『果てしなきスカーレット』舞台挨拶in北海道「自分ではなく子どもの幸せを願う言葉に」細田監督の想い
2025年11月30日(日)、TOHOシネマズすすきのにて『果てしなきスカーレット』の“果てしなき全国キャンペーン in 北海道”舞台挨拶が開催されました。11月21日(金)に公開された本作は、細田守監督が4年以上をかけて制作した最新作。上映後の会場には大きな拍手が起こり、温かな空気に包まれました。
細田監督は登壇すると、キャンペーン続きで声が枯れてしまっていたことを明かしつつ、札幌に来てセイコーマートで買った滝上町産のミントキャンディを舐めたところ喉が回復してきたと語り、会場は和やかな空気に。北海道の食や環境の話題でも笑顔を見せていました。
芦田愛菜さんが見せた“普段とは違う声”。監督が語るスカーレット像
スカーレット役の芦田愛菜さんについて、細田監督は普段の芦田さんの可愛らしいイメージとは異なる表現を見せたと語りました。本作では「地を這うように泥だらけになりながら前に進む人物」としてスカーレットを演じたとしています。
芦田さんは収録時、「声を吹き込むというより、魂を吹き込むつもりで演じました」と話していたことも紹介しました。監督は、彼女が持つ責任感や覚悟がスカーレット像と重なると感じ、今回の出演を依頼したと説明しました。
父の言葉に込めた細田監督の現代的視点
物語の鍵となる、王がスカーレットに残す言葉。このセリフが生まれた背景には、細田監督の明確な意図があります。
細田監督は、作品のベースにシェイクスピアの『ハムレット』があることにふれ、原作では父が「私を殺した相手を許すな」と伝えると説明。そのうえで、「現代の親なら、自分のために復讐を求めるのではなく、子どもの幸せを願うのではないか」と考えたと語りました。その結果、父の言葉にスカーレットはより深く悩むことになりますが、復讐の連鎖からどう抜け出すかというテーマへと繋がっていったといいます。
高品位な劇場で堪能できる新たな映像表現への挑戦
本作で細田監督は、アニメーション表現の新しい可能性に挑みました。
日本の手描きアニメーションの伝統を活かしながら、近年の映画館の高精細な映像設備・音響設備に応えるため、画面の密度を徹底的に高めたと説明。
「高品位な劇場で十分体感できる密度で作ること」が求められ、制作には多くの試行錯誤と時間がかかったと振り返りました。
メイキング映像でも見られる通り、大人数のスタッフが緻密に作り込んだ作品であり、こうした新しいビジュアル表現を目指したと述べています。
“答えは観客の中にある”ードラゴンが持つ多義性と余白
劇中に登場するドラゴンは、海外の映画祭でも多くの解釈が寄せられた存在です。
細田監督は、ドラゴンをあえて説明しないつくりにしたと説明。神の存在、運命、自然災害、あるいは人々の意思の集合体など、各国の観客から多様な捉え方が出たと話しました。
前作『竜とそばかすの姫』も「ドラゴンと姫」の組み合わせでありながら、今回とは全く異なる物語になっていることにもふれ、モチーフの可能性について語りました。
監督は自身の考えもあるとしながら、観客が自由に解釈する余白を残すため「正解は言わない」と述べています。
“気づきが祝福される場所”ー渋谷の音楽シーンに込めた意味
印象的な渋谷の音楽シーンについて細田監督は、スカーレットが「復讐に囚われた自分ではなく、もっと別の“本当の自分”に気づく瞬間」と位置づけていると語りました。
その“気づき”を象徴するために、渋谷の街が踊りと音楽で満ちる演出を用い、まるで彼女の内面の変化が祝福されているように見える場面にしたと説明しています。監督はまた、黒澤明監督『生きる』のワンシーン——主人公が自分の役割に気づいた瞬間、周囲の手拍子がまるで祝福のように響く場面——を思い浮かべながら作ったと明かしており、スカーレットの転機を、祝福のムードで彩ったと述べました。
細田守監督が北海道で伝えたメッセージ
最後に細田監督は、「この映画を選んで観ていただき、本当にありがとうございます」と感謝を述べ、本作が細かく作り込まれた作品であること、そして良い劇場環境で観てもらえたことが嬉しいと語りました。
映画表現はこれからも進化していくと述べ、観客へ「これからも映画を楽しんでほしい」とメッセージを送り、舞台挨拶は締めくくられました。
『果てしなきスカーレット』の基本情報
■監督・脚本・原作
細田守
■キャスト
芦田愛菜
岡田将生
山路和弘 柄本時生 青木崇高 染谷将太 白山乃愛 /
白石加代子
吉田鋼太郎 / 斉藤由貴 / 松重豊
市村正親
役所広司
■公開日
大ヒット公開中
■配給
東宝、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
■公式サイト
https://scarlet-movie.jp/