大きな反響呼んだ新聞連載「青春を生きて ―歩生が夢見た卒業」の舞台裏と書籍化への思いを担当記者に聞きました!【作家さん!いらっしゃい】
骨のがん「骨肉腫」と闘った磐田市の女子高生と家族の闘病記が小冊子に
皆さん、こんにちは。静岡新聞社編集局出版部のマッサンこと、増田です。プロ・アマ問わず、本を執筆した作家さんの想いや本音、本作りの裏側などをインタビュー形式でお伝えする「作家さん!いらっしゃい」。
第3回目の今回は、2024年に大きな反響を呼んだ新聞連載を基にした「青春を生きて―歩生が夢見た卒業」の著者で静岡新聞記者の武田愛一郎さんをゲストに迎えました。このコーナーに現役の記者が登場するのは初めてです。取材の舞台裏や書籍化への想い、その記者が感じた新聞と書籍の違いなどを伺います。
闘病するAYA世代(思春期・若年期)の教育問題に切り込んだ「青春を生きて ―歩生が夢見た卒業」
―まずは取材・執筆した新聞連載について改めて概要を教えてください。
武田:骨のがん「骨肉腫」を患い18歳の若さで亡くなった磐田市の女子高校生、寺田歩生さんとご家族の4年に及ぶ闘病記を軸に、がんと診断された若者の教育問題を掘り下げました。卒業を夢見て学校に通い続けた歩生さんを通して、生きることや学ぶことの意味などを問いかける内容です。2024年1月1日に序章を掲載し、その後3月27日まで、静岡新聞に掲載されました。
―新聞連載が1冊の本になった時の率直な感想を聞かせてください。
武田:とても感慨深かったです。取材でお世話になった方々に出版したことを伝えると、多くの方から「おめでとう」と言っていただきました。当たり前ですが、新聞記事を書いても「おめでとう」と言われることはないので新鮮でした。自分が手がけた本が書店に並んでいるというのは、今も実感が湧いていません。
―なぜ、寺田歩生さんを取材しようと思ったのですか。取材を始めたのは、歩生さんが亡くなられた後。武田さんが本社の社会部に在籍している時ですよね。
武田:歩生さんの存在を知ったのは、病気療養している高校生への遠隔授業(オンライン授業)に関する取材を静岡市内でしていた時です。取材に応じてくれた方々をたどっていったら、遠隔授業の導入のきっかけを作った歩生さんに行き着きました。
磐田市内のご自宅に最初に伺った時に、ご家族から聞いた歩生さんの話があまりに衝撃的で、その生きざまを多くの人に知ってもらいたいと思ったんです。歩生さんの病状は深刻でしたが、ごく普通の高校生として明るく過ごしていた様子が、ご家族の話からありありと伝わってきました。
病状の悪化で片足を失っても、卒業を目指して学校に通い続けるというだけですごくないですか? 詳細は「あとがき」に書いていますので、ご一読いただければと思います。
―取材の中で、特に印象的なエピソードあれば、聞かせてください。
武田:歩生さんのお母さんに最も長く取材させていただきました。まな娘に先立たれるというのは、非常につらいことだと思いますが、取材の時は、とても気さくで明るい雰囲気で闘病生活や幼少期について語ってくれました。思い出話に花を咲かせ、面白いエピソードを楽しそうに話してくれることもありました。
そんな姿に接すると、悲しみは癒えているのだろうか、いやそんなはずはないとの思いが入り交じり、お母さんの心がなかなか読めずにいました。5、6回通った頃だったと思います。歩生さんが亡くなった日のことを尋ねました。大事なことなのでいつか聞かなければと思っていましたが、とてもセンシティブなことなのでなかなか聞けずにいました。
ある日、話の流れから思い切って切り出すと、お母さんは、当日の出来事を振り返っているうちに感情を出されました。その時、初めて「母の本心」に触れた思いがしました。最愛の娘を失った悲しみやつらさ、癒えぬ思いをひしひしと感じました。普段は明るいだけに余計、胸が締め付けられる思いでした。
―書籍化にあたり、本文を加筆・修正したほか、新聞未掲載の日記や写真、ご家族の手記などを収録しています。新聞記事と本との違いで感じたことはありますか。
武田:新聞は紙幅(紙面)に限りがありますし、日々読み切る形になります。「青春を生きて」の連載は、1回あたり約700字と決まっていましたので文章をなるべくコンパクトにしたり、表現も簡潔にしたりしました。泣く泣く割愛したエピソードもたくさんありました。
一方で、本は新聞に比べて紙幅に余裕がありますし、読み手の心構えも、じっくり読むことを想定していると思います。一文一文が短いとブツブツ切れてしまいリズム感を持って読めないと思い、長めに書けるところは長めに書いたり、表現の仕方もより細部にこだわったりと自分なりに工夫してみました。
―今回の取材を通して、ご自身の中で変化したことなどはありますか。
武田:歩生さんから、どんな状況に置かれても精いっぱい頑張る姿勢を学ばせてもらった気がします。自分は甘い人間なので、つい怠けたくなったり、こんなもんでいいかなと思ったりしてしまいますが、歩生さんのことを思い出すと恥ずかしくなって「もう少し頑張らないと」と思います。歩生さんが生前に作った小物をご家族からいただいたのですが、職場の自席に飾って「見張り」をしてもらっています。
武田:先の質問でも答えましたが、本は新聞より詳しく書くことができますし、本ならではの書き方があるように思います。新しい書き方を試すことは新聞記事の書き方を考えることにもつながります。
ブックレットには、新聞連載ではスペースの都合で割愛した逸話を数多く盛り込み、家族の手記、歩生さんが闘病中につづった日記なども載せました。歩生さんの生きざまや若い世代のがん闘病の現状、青春の意味、家族や友人の存在など、いろいろな視点が入っています。ぜひ手にとっていただきたいと思います。きっと、いろんな気づきがあるはずです。
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