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第15回 草花と四季をめぐる本 ~「植物忌」

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星野智幸(著) 朝日新聞出版(2021/5/7)、ISBN978-4022517609

植物のことを学び・知ることはもちろん、ゆったりとした気持ちで花を眺め、癒される、そんな「本」を、ブックコーディネーター・ライターの尾崎実帆子さんが紹介していきます。

「植物忌」 

星野智幸(著) 朝日新聞出版(2021/5/7)、ISBN978-4022517609

植物をモチーフとした幻想的な小説が11編収録されている短編集。第1編「避暑する木」に登場する「植物の殿堂『からしや』」はほかの短編にも幾度も登場したり(「からしや」については最後から2編目の「あまりの種―あとがき」によって実態が判明)、“植物たちの反乱”を鎮圧する特殊工作員「ネオ・ガーディナー」が何編かに登場するなど、各話に少しずつ関連性がある連作集でもあります。

 

[収録作品]
避暑する木
ディア・プルーデンス
記憶する密林
スキン・プランツ
ぜんまいどおし
植物転換手術を受けることを決めた元彼女へ、思いとどまるよう説得する手紙
ひとがたそう
始祖ダチュラ
踊る松
桜源郷
喋らん

どのストーリーにも根底に共通しているのは、いずれも植物(架空の植物もあれば実在の植物もあります)と、人間とのあいだの境界線が少しずつ不穏に浸食されていく感覚です。例えば、タトゥーのように草花を皮膚に移植した「スキン・プランツ」から生まれる子ども。例えば、植物転換手術を受けた男。例えば桜の瘴気(しょうき)を吸って“桜化”してしまった恋人。植物と人間との差異があいまいになり、人間が“植物化”していきます。

 

植物の反乱に最前線で戦っていた者が「人間を辞めて草になる」と語った「ひとがたそう」に続く「始祖ダチュラ」では、「人間はすでに植物に仕える側になっている。革命はもう成就している」と“植物世紀の始まり”を予感させます。薄気味悪さを感じつつも、もしかしたら地球の自然環境にとっては、本当に植物の戦略が正しいことのような気がしてきます。

植物に日常的に接するガーデナーの皆さんにとって、これらの物語はどのように感じるでしょうか? 日々成育を楽しみ慈しむ対象の植物たちを見る目が、少し変わるかもしれません。植物たちの得体のしれない確固たるポジティブさと、人間たちの寄る辺ない所在のなさが印象的で不思議な余韻が残ります。人間が植物たちに取り込まれてしまうという怪しさと美しさが共存する世界観に、しばし浸ってみてはいかがでしょうか。

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