしれないけど(笑)。
──砂原さんも白根さんも、この歳から、もう一回新しいバンドをやるとは──。
砂原:いや……今55歳なんですけど、まだ身体が動いて、ツアーとか行こうと思ったら行けるし。あと15年とか20年とか経って、バンドやろうって言っても、そんなアクティブに動けないじゃないですか。やるんだったら今ぐらいからやんないといけないし、これが最後だろうな、というのもあるし。あとやっぱり、バンドが好きですよ、僕は。ソロ・アーティストって、その人のものだけど、バンドって、誰でもないから、誰でもないものができあがってくる、そこがやっぱりおもしろい。
──電気グルーヴをやめた時、この人もう一生バンドはやらないだろうな、と思いました。
砂原:だって、電気をやめた時って、20代ですよ?
──じゃあそのあと、30代の頃とかに、バンドをやりたいと思ったことってありました?
砂原:あのねえ、30代の頃とかって、人間が作り出す音を、僕、すごい嫌ってたんです。
──(笑)。
砂原:すべてがあざといと思って。ランダムに作り出される音とか、自然の音とかがいいと思ってたから、とてもじゃないけどバンドをやれるような状態じゃなかったと思います。
──どのあたりから、そんな気持ちが変わっていったんでしょうか。
砂原:気持ち、今も変わんないとこはあるんですけど、そうは言っても人間なんだからしょうがないじゃん、っていう(笑)。まあ、半分あきらめみたいなね。
──今井さんは? TESTSETを始める時も、砂原さんとふたりのユニットじゃなくて、バンドの方がいい、というのはあった?
今井:そりゃそうですね。ふたりのユニットはKIMONOS (向井秀徳とのユニット)があるし……バンドじゃないと意味がないじゃないですか。と、思いますよ。TESTSETに関しては。
──白根さんは?
白根:いや、うれしかったですよ。よく入れてくれたなって。もともとね、「緊急事態のMETAFIVE」だったから。ただそこで、ライブの手応えっていうか、このまま終わるのはもったいないな、と思ってたから。それが、流れで、あの……ありがとうございます。
今井・永井:(笑)。
砂原:ずいぶん端折ったね。
白根:すいません。まあ、流れるまま……ありがとうございます。
──また端折る(笑)。
白根:ただ、何をもって自分の中で、それがバンドか、そうじゃないかっていうと、自分の曲をね、バンドで展開できるっていうのが、これはバンドだな、という。それはずっと昔からそうだったから。バンドっていってもさ、いろいろあって。ひとりが曲を書いて、他のメンバーは演奏だけっていうのもあるけど。そういった意味では、すごく、バンドをやっている感は……そうだね、GREAT3以来だね。
──で、1年前にファースト・アルバムを作って、「そうだ、これこれ」ってなった?
白根:僕個人的にはね、まさにこのEPから、なったかな。3曲目の「Crybaby Drop」ができて。これは僕が最初にラフスケッチを持って来た曲で、それをまさにみんなで展開して。さっき砂原さんが言ってたような、「バンドって、自分じゃないじゃないですか?」っていう。自分の曲だけど、自分の曲じゃない。全然想像もできないところに着地したし。そこに連れてってくれたのは、このバンドだから。
──当然でしょうけど、他でいっぱいやっているサポートの仕事とは全然違う?
白根:そりゃあ違います。つうか、譜面がない。
永井:誰も作ろうとしない(笑)。
白根:あ、でも、「緊急事態のMETAFIVE」の時は、たぶん見てたんじゃないかな。
砂原:あの時は、みんなのところに譜面が渡ってましたね。僕はちゃんと見たことないけど。
白根:自分の中で、譜面を見てるバンドってどうなんだろう?って気持ちがあって。でも、そうだね、意識してなかったけど、気がついたらそうだ、俺、譜面を見てないんだ、と思って。普段は譜面を見ながら演奏することがいっぱいあるから。
砂原:(今井に)譜面、見る?
今井:いや、あんまり、読めないです。
砂原:あ、ほんと。僕も、ちゃんと読めない。ゆっくりだったら読めるけど。
永井:速度の問題(笑)。
──永井さんは?
永井:もともと『FUJI ROCK』に出た時に、東京駅に着いて、「お疲れ様でしたー」って別れる時に、「いや、たぶん、このまんまじゃ終わんないだろうな」とは思ってました。
砂原・今井・白根:はははは!
永井:あまりにも、ショットではもったいなさすぎるエネルギーの使い方をしたので、僕個人に関しては。このまんまじゃ終わらないだろうな、と思ってたら、終わらなかったので。そう言われるのを待ってました、という。
──で、「もちろん曲も書きますよ」と?
永井:それは、アルバムを作る時に「曲を書いてよ」ってなったから──。
砂原:いや、そりゃあね、「書けるんだったら書いてよ」ってなりますよ。
永井:「緊急事態」に出た時から、サポートという垣根は持たないでやっていたので──。
砂原:小山田(圭吾)くんのフレーズをなぞる、ではなかったもんね、あの時から。
永井:言語化が難しいけど、「そういう場なんだな、これは」みたいな。「完璧にこれをなぞってください」っていうサポートの現場は、ままあるんですけど、全然そうじゃない、誰も何も言わない、みたいな。で、解釈を、全然自分なりに織り込めるし、それがたぶんうまく噛み合ったんでしょうね。だから、もったいないと思ったのかもしんないし。そういうフィジカルな経験が……バンド感っていうのが、その時からあったのかもしんないです。
──この間の、7月19日のリキッドルームから、ライブの時の立ち位置が変わりましたよね。左から、永井さん、今井さん、砂原さん、白根さんだったのが、砂原さん。永井さん、今井さん、白根さんになった。
砂原:そもそも、バンド化しようっていう時に、僕の頭の中には、すでにこの構想はありました。新しいアーティスト写真を見てもらえばわかるんですけど、その立ち位置を示すような配置になっている(上の段が永井と今井、下が砂原と白根)。
白根:知らなかった(笑)。
砂原:このふたりをまんなかに並べて、ダブルフロントみたいな感じで。もちろんLEOくんの方が比率は多いにしても、その違いで……一緒に食べたらおいしいものってあるじゃないですか。なんか、そういうものだな、って僕は解釈をしていたから。
今井:ナイスアイデア。当然ですよね。なんで今までそうじゃなかったんだ、と思うぐらい。
砂原:いや、急にやると……METAFIVEからTESTSETになって、今の配置になると、「ん?」って戸惑う人もいるような気がするんですよね。ちょっとずつ変えて来たっていう感じなんです、だから。今、バンドのフォーメーションも新しくなって、やっと準備ができたっていう。で、永井くんも歌ってね。
──永井さんが歌う比率を増やしていこう、というのもあったんですね。
砂原:僕的には。1曲1曲バラで歌うのもあるし、絡みで歌うことも、今後はあると思うし。
──永井さん、「歌ってくれ」と指令が出た?
永井:いや、ないです。
砂原:それもなんか、流れで。
永井:でもなんか、ずっとLEOくんがひとりで黙々と歌っていて、僕はひたすらギターを弾き続けてるだけって……すごいハーモニーもあるし、カラフルな曲も多いから、俺がコーラスをやることで、バランスが安定するっていうか。METAFIVEとはまた違った色が出るなと思って。それで、弾きながら歌うウエイトがだんだん増えていったので、僕がメインボーカルになっても不自然じゃないっていう流れができたのかもしんないです。白根さんも然りなんですよ、実は。めちゃくちゃコーラスをしてるから。
白根:いやいや。
──ソロの作品では歌ってますしね。
砂原:全然GREAT3でも歌うじゃん。
白根:まあ、ちょろっとですけど。永井くんはすごい、いちばんTESTSETを客観的に……「ここはコーラスを入れた方がいい」とか、そういう意見、多いよね。自分がこうやりたいというよりも、ここはこうした方がいい、という、俯瞰でよく見てるなあと思う。
永井:いちばん年下だし、いちばんペーペーだから、こういう人が言いたい放題言うことで活性化されるというのもある、と思っていて。黙して多くを語らずにやる、玄人集団だとは思うので。
砂原:やっぱし、誰かが作ってきた曲に、他の人の要素が入ると、想像と違ったりするのが……想像と違うっていうかね、そもそも想像して頼んでないよね。
今井:うん。
永井:昔、相対性(理論)の最初の頃とか、バンドを始めた時って、リハスタを借りて、リズムボックスと弾き語りだけの歌に「せーの」でアレンジを付ける。TESTSETで遠隔でデータのやり取りをする中で、わりとそういう、バンドの初期の感じに近いプロセスはあって。僕の曲のデモが、みんなのフィルターを経て返ってくると、最初に入れていたギターじゃなくて、違うフレーズを入れたくなるんですよね。元のデモとは違うものになってるから、これに合うのは最初のフレーズじゃない、と。そういうのって、バンドじゃなきゃできないんじゃないかな、とは思います。そういう思考回路になるのは。
──そうやって、曲が4人の間を回って、できあがっていくうちに、どんどんポップスになっていく、という傾向はありません? 今回の4曲とも、聴いてそう思ったんですが。
砂原:いや、今回はたまたまじゃないかな。曲数が少ないからそうなったけど、もっと曲数が多かったら、そうじゃない曲もやってもいい、っていう感じになったと思うんですよね。
今井:あと、このEPは、TESTSETのソフト・サイドも探検してみようみたいな、そういう試みもあったから。そういう意味では、ポップネス……ソフト・ポップネス……ナイーブ・ソフト・ポップネス・サイドを──。
砂原・白根・永井: (笑)。
今井:それはEPだからできることかもしれない。その中で「Interface」だけ、ちょっと違うかもしれないけど。ただ、全体に、今までの作品でいちばんバンド感が出ているというか。この4人でしか出せない、化学反応みたいなものは、出てると思います。バンドの勢いというか、ワシャワシャ感は、今まででいちばん出てる感じはしますね。それはもしかしたら、ライブも重ねているから、ライブの鳴りをもっとイメージしながら──。
砂原:そうだね。
今井:砂原さんもミックスしたり、マスタリングしたりしてるから。かもしれないですね。
──1年ぐらい前に、砂原さんひとりでインタビューした時に、びっくりしたのが、「やっぱりライブが大事」という話をされていたんですね。昔は「ライブは苦手」って、平気でインタビューで言う方だったので。
砂原:それは、TESTSET自身が……完成っていう言葉がいいのかわかんないですけど、やっぱりライブですよ。曲を作って、レコーディングして、映像を作って、何を着るか決めたりとか、そういうものが全部集約されるのって、ライブですからね。レコーディングには、何を着て演奏しようとか、映像とかは集約されてないし。最後にいろんな要素が集まって形になるのは、ライブなんですよ。昔は、レコーディングがそういうもんだと思ってて、それをみんなに聴いてもらうためにライブをやる、っていう考え方だったけど、今はむしろ、レコーディングもライブのためにある、っていうふうに考えていますね。
──時代が変わった、というのも大きいんでしょうかね。
砂原:まあ、時代がどういうふうに変わったかっていうと、ある意味、本質に近づいてきている、ということなんじゃないかなと思うんですけどね。結局人間は、本当に得られるものは、体験しかないというふうに自分は思っていて。物を持っても、物と同化することはできないし。物は失くすかもしれないし、壊れるかもしれないし、手放すかもしれないけど、体験はもう自分から放すこともできないし。っていう意味で、本質に近づいているんじゃないかな、っていうことですね。たとえば、ビートルズのアルバム、こんだけオリジナルで持ってますよ、っていっても、死ぬ時にビートルズのアルバムを持って死ねないし。でも、死ぬ時は、体験と共に死んでいくわけですから。体験は人間と同化することができる、という意味で、本質ということですね。
──10月20日にZepp Shinjukuで、このEPのリリース・ライブがありますが。
砂原:その会場を選択した意味を僕的に言うと、ビジュアル面で、LEDのビジョンが、360度、ぐるっと囲む感じで、あるんですよ。
今井:360度ってことは、4つの壁に?
砂原:後ろとかは細いんだけどね。野球場のLEDみたいな感じで。僕的にはそれが大きいかな。映像を使ってやる曲が多いから。で、新しい会場で、音響機材もいいから。僕あそこで、けっこうDJをやっているんで──。
──ですよね、ZEROTOKYOで。(※Zepp Shinjukuは、深夜はZEROTOKYOとしてクラブ営業を行っている)。
砂原:それで「ここでライブやれたらいいなあ」と、毎回行く度に思っていたので。
──そうだ、永井さんはQUBITでやりましたよね。観ました(DAOKOを中心に結成されたバンド。2024年2月7日のイベントでZepp Shinjukuに出演)。
永井:あ、俺? うん、やったやった。
砂原:あ、ライブやったんだ?
永井:うん。でもその時は、映像は使ったけど、左右や後ろまでは使わなかったから。
砂原:そこも使います。それが大きいです、あの場所でやるのは。今までの自分たちを集約した形のものが、できるかなあと思うので。
今井:そうですね。
砂原:これが終わったら、ワンマンはしばらくないですから。制作もあるし。せっかく日曜なんで、観に来てほしいですね。
取材・文=兵庫慎司 撮影=Daiki Miura