職場の屈辱すぎるルール トイレは派遣だけ別の場所、しかも「漏れそうな時は外の植え込みで…」
最近は同じ職場で正社員や契約社員、派遣がデスクを並べて働くことは珍しくない。しかし、派遣だけがあからさまに“区別”される職場もあるようだ。
大手自動車部品メーカーの子会社に派遣された藤田さん(仮名、40代男性)は、正社員と派遣社員との間の露骨な格差に直面したという。驚くべきことに、正社員と派遣社員でトイレが区別されていたというのだ。
「自分が仕事をしていた開発実験棟のトイレを、派遣社員は使用できませんでした。代わりに、一般の来客者が使用するトイレを使用するように言われました」
そのため藤田さんは、トイレのために往復10分以上をかけて、別の建物まで移動せざるを得なかったという。一方で、切羽詰まった時のために、派遣社員の間では「暗黙のルール」もあったが、かなり屈辱的なものだったようで……。藤田さんに詳しく話を聞いた。(文:天音琴葉)
正社員が何でも最優先、派遣は序列最下位
メーカー系の派遣会社に所属していた藤田さんに数年前、技術者派遣としての仕事が舞い込んだ。派遣先は、大手自動車部品メーカーの子会社だった。
だがそこは、正社員と派遣社員との間に格差がある職場だった。設備の使用について「正社員が優先」という明確なルールがあったという。
「一に正社員、二に定年後再雇用社員、三に契約社員、パート、アルバイトとのことでした」
この中に派遣社員が入っていないが、藤田さん曰く、「派遣は取引業者、協力会社と同じで、外部の人間という扱い」で、最下位も同然だった。このルールを藤田さんは着任時に知ることとなる。
「派遣先の部署に紹介される時、派遣会社の担当者から伝えられて、働き始めてからも同じ派遣の先輩からも聞きました」
複数の人間が伝えてきたことからも、その職場では広く知られた絶対的なルールだったことがうかがえる。
「正社員が優先」ルールはトイレにも適用された。冒頭の通り、派遣社員は正社員が使う「開発実験棟のトイレ」を使えず、来客者が使う「事務管理棟の1階のロビーのトイレ」を使用させられた。
問題は、藤田さんが働いていた開発実験棟から、使用を許可された事務管理棟のロビートイレまでは、かなりの距離があったことだ。
「晴れの日で早くて5分。雨の日だと傘を差して10分くらいでした」
トイレに行くたびに往復10分以上、使用時間を含めると15分から20分が費やされる。業務への支障は明らかであり、「正社員が優先」というルールを生理現象であるトイレにも適用するのは、どう見てもやり過ぎだ。
「派遣の人間を馬鹿にしている」仕事へのモチベーションが低下
開発実験棟には個室トイレが4つあり、藤田さんが働き始める前は派遣社員も使えていたという。ところがある時、個室の1つを派遣社員が使用中で正社員が待たなければいけなかったことがあり、以来、派遣社員は開発実験棟のトイレの使用を禁止されたそうだ。
この理不尽なルールの根底には、前述の通り、派遣社員を「外部の人間」とみなす会社の姿勢もあるだろう。さらに正社員と派遣社員では、作業服やヘルメットの色、デザインが異なり、一目で違いが分かる状態だった。そのため、ルールは守るしかなかった。
藤田さんはトイレルールを知らされた時の心境をこう語る。
「派遣の人間を馬鹿にしているか下に見ていると思いました。正社員、定年後再雇用社員、契約社員、パート、アルバイトは直接雇用だから会社の人間で、派遣は取引業者、協力会社と同じで外部の人間という扱い。自分なりにこの会社で業務に真剣に取り組んでいたつもりですが、モチベーションは低下しました」
なお、このトイレルールは会社全体ではなく、この職場独自のローカルルールだったというが、藤田さんがルールを破ることはなかったそうだ。
「トイレを我慢することもあり、苦痛に感じました」
とは言え、生理現象ゆえに我慢できないこともあっただろう。そんな時のために、派遣社員らの間には信じられないような「暗黙のルール」もあったと明かす。
「外の植え込みで靴紐を結ぶ振りをして……」漏れそうな時の暗黙のルールも
「漏らしそうになったら、開発実験棟の外の植え込みで靴紐を結ぶ振りをしてしゃがんでおしっこをするというものでした」
この方法は派遣の先輩から聞いたという。その光景を実際に目撃したこともあった。
「ある先輩と2人で作業していた時に、先輩が我慢できないからと用を足していたのは見たことがあります。自分が見たのはその1回だけですが、他の派遣の人の中には複数回見た人がいました。僕自身はしたことはありません」
「外でしているところを正社員の人に見られると総務部に通報されます。そこから派遣を監督する部署に連絡が行き、派遣会社が厳重注意を受けます。なので、していないように見せるための工夫が、しゃがむことだそうです。事業所の敷地内には監視カメラがあちこちにあるので、靴紐を結ぶ為にしゃがんでいるふりをすれば逃げることができると聞きました」
しかし、この最後の手段を実行する羽目になれば、自尊心が傷つくに違いない……。結局、藤田さんは働き始めてから半年後、この職場を去った。
直接のきっかけは、派遣会社から別の新事業所への異動と、その後の契約社員・キャリア社員への登用の可能性を打診されたことだった。一見キャリアアップのチャンスにも思えるが、藤田さんは家庭の事情もあり、派遣会社自体を退職することを決意する。
「派遣先は人を差別的に扱う会社でした。そうした会社を紹介するような派遣会社でこれ以上仕事をしたくなかったので退職しました」
理不尽なトイレルールが直接の退職理由ではなかったとはいえ、日々の業務で感じる屈辱的な扱いは、藤田さんの職場に対する不信感を決定的なものにしたことは想像に難くない。
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