1歳半健診で脱走、号泣…検査不能でも「要観察」。「発達障害かも」と言い出せなかったあの日
監修:鈴木直光
筑波こどものこころクリニック院長
1歳半健診を前に「発達障害かもしれない」と感じていた
生まれてすぐに育てづらさを感じていた娘ですが、ついに1歳半健診の通知がやってきました。1歳半を過ぎた娘は、発語は「ママ」「わんわん(数回)」の2つのみ。指差しは出ていません。まだ夜泣きがあり(生まれてからずっと朝までまとめて寝ることはない)、偏食と少食。そして多動がありました。
うっすら「発達障害なのでは……」とその頃には考えていたので、もし指摘された場合はすぐ動こうと思っていました。
健診会場に着くまでに母は疲弊。しかし娘は…
当日、1歳半健診の場所まで密室の公共機関=電車に乗って行かなくてはならないので、そこへたどり着くまででかなり気疲れしていました(わが家に自家用車はありません)。
無事1歳半健診の会場に着き、手続きを終えると、私は下ろしてくれと暴れる娘を抱っこ紐から解放しました。その途端、走り出す娘。そしてまさかの身体測定室に乱入していきました。私は慌てて娘を追いかけて抱っこして部屋から出ようと思いましたが、娘は叫んで暴れます。やっと部屋から出るとその様子を待合室にいる方たちがびっくりした顔で見ていました。私は視線に耐えられず、そそくさと隅っこのソファに座りました。
娘をなだめながら、隙あらば走り出す娘を連れ戻し、持参した音が鳴る本や絵本を高速でめくったりして(本の内容には興味ありません)、待ち時間をどうにか過ごしました。
ずっと号泣しっぱなしの娘。保健師さんとの面談はできる?
1歳半健診で1番はじめにしたことは、身体測定です。娘はそこで服を脱がされた瞬間から終わるまで号泣でした……。その後の内科検診、歯科検診も号泣。ほかにも泣いているお子さんはいたので内心「うちだけじゃなかった……」とホッとしたのを覚えています。
最後は保健師さんとの面談です。さっきまで泣いていた娘がちゃんとできるのかドキドキしながら挑みました。まずは積み木を使った検査でしたが、娘は積み木や重ねコップなどのオモチャが大好きだったので、私は「これならできるかも」と期待しました。ですが、娘は保健師さんの指示や見本に従わず、自分のやりたいように積み木を積んだり、手に持って遊んだりしています。
これ以上はできないと悟ったのか、保健師さんは積み木を片づけようとしました。そして娘に「手に持っている積み木をちょうだい」と言いましたが、娘はもちろん手放しません。私は謝りながら娘の手から積み木をもぎ取りました。そこから娘は怒り、保健師さんの声がけも聞かなくなってしまったため、結局ほかの検査はできませんでした。
保健師さんの沈黙、そして「要観察」に。最後に隣の子どもの様子が目に入り…
その後に発語の確認があり、私は暴れる娘を膝の上で抱えながら「ママは言えます」と伝えました。すると保健師さんに「……パパは言えませんか?」と聞かれました。「まだパパは言えないです」と答えると、保健師さんは少し沈黙し、「2歳になったらお電話で発語が増えているか確認させてください」と言いました。検査がほとんどできていないのだから仕方ないと思いつつも、(やっぱり要観察になってしまった……!)とショックでした。
でもすぐに「この子は何か発達に問題があります」と言われず、2歳になったら……と言われたことで(2歳まで様子を見ていいんだ……もしかしたら発達障害ではない可能性もあるの?)とも思ってしまい、こちらからはそれ以上何も言わずに面談終了となりました。
面談が終わり席を立った時に、隣のテーブルでほかのお子さんが面談をしている様子が見えました。ちゃんとお母さんの膝に座り、興味津々に検査に取り組んでいました。そしてママをしっかりと見つめていました。それは私が理想として思い描いていた健診での親子の姿でした。
1歳半健診を振り返り、今思うこと
今思えば、その時点で保健師さんに「育てづらいし発達障害ではないかと疑っている」旨を伝えるべきでした。でも私は「2歳になったら」という言葉にすがり、現実から及び腰になってしまいました。
その後、娘に発達特性がたくさん見られるようになったため、2歳を待たずに自ら保健センターに発達相談の電話をしました。もちろん後悔もありますが、”私が娘の発達障害を受け入れるために必要な期間”の半年だったと思うようにしています。
これがわが家の1歳半健診の様子です。正直今思い出してもつらかったですが、あの経験があったから今があると考えています。
執筆/マミヤ
(監修:鈴木先生より)
言葉の出方には個人差があり、一般的には2歳までに単語が、3歳までに2語文が出ればいいとされています。1歳半健診で子育てに困難がある場合や何とも言えない場合は2歳でも対面のフォローが必要だと私は常々思っています。親御さんにおける神経発達症の受容には時間がかかることもあります。しかしできるだけ早く告知して受容が進み、療育につなげられれば親御さんの負担やストレスは多少軽減されるはずです。困ったらすぐに相談できる体制づくりも必要です。そして神経発達症のお子さんに理解のあるかかりつけ医を早めに見つけてフォローしてもらうことも重要です。みんなでチームを組んでお子さんの困難に向き合っていける社会づくりが急務なのです。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。